45.幼馴染との初登校
この日はしーちゃんと話す機会がなく放課後になってしまった。しーちゃんも休み時間はクラスメイトに囲まれていたので身動きが取れなかったようだ。
放課後になればチャンスがあるかと思ったが、落ち着いた頃には姿がなく結局この日は全く会話が出来なかった。部活の練習中に阿南から聞いた話ではしーちゃんの評判がかなり良かったみたいだ。
部活が終わり、帰り道に結奈はあまり元気がなくて、俺はまだしーちゃんと話せていないので結奈に何て声をかければいいのか悩んで、お互い会話はなく黙っている時間が多かった。一緒に帰るようになって初めての事でなんとも言えない雰囲気だった。
翌日、今日も朝練がないのでゆっくりと登校出来るだが、昨日の夜はあまり眠れなくて寝坊気味だ。
「蒼生!! 早くしなさい! いつまで待たせているの!」
気が乗らずにダラダラしながら準備していると一階から母さんの怒りに似た声が聞こえてきた。仕方なく返事をしようとしたがある事に気が付いた。
(いったい誰が待っているんだ? そもそも誰とも登校する約束していないはずだ)
結奈が迎えに来るはずがない、状況が掴めないまま急いで着替えて一階に降りる。階段を降りた先の玄関に目を向けると昨日教室で見た転校生の美少女が立っていた。
「おはよう、あおくん!」
「えっ、な、な、なんで、ここに……ど、ど、どうして?」
天使のような微笑みのしーちゃんが立っている。何が起きているのか、全く訳が分からず激しく動揺してしまう。
「むっ……なんでちゃんと返事してくれないの? 昨日だってずっと無視して話しかけてくれないし……」
「い、いや、だ、だって、あ、あれ、いっぱい囲まれて近づけなかったから」
ムッとしたしーちゃんの表情は昔と変わらないままでドキっとしてしまったが、まだ全然頭の中が整理出来ないままだ。混乱して立ち尽くしている息子を見かねた母さんがやれやれといった感じで経緯を説明をしてくれた。
要約するとしーちゃん一家は以前と同じように隣りに引っ越してきたと言うより戻ってきた。一昨日見た家の明かりがそうだったのだ。そして俺が通う高校に海外から帰ってきた生徒を受け入れる制度があって、それで俺の通う高校に転校してきたということだった。
話を聞いているうちに気持ちを落ち着かせて、やっとしーちゃんの顔を真面に見る事が出来た。
「こっちに帰ってきて日にちが過ぎていないから、まだ道とか分からないの……昨日は送迎してもらったから……」
「あぁ……そういうことか」
恥ずかしそうな顔でしーちゃんが話している。だから昨日の朝は全然会わずに、帰りもすぐにいなくなった理由が分かった。
まだ理解できていないところもあったが、時計を見ると出発しないと学校へ間に合わない時間になっていた。
しーちゃんと並んでバス停に向かうが、何を話していいのか迷ってしまう。迷うというより久しぶりの再開で恥ずかしくて照れているだけだ。そんな俺の様子を窺いながら、しーちゃんがいろいろと質問してきた。
「さすがに五年以上の間離れていたから……分からない事だらけだよ、ふふふ……」
バス停に着いた頃にしーちゃんが周囲を見渡し微笑んでいた。昨日も思ったがこの笑顔はかなり危険なくらい可愛い……見た目は凄い美少女だ。
でも今朝一緒に歩いていて気が付いた事が、ひとつひとつの仕草や表情は昔と変わっていなくて、俺がよく知っている大好きなしーちゃんだった。
普段乗っているバスより遅い時間で車内は少し混んでいたが、運良く二人一緒に座る事が出来た。
「ふふっ、不思議だなぁ……あおくんと一緒に登校出来る日が来るとは思わなかった……」
席に座り少し落ち着いた頃にしーちゃんから小さな声で聞こえてきて、表情は凄く嬉しそうだった。改めて隣に座っているしーちゃんに目を向けると思わず顔がにやけてしまいそうになる。
同じ学校の制服を着て一緒に登校をするなんて夢みたいな事が現実になっている。正直俺はまだ夢を見ているのではないかと思う。
「おかえり、しーちゃん……」
「うん、ただいま……」
「えっ!?」
心の中で言ったはずの言葉に返事をしたしーちゃんに思わずびっくりしてしまう。そんな俺にしーちゃんが不思議そうな顔で見ている。
どうやら俺はかなり浮かれているみたいだ。顔が自然とにやけていないか心配になってバスの窓に視線を向けて確認しようとした。
「あおくん、どうしたの?」
「いや、な、なんでもないよ」
「ふふふ、変なあおくんだね」
窓で自分の表情を確認してみたがにやけていなかったがいた。俺の不自然な動きがおかしかったみたいでしーちゃんが笑っている。そんな笑顔のしーちゃんを見てめちゃくちゃ幸せで嬉しい気持ちになった。
そのままの調子で俺はかなり気が緩んでいたのだろう、仲良く一緒にしーちゃんと教室に入ってしまった。遅く登校して、ギリギリの時間になっていたので教室にはほぼ全員が登校していた。
「……あっ!?」
教室にいるクラスメイトの視線を一斉に浴びてしまい、特に男子からは殺気に似た視線が向けられた。隣にいたしーちゃんは訳が分かっていないみたいだ。この光景には身に覚えがある。かつて俺と結奈が体験をした。
「しまった……」
すぐに我に返って俺は結奈の姿を探した。まだ登校していないことを祈るが、そんな上手くはいかない。
「あぁぁ……」
なんとも言えない寂しそうな顔をして俺としーちゃんを見ていた。ただでさえ昨日の帰り道も微妙な雰囲気だったのに、どう説明すればいいのか思い浮かばない。今ここで結奈の所へ行っても言い訳をしているようにしか見えない。
結奈の周りにいた仲の良い女子が何か話しかけている。立ち尽くしている俺をしーちゃんがちょっと困った顔をして様子を窺っている。
「いや、なんでもないから、ごめんな、驚かせて……」
しーちゃんには全く責任はないのだ。時間もないのでしーちゃんに席へ向かうように促す。俺はしーちゃんに頭を下げて自分の席に向かうことにした。やはり相当浮かれていたようで、大きく落ち込んでしまい、情けなくなってしまった。席に座るとそのまま項垂れてしまった。




