47.驚きの事実
結奈が別れ際に珍しく明日の朝は一緒に行こうと言ってきた。特に用事もないので快諾すると結奈は嬉しそうにバスから降りていった。そんな結奈の表情を見て少し安堵していた。
笑顔の結奈と別れて自宅から最寄りバス停で降りて普段通り歩いて帰る。自宅前に着くと隣のしーちゃんの家に灯りがなく人気がない事に気が付いた。自宅の玄関を開けて中に入ろうとすると、予想していた通りしーちゃんが迎えに来た。
「えへへ、おかえりなさい! こんなに帰るのが遅いんだね」
笑顔のしーちゃんは部屋着なのだろうか随分とラフな格好で出迎えてくれた。学校での美少女の印象とは違っているが、俺が昔から知っているしーちゃんの姿だ。懐かしくてちょっと嬉しくなる。
「もう晩御飯は食べたのか?」
「うん、あおくんを待っていたら遅くなるから先に食べなさいって言われたから」
ちょっと申し訳なさそうな顔をしーちゃんがする。
「うん、先に食べてくれていていいよ。部活がある時はだいたいこの時間になるから」
全く気にしていないので笑顔で答えるとしーちゃんは笑顔に戻った。とりあえず部屋に戻って着替えてからダイニングに戻り晩御飯を食べる。しーちゃんは俺が食べている側で楽しそうに話をしている。
俺が帰宅するのを待っていたにだろう。まだまだ二人の離れていた時間の話はたくさんある。しーちゃんは昔から明るくてコミュニケーション能力が高かったので話題を欠くことはなかった。食後も懐かしい話とかしているとあっという間に時間が過ぎていた。
「……そろそろ課題をやらないといけない」
時計を見てちょっと暗い気持ちになる。やはり進学校だけあって普段から課題が多いのだ。
「ふふふ、私はもう終わったよ! そんなに難しくなかったし楽勝だよ!!」
「そうなんだ……いいな……」
嬉しそうな顔でVサインをするしーちゃんに羨ましいそうな顔をしてしまう。昔から頭が良かったしーちゃんなので納得する。そもそも転校してくるぐらいだから今でも相当な学力なのだろう。今日の英語の授業ではスラスラとネイティブな発音で答えていた。
「じゃあ、私が見てあげようか?」
「でも時間が……」
待っていましたみたいな顔でしーちゃんは俺を見ている。でも俺は時計を見てさすがに遅いので自力でしようと断ろうとした。
「えっ、だってそんな心配しなくても……」
しーちゃんが当たり前のように答えが、隣の家とはいえあまり遅い時間になるのはいけないと思っているとリビングに来た母さんがしーちゃんに声をかける。
「お風呂入れたからどうぞ。それと洗濯物も一緒に出しておいてね」
「あっ、はい、ありがとうございます」
「ふふっ、いいのよ、全然気にしなくて、これから毎日のことなんだから」
「はい!」
元気よく答えるしーちゃんを見て思わず固まってしまう。母さんとの会話で俺の頭が混乱してしまう。しーちゃんの両親の帰宅する時間が遅いから俺の家に居ると思っていたがどうも違うようだ。慌てて俺は母さんに説明を求めた。
「本当にいいのかよ……」
詳しい説明を聞いた俺は想像をしていない事で倒れそうになる。俺の様子を見てしーちゃんは少し困った顔をしている。もちろん嫌だという気持ちはないのだけど、年頃の高校生が同じ屋根の下で生活をしていいのかと疑問に思う。
こんな事になったのは、しーちゃんの両親がまだ仕事の関係で帰国出来ないので一軒家にしーちゃんを一人で住まわせる訳にはいかないという事だ。だからと言ってそれでいいのかと思ったが、しーちゃんの両親からするとしーちゃんが俺の家で生活出来るのは願ってもない事みたいだった。もちろん俺の両親共に娘が出来るみたいで大喜びのようだ。
しーちゃんの両親が帰国するのが早くても来年の春以降になるみたいだ。俺が険しい顔をしていたのか、しーちゃんは困った顔のまま表情が固まっている。しーちゃんが悪い訳ではなく、黙っていた俺の両親が悪い、事前にでも説明してくれていたらこんな状況になっていなかった。
「う〜ん、こうなってしまったからにはしーちゃんに迷惑をかけないようにして、俺がしーちゃんを守らないといけないな」
「……うん、ありがとう。私も気を付けるからね。でもあおくん、昔と変わらず仲良くしてよ。絶対に約束だからね!」
やっと明るい表情に変わったしーちゃんがじっと俺の顔を見つめている。しーちゃんは約束という言葉を強調した。
頭の中が整理出来ていなかった俺もしーちゃんを守ると言ってしまったが、よくよく考えると告白した事に近いような気がしてじわじわと恥ずかしくなってきた。でも笑顔いっぱいのしーちゃんを見ていると絶対に守ってあげないといけないと強く思った。
それぞれ部屋に戻り、なんとか課題を終わらせた頃に、ドアをノックする音が聞こえてきた。いいよと声をかけると、お風呂上がりのしーちゃんがいる。
「お風呂だって、あおくんのお母さんが早くって言ってたよ」
「あっ、あぁ、わ、分かった」
頭にタオルを巻いてパジャマ姿のしーちゃんを見て思わず声が上ずってしまう。おまけに甘いなんとも言えない香りがしてくる。
慌てる俺をしーちゃんが首を傾げて見ている。しーちゃんは無意識なのか分からないけど、この可愛いさが毎日続くとなると俺の体は持ちそうにない気がする。
「あっ、そうだ、明日も一緒に学校行けるかな?」
「う、うん、いいよ」
慌てている俺は何も考えず返事をしてしまった。しーちゃんは嬉しそうに無邪気な顔で笑っている。この時は約束の事でまだ気が付いていなかった。
ゆっくりとお風呂に入って少し気持ちを落ち着かせようとした。帰宅してからのこの数時間でいろいろな事が起き過ぎてまだ混乱気味で頭の中を整理しないといけない。
(……そうだ、明日の朝、結奈と一緒に行く約束していた)
リラックスしようと湯船に浸かっているタイミングで思い出した。それにしーちゃんと一つ屋根の下で生活する事になったのをどうやって結奈に説明をすればいいのか、考え始めたらいろいろな事柄が湧き出てきた。
もうこれ以上悩んでも解決出来そうにないので、あきらめてこの後ゆっくり寝る事を選んだ。




