53.これから続く登下校と学校生活
バスに揺られながらちょっと気が緩んだのだろう、ちょっと眠気がきてしまった。ほんの少し目を閉じていたが、吊り手はしっかりと握っていた。
「ねぇ、蒼生くん、前より随分と表情が柔らかくなってきたね……あれ、もしかして寝てる?」
「ふぇ……、えっ、な、な、なに、いきなり……」
バスが信号停車で静かになったタイミングだった。結奈はびっくりした表情で俺の顔を見上げている。よく分からない状況で俺は結奈の視線に慌ててしまう。普段から慣れているとはいえ真っ直ぐな瞳で見られるとやはり恥ずかしい……お互い顔を見合わせていた。
「なになに、どうしたの? 二人して見つめ合って……」
「ううん、い、いや、蒼生くんの表情が最近優しくなったと思ってね」
しーちゃんの突っ込みに結奈は珍しく慌てていて必死に落ち着こうとしていた。すると今度はしーちゃんがまじまじと俺の顔を見始める。
「……うぅ、な、なんだよ」
しーちゃんの視線に耐えられなくなり顔を背けた。昨日の晩に二人きりで部屋に居た時はそんなに思わなかったが、ここで見つめられると恥ずかしくなってきた。
改めて実感するのだが、結奈もしーちゃんも二人とも普通に可愛いのだ。
「う〜ん、そうかなぁ……あんまり変わってないような気がするするけど」
「ううん、そんなことないわ。中学の時に比べると全然変わったよ」
首を傾げて否定するしーちゃんと対照的に結奈は真面目な顔で強く主張している。
「えぇーー、そうなんだ……」
「うん、中学の三年になった頃は特に人を寄せ付けない雰囲気で近寄り難い男子だったよ」
「へぇーー、でも初めに声をかけたのは?」
「実は蒼生くんから話しかけてきたの、だからものすごく驚いて、ちょっと怖かったかな……」
結奈は懐かしむよう表情をしている。俺も二人の会話を耳にしながら当時の事を思い出していた。
結奈の言う通りであの頃はあまり人と関わりたくなかった。しかし三年生になり進路でこのまま地元の高校に進学するより、ちょっと離れた進学校に行けば知り合いが少なくて新たなスタートが切れそうな気がしていた。
でも成績に不安のあった俺はその時席が近くのおとなしそうな委員長の結奈に思い切って声をかけたのが始まりだった。
「そうなんだ……でもあおくんはもう大丈夫だよ。私とゆいちゃんが側に居るからね」
「ふふっ、そうね、もう心配はないわね」
しーちゃんと結奈がお互いに顔を見合わせて微笑みながら俺に視線を向けてきた。
「えっ、えぇぇ、っと、な、な、なに……」
二人から同時に向けられた視線に耐え切れずに怯んでしまう。これまで至近距離の女子から見つめられる経験がないので恥ずかしくてどんな反応をすればいいのか迷ってしまった。
可愛くて綺麗な二人からの熱視線は他の男子からすれば羨ましい限りだろうが、俺にはまだ耐えられる程の技量がなかった。そんな余裕のない俺を分かっているみたいで、しーちゃんと結奈はまたお互いに目を合わせて微笑んでいた。
お昼休みにしーちゃんは結奈と一緒に入部届けを提出しに行って正式にバスケ部のマネージャーとして入部した。
放課後の部活前に村野と山西が教室にやって来て、俺に入部の事を確認してきた。練習が始まれば分かることなのだが待ちきれなかったみたいだ。俺からすると直接本人に聞けよと言いたかったが、しーちゃんの本当の入部理由を知ったら落ち込むだろうなと思い少し哀れんでいた。
一応しーちゃんには理由の事は口外せずに、マネージャーの仕事は皆んな平等にするように伝えている。もちろん一緒に住んでいる事も黙っておくように言ってある。そのあたりは結奈がいるので問題ないと思う。
(……そういえばしーちゃんの入部理由を結奈は知っているのだろうか? よく考えると二人共、似たような理由だった……)
もちろんそんなことを確認する訳にはいかない、しばらくは黙って二人の様子を見ていくしかなさそうだ。でも朝の会話からするとお互いに知っているような気がする。
練習が始まると昨日よりも村野と山西が張り切っている。いつも以上にキレのある動きについていくのも大変で、二人のペースに合わせての練習はさすがに疲れてしまった。
「あれ……今日は疲れ気味だね」
「ふぅ……合わせるのも大変だよ。しーちゃんは全然疲れてなさそうだな」
練習後の帰りも朝と一緒で、しーちゃんと結奈の三人だ。余裕ある顔をしたしーちゃんが俺の様子を窺っている。
いきなり練習に参加したり、初めてのマネージャーの仕事で疲れているはずなのに顔色ひとつ変えていないからやはり凄いと思う。結奈も練習が終わってすぐにしーちゃんの体力には驚いていた。
「ふふっ、向こうの学校でずっと運動していたからね。こっちに帰ってきてからちょっとサボっていたけど、また少しずつ動かさないといけないわね」
「うん、やっぱり凄いわね。納得だね、だからしーちゃんのスタイルはいいだ……う〜ん、羨ましすぎるよ」
今度は結奈がじっとしーちゃん観察している。同性から見てもしーちゃんのスタイルはやはり羨ましいのだろう。昨日も家に帰ってからしーちゃんのラフな姿にどうしても目のやり場に困っていた。
しーちゃんは全く普段通りなので俺も変に意識しないように頑張っていた。今日も明日も続くのだから俺も自然体でいないといけないのだ。
「えぇぇ、そんな事ないよ、ゆいちゃんも全然良いよ」
「そ、そんな事ないよ……」
しーちゃんの返答に慌てて結奈が否定をする。チラッと俺は結奈を見て確認をするが、全然悪くはないし、特に高校に入ってからは可愛くなっている……
(うぅ、ダメだ。俺は何を考えているのだ……)
いつもより疲れているからなのか、反省の意味を込めて自分の手で頬を抓って反省をしていた。そんな俺の姿を二人が不思議そうな顔で見ていた。
二人の視線に気が付いた俺は慌てて何でもないと手を振って否定する。慌てる俺を見てしーちゃんは首を傾げると、結奈と目を合わせて笑い始めた。これから毎日こんな様子で登下校と学校生活が続いていくのだろうと感じていた。




