61.思い出としーちゃんの気持ち
放課後、いつも通りに練習が始まった。結奈としーちゃんは仲良さそうに二人で準備をしている。二人の姿を見て少し安心をした。
「とりあえず良かった……」
「何だ?」
隣で準備運転をしていた永尾に独り言が聞こえてしまったようで俺の視線の先を見ている。
「あっ、あぁ、マネジャーが仲良さそうだから……」
「お前、あれだなぁ……」
「な、なんだよ……」
ストレッチをしていた永尾は呆れた表情をしてため息を吐いた。
「もうすぐ選抜の予選が始まろうとしているんだ、ぼちぼち真面目に練習を取り組んでくれないと困るぞ……」
「わ、分かってるよ、それとこれは別だから大丈夫だ」
「頼むから……このチームはお前次第なんだからな」
ストレッチが終わった永尾がポンっと俺の肩を叩いて立ち上がる。チームで一番真面目な永尾らしいが、そんな永尾も最後に俺の名前を出していた。中学時代のライバルだった永尾はなんだかんだで俺を信頼してくれている。
「あぁ、俺だって負けるのは嫌だからな」
俺も立ち上がり、側にあったボールを手に取りそのままシュートを放った。ボールは狙ったように綺麗に決まると、そのシュートを目で追っていた永尾が小さく鼻で笑った。
「……頼りにしているぞ」
そう言って永尾は練習を始める為に動き出した。俺もちょっと浮ついていた気分を反省した。両手で軽く頬を叩き気合いを入れて練習を始める事にした。普段から真面目に練習をしているが、今日は始める前に気合いを入れた事もあって割と本気で練習に取り組んだ。
いつもの帰宅時間、さすがに疲れたので部室で一休みしたかったが、二人を待たせる訳にはいかないので慌てる様に昇降口に向かった。
「蒼生くん、そんなに急がなくてよかったのに……」
「大丈夫だよ、これくらいでバテていたらダメだからね」
心配そうな顔をした結奈にちょっとばかり嘘をついて強がる。本当はかなり疲れていて、ここまで疲労困憊になったのは久しぶりだ。
「蒼生くん、今日はいつもよりすごく調子が良さそうだったよね」
「ははは、いつもよりちょっと頑張ったかな」
「ふふふ、でも怪我だけには気を付けてね。マネジャーとしてはそれが一番心配だよ」
「あぁ、もちろん調子が良くても無理はしないよ。まだあの頃のレベルまでには達していないけどね」
「えっ、そ、そうなの? そんなに凄かったの?」
驚いた結奈は目を大きく見開いていて、隣にいるしーちゃんも驚いた顔をして俺を見ていた。大袈裟な事を言った訳ではないので逆に俺は不思議に思った。復帰して半年が過ぎたが正直まだ自信がないし、あの頃に比べて全然物足りていない。
「まぁ、特にあの頃は一人でかなりストイックに練習していたから……今の比じゃないくらいに」
ハッとした表情をした結奈は思い出したみたいだ。同じ中学の結奈が実際に見た訳ではないが、以前に少しだけ話をしていたので察したみたいだ。俺にとってあまりいい思い出ではないからだ。
「ご、ごめんね。嫌な記憶を思い出させて……」
「ははは、いいよ。もう今は全然楽しくやっているから、それに今のチームはちゃんとした仲間がいるし、マネジャーの二人もいるから、最高だよ」
実力はまだ足りていないかもしれないが、今は凄く充実して練習が出来ている。笑っている俺の顔を見て結奈は安心したみたいで表情がすっと和らいだ。
しーちゃんはちょっと話がついていけなかったみたいで、俺と結奈の顔を見て愛想笑いになっていた。結奈はしーちゃんの表情に気が付いたみたいで、バスに乗る前から降りまで中学時代の事を説明していた。実際に結奈が中学時代にバスケ部とは直接関わっていなかったが所々で以前俺が話していた内容より詳しい説明をしていたので少し驚いた。
「あおくんは本当に凄い選手だったのね……」
「ど、どうしたんだよ突然に」
結奈と別れてしーちゃんと二人になりバスを降りて家路に向かっているとしーちゃんが呟いた。しーちゃんには詳しい話をしていなかったので結奈から聞いた話に驚かせれたみたいだ。
「うん、心配いらないからね。前にも言ったけど、何があっても私がちゃんと支えてあげるから大丈夫だよ」
「えっ、あっ、あぁ……う、うん、分かった」
しーちゃんが真剣な表情をして見つめるので、思わず慌ててしまったが、しーちゃんの瞳は真っ直ぐで気持ちが伝わってきた。
しーちゃんと結奈……二人が俺を支えてくれる、こんな嬉しくて幸せな事があるのだろうか、この気持ちに本気で答えてあげないといけない。
「中学時代の凄かった時のあおくんを見てみたかったなぁ」
「う〜ん、残念だな、あの時の映像は無いからね……」
「あっ、そ、そうだよね、いい思い出じゃなかったんだよね、ごめん……」
「いいいよ、もう過去の事だし……それに今が一番だから」
「……う、うん、そうだね。これから最高の思い出を作っていこうね、私も頑張るから!」
そう言って笑顔のしーちゃんはぎゅっと俺の腕にしがみ付いてきた。
「わ、わ、わ……ちょ、ちょっと、し、しーちゃん……」
あまりにもぎゅっとしがみ付いてきたのでしーちゃんの感触が腕全体に伝わってくる。俺自身が汗を掻いていたのと、しーちゃんの柔らかい感触で思いっきり慌ててしまった。結局、しーちゃんは離れる事なく家の前までそのままピッタリとくっ付いたままだった。




