59.しーちゃんの気持ち
気が付くともうバス停の手前まで来ていた。バス停には他の生徒がいる。この状況だと話がし難いと思っていると二人も察してくれたみたいだ。でも何故二人とも知っていて黙っていたのだろうか、謎が残ってしまった。
それに原田が言う様に俺の行動について二人はなんて思っているのか気になってしまう。頭を抱えるような仕草をしていると結奈が気にしてくれたみたいで、微笑みながら耳打ちをしてきた。
「ふふっ、そんなに考え込まなくても大丈夫だよ、私もしーちゃんもちゃんと分かっているから蒼生くんは心配無用だからね」
周り同じ学校の生徒がいる中だったので恥ずかしかったのですぐに返事が出来なかった。でも二人が分かっているとはどういう意味なんだろう……さすがにここで問いただすのは難しい状況だ。顔を上げて二人の様子を窺うと仲良さそうに会話をしている。聞き直せるような雰囲気ではないので一旦あきらめる事にした。
いつものように最寄りのバス停で降りてしーちゃんと二人で歩いている。バスの中でも普段通りで特に変わった様子もなく、途中で結奈と別れてしーちゃんと二人きりになった。
「……結奈が言っていた事、どういう意味なの?」
どうしても気になったので家に帰り着く前にしーちゃんに尋ねてみた。本当は結奈としーちゃんの二人が一緒にいる時に聞くのが一番良いと思ったが、気になってしょうがないのでこのタイミングになってしまった。
「う〜ん、どういう意味と言われてもなんて言ったらいいのかなぁ……」
しーちゃんはちょっと難しそうな表情をしている。そんな表情を見るとますます不安になってくる。やはり原田に言ったような事なのだろうか、本人を前にしては言い難いのか、いろいろと頭の中で考えて落ち込みそうになる。
「……俺が悪いんだよなぁ」
「えっ、そんな事ないよ。そんな顔をしないで!」
俺の顔を見たしーちゃんが慌てて否定をする。俺はしーちゃんの慌て振りにびっくりしてしまった。
「ど、ど、どうして?」
「あおくんは全然悪くないの……一番悪いのは、やっぱり私だよ……」
「な、なんでだよ……」
「……でも、あきらめられないの……気持ちは全然変わっていないよ」
「……うん」
しーちゃんが口にした言葉がぐっと胸に突き刺さる。俺もしーちゃんが戻ってきた事に浮かれていて、結奈としーちゃんの関係をきちんと考えようとしていなかった。でもきっと選ぶ事が出来ない気がする。
「だからね、私、ゆいちゃんとあおくんの事を話して決めたの……」
「えっ、ど、どういう……」
「ふふっ、ゆいちゃんに負けないって、ライバル宣言したの……だからお互いにあおくんとデートをしても干渉しないとか、それ以外にも約束したんだよ、ゆいちゃんとね」
「ほ、ほ、ほんとに……」
俺の知らない所で二人がそんな決め事をしていたとは……何て答えたらいいのか悩んでしまう。でもそもそも俺が態度をはっきりとさせないから二人にこんな約束をさせてしまったのだろう。
「……でも私とゆいちゃん以外の子とデートとかしたらダメだからね!」
「それはないよ、絶対に、うん、約束するよ!」
しーちゃんがちょっと険しい表情で俺の顔を窺ってきたので、俺はすぐにはっきりとした声で返事をして大きく頷いた。しーちゃんはすぐに笑顔に戻って嬉しそうにしていた。
ちょっとだけ胸の中にあったモヤモヤが消えたような気がした。しばらくの間はしーちゃんと結奈の関係が拗れる事はなさそうだ。とりあえずは今の関係ままで良いみたい……
気が付くと家の目の前に着いていた。しーちゃんが先に玄関のドアを開けて後ろに続いて俺も家の中に入る。
「えへへ、………ちょっと有利なのかな?」
しーちゃんが靴を脱いで玄関を上がりスリッパに履き替える。俺も同じように靴を脱いでいるとしーちゃんがチラッと笑顔で振り返る。確かに俺にとっても信じられないぐらい嬉しい状況だ。二人きりではないが、同じ屋根の下で生活をしているのだから幸せ過ぎる。
その後は、一緒に晩御飯を食べて一緒に課題をしている。しーちゃんはいつも通りで時々心配して覗き込んで課題を見てくれている。俺はちょっとだけいつもと違った。帰り道に改めてしーちゃんから告白されたみたいな感じなので意識してしまう。リビングとはいえ、すぐ目の前に可愛くて大好きだった幼馴染がいる。なかなか顔を上げてしーちゃんを見られない……なんとか課題は終わらせる事が出来たがいつもよりヘトヘトになった。
課題が終わった後も見慣れてきたはずのお風呂上がり姿のしーちゃんに照れてしまった。しーちゃんは気が付いていたのかどうか分からないが寝るまでいつもと変わらなかった。
自室に戻ってベッドに寝転がり気持ちを落ち着かせたが、不意に頭の中に心配が湧き上がる。
(あっ……どうしよう、結奈と明日会った時に、どんな顔をしたらいいのかなぁ……結奈はまだ知らないはず……でもしーちゃんが伝えているかもしれない……変に意識してはダメだ、普段通りにしないといけないな)
自問自答しながら頭の中を整理しているといつの間にか寝落ちしていたみたで、目が覚めた時はもう朝だった。




