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60.二人だけでの登校

 翌日の朝、日頃は起こされる事はないのに今朝に限ってしーちゃんに起こされてしまう。目が覚めると目と鼻の先にしーちゃんの顔があって飛び起きるハメになった。


「な、な、な、なにごとだよ……」

「おはよう。あおくんの寝顔、昔と変わらないわね、ふふふ……」


 慌てふためいている俺を余所にしーちゃんは余裕の笑み浮かべている。昨日の事があったからどんな顔をしてしーちゃんに会えばいいのか悩んでいたけど、一瞬で悩みが吹っ飛んでしまいそうな雰囲気だ。


「……もう朝からびっくりするだろう」

「えへへ、だってなかなか起きてこないから起こしに来たんだよ」


 まだ心臓がドキドキして収まっていないが、しーちゃんに言われて時計を見ると今度は違う意味で驚いた。


「あっ!?」


 思わず声が出てしまうぐらいの時間になっていた。普段なら家を出発する時間まであと十分を切っていた。それによく見るとしーちゃんは制服に着替えていつでも登校出来る状態だ。

 俺は大慌てで着替え、何とか準備して間に合わせた。しーちゃんは笑顔で待っていてくれた。


「ごめんな……」

「えへへ、いいよ謝らなくても、誰だって寝坊することはあるよ」

「とりあえず起こしてくれてありがとう」

「ふふふ、一緒に住んでるのだからそれくらいいいよ」


 家を出発するといつもより少し早く歩いた。もしいつも乗っているバスに乗り遅れても次の便でも登校時間は間に合う。でも乗り遅れると結奈が余計な心配をしてしまうかもしれないし、遅れた説明をしないといけないから面倒だ。

 そもそも寝坊した理由が、昨日のしーちゃんが原因なんだとは言えない。多分しーちゃんが寝坊の理由を聞かないのは原因が分かっているから察してくれているのだろう。いろいろと考えていたけど、思ったよりも早くバス停に着いてタイミングよくバスがすぐにやって来た。


「ふぅ〜、間に合ってよかった……」

「そうだねぇ、でも次のバスでもよかったのに」


 いつものように二人掛けの座席に座っている。しーちゃんがちょっとだけムッとしていた。ここまで来る間、急いでいたからほとんど会話をしていなかった。しーちゃんは今朝の事で話したい事があったのかもしれない。


「でも結奈が……」

「あっ、そうそう、ゆいちゃんは今日、朝早く用事があってもうひとつ前のバスで行ってるよ」

「そ、そうなんだ……」

「うん、昨日の帰りにゆいちゃんが言ってたよね?」

「えっ、あっ、あぁ、そうだったな……」


 しーちゃんが不思議そうに俺の顔を見ている。全く身に覚えがないが、しーちゃんが言うので間違いないのだろう。朝からいろいろと慌ててちょっと体の力が抜けて、思わずため息を吐いた。


「もう、あおくん、しっかりしないとダメだよ」

「ははは……そうだね……」

「ふふふ、明日からも朝起こしに行こうか? いつも私の方が早く起きてるから、全然いいよ毎日でも……」

「そ、それは遠慮しておくよ……」


 しーちゃんは嬉しそうに自信満々な表情をしている。確かにいろいろと準備があるから俺よりもしーちゃんの方が早起きだ。起こしてくれるのは正直嬉しいが、毎日あんな感じだとちょっと体が持たない。

 それに今日は目覚めるほんの少し前に唇の辺りに柔らかい感触があったような気がした。俺の勘違いかもしれないのでしーちゃんには聞いてはいないが、起きた時の顔の近さからするともしかして……だから余計にでも毎日起こしこられたら気が落ち着かなくなってしまう。そんな事を考えているとまた昨日の夜みたいになっていく。


「あれ? 今度は難しい顔をして、どうしたの?」

「……えっ、あぁ、ど、どうもしてないよ」


 しーちゃんは首を傾げて俺の顔を窺っているが、今朝はいつもよりご機嫌な様子だ。もともと明るい性格のしーちゃんなのだが、一段と明るい雰囲気がする。そんなに俺を起こした事が嬉しかったのかちょっと不思議な感じがした。

 このまま学校に着くまでずっとしーちゃんはご機嫌な様子だった。

 教室に着くと結奈は机に向かって何かを書いてた。暫くして俺達が登校して来たのに気が付いたみたいで、最初にしーちゃんの所へ向かってその後に俺の所にやって来た。


「おはよう、蒼生くん……ねぇ、今朝、何かあった?」

「えっ、あっ、べ、別に、と、特に何もなかったよ……」


 油断していた訳ではないが、結奈の問いかけに焦ってしまう。朝起きてからいろいろな事があり過ぎてやっと学校に着いて、一人になれたと思ったタイミングだった。


「えぇぇ……その反応は何かあったからでしょう……うぅぅ、やっぱり同じ屋根の下だとあるよね……」

「なんだよ……その目は、疑ってますって感じは……」

「いや、だって明らかに蒼生くん動揺したよね。う〜ん、やっぱり直接しーちゃんに聞かないとダメかな……でもなんか嫉妬したみたいでヤダな……」


 俯いた結奈は呟いてちょっと寂しそうな顔をしている。そんな結奈の顔を見るとちょっと心苦しくなるが、今は説明する気にはなれない。それだけ昨日の夜から続いているしーちゃんとの事で精神的に疲れていた。


「はぁ……何もないから、心配ないって」

「うぅぅ、もう……仕方ない、今日のところはこのままにしようかな」


 ため息混じりで答えた俺の表情を見て、察した結奈はこれ以上追及しないことにしてくれたみたいでほっとした。でも結奈の表情はちょっと不満そうだった。そもそも昨日の帰りに意味深な事を言った結奈の言葉が原因なのだから俺は悪くないはずだ。

 そんな俺と結奈のやりとりを気にせずにしーちゃんは友達と楽しそうに会話をしていた。

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