62.苦しい練習試合
週末になり、これから練習試合が始まる。今日は対戦相手が俺達の学校に来ているので試合前からいろいろと準備があって面倒だった。こういう時は部員が少ないので大変なのだ。
「やっとウォーミングアップが出来るな……」
「ふふっ、そうね。どう今日の調子は?」
「うん、そうだなぁ……」
「えへへ、楽しみだよ」
同じく準備の終わったしーちゃんが笑顔で隣にやって来た。しーちゃんにとってマネジャーになって初めての対外試合になる。ちょっと興奮気味のしーちゃんとは対照的にこれまで何度も試合を見てきた結奈は普段通りだ。
「あんまり期待するなよ、今日は練習試合だからな」
「うん、分かってるよ」
「本当かな……ちゃんとマネジャーの仕事をしてくれよ……」
「もう、あおくんは失礼だな」
頬を膨らませて拗ねた表情をするしーちゃんを見て俺は小さくため息を吐いた。俺達も練習試合という事で公式戦より緊張感はないが、しーちゃんはあきらかに浮かれている感じがする。この前、結奈から中学時代の話を聞いて練習の時から浮き足立っていたように気がしていた。
「そんなに楽しみなのか?」
「うん!」
「……さっきも言ったけど練習試合だぞ」
「分かってる。でもね、初めて間近であおくんの試合姿を見れるから楽しみなの。それに結奈ちゃんも言っていたからね、あおくんは凄いって!」
しーちゃんの目は期待に溢れて本当に早く試合を見たい気持ちでいっぱいのようだ。さすがにここまで期待されているといい加減な事が出来なくなってきた。対戦相手は強豪校ではないけどそれなりに強いチームなので簡単に勝てる相手ではない。
「……そんなに凄くないよ」
結奈はしーちゃんにいったいどんな説明をしたのか分からないけど、練習試合と言って手を抜く事はしない。これ以上しーちゃんと話しても期待されるだけなので、立ち上がって本格的に体を動かし始めた。
「うぅ、もう後ろ向きなことばっかり言って……じゃあ、頑張ってね」
ちょっと邪険にした態度に見えたのかしーちゃんは拗ねた表情になって結奈がいる方向に向かって行く。後ろ姿を見ながら違う言い方が良かったのかとさすがに心が痛んだ。
両チーム共にウォーミングアップが終わりいよいよ練習試合が始まった。予想通り試合開始早々から相手チームのプレッシャーは強かった。プレッシャーは想像していた以上でチーム全体が萎縮してしまっている。いつものオフェンスが出来ていないし、デフェンスも今ひとつと言った状況だ。
「やっぱりこの前の一年生大会の結果だな……」
「あぁ、そうだな。簡単に攻めさてくれないみたいだな」
相手チームがシュートを決めてゴール下から永尾にパスを出す。険しそうな表情をした永尾と思っている事は同じようだ。様子を見ながら攻めようとしていたが、そんな余裕はなさそうな気配がしていた。俺が気合を込める様に力強く手を叩き永尾からボールを貰う。永尾以外のメンバーも感じたみたいでチームの雰囲気が変わった。
ガードの山西にボールが渡ると永尾が囮になりコースが開いて俺が走り込みパスが出る。すぐに相手チームがコースを塞ぎシュートをさせないようにブロックをしてくる。俺はボールをスリーポイントのライン上にいる山寺にパスを送ると相手をかわしてリバウンドを取る為に移動する。
パスを貰った山寺は相手マークが来る前にスリーポイントシュートを放つ。ボールは弧を描きリングに届くが決まらないが、俺のいる所に弾かれたボールが落ちてくる。そのボールをしっかりとキャッチして相手がブロックしてくる前に素早くジャンプしてシュートを決めた。
「さぁ、ここからだ!」
地味ながら俺たちチームの初得点を確実に決めた。その後は調子を取り戻して得点を取っていくが、相手チームも負けずに得点を取り返してくる。結局、点差が縮まる事なくハーフタイムになった。
「結構、タフな試合になったな……ここまで厳しいマークがつくとは思わなかった」
息を切らして俺はベンチに戻って永尾の隣に座ろうとしていた。
「……そうだな、これだけお前にマークがつくと攻撃力は半減してしまう。このチームの一番の問題点だ」
どかっと永尾がベンチに腰を掛けて腕組みをして難しい顔をし始めた。山寺や村野の調子が悪い訳ではない俺にダブルチームでマークがついているからチャンスがあってしっかりと点はとっている。
しかしさすがに相手チームは二年生が中心のチームで、連携という点では俺達のチームよりかなりしっかりとしている。
「それにこれから後半は体力的に厳しいよな……」
一年生大会ではなんとか乗り切れたが、まだまだチームとしては難しいところがある。それに想像していたよりも相手チームの実力が上だったみたいだ。あきらめた様な声を出していると永尾は何故か俺の顔を見てニヤッと笑う。
「……でも負けたくないだろう?」
「あぁ、そうだな、練習試合と言えど負けたくはないな」
「そうだろうな、お前の目はまだあきらめてなさそうだからな、ははは……」
暗かった雰囲気が変わってきて、やってやろうという空気になった。そんなやり取りを見ていた山西達も明るい表情に変わり、後半に向けて良い雰囲気になってきた。




