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40.本当の気持ちは

 結奈を背負いながら静かな道を進んで行く。さすがにあまり速く進めないが思ったよりも結奈が軽くて疲れは感じていない。ピタッと背中に引っ付いている結奈の道案内で進んでいたが、少し沈黙が続いていた。


「ねぇ、蒼生くん……」


 いきなり口を開いた結奈ちょっとだけ驚く、てっきり寝ていたのかと思っていたからだ。


「どっ、どうしたの?」

「うん、蒼生くんと話すようになってもうすぐ一年になるね」

「あぁ、そうだな……」


 結奈と話すようになったきっかけは勉強を教えてもらう為、席が隣りだった中学の二学期からだ。仲が良い友達がいなくて、それだったらと委員長だった結奈に話しかけたのがきっかけだった。結奈も委員長の立場だったからなのか俺のお願いに快諾してくれた。それからは親身になって勉強を教えてくれて、なんとか今の高校に合格が出来た。


「あの時はこんな風に一緒にいることになるとは想像もつかなかったよ」

「ははは、そうだな、俺もそう思うよ」


 そもそも結奈がこんなに変わってしまうとは予想外だった。当時の地味な面影はほとんどないが、性格は全く変わっていない。


「あの頃は蒼生くんと話すのすごく緊張してたのよ」

「そ、そうなのか?」

「うん、だってあの蒼生くんだもの……」

「でもそんなにバスケ部に居た頃は知らないって言ってたいたよね?」


 以前、結奈は中学時代のバスケ部だった俺の事は詳しくは知らないと興味がなかったと言っていたはずだ。中二の時は特に試合の結果で全校朝礼などで表彰されたり、校内新聞に載ったりして有名だと思っていたので意外だった。


「本当はね、何度か二年生の夏休みに見たの、練習試合をしているところを……」

「へぇ……そうなの……」

「うん、その時に蒼生くんが活躍する姿を見て、釘付けになったの」

「……うん」


 背後からだけど結奈の言葉を聞いて照れ臭くなる。顔を見て言われたら多分恥ずかしくてたまらないだろう。


「だって本当に凄かったから、この前の試合の時よりも……だからこんな人とは絶対に関わることはないと思っていたの」

「そ、そうなの……」

「だからね、凄く驚いてるのよ。ずっと夢みたいな時間が続いているみたいで」

「……そうなんだ」


 だんだんと結奈から告白をされているような空気になって胸がドキドキしてきた。でもドキドキする反面結奈の気持ちにどう答えていけばいいのか迷っていた。結奈を背負っていいるので顔が見えなくてよかった。もし顔が見えていたらどんな表情をしていたのだろう。

 夜になって昼間の暑さが収まっていたが、そんなことは関係がないぐらい俺は顔が熱いままだ。その熱が結奈に直接伝わりそうなぐらい顔を寄せてきた。


「蒼生くん……」


 耳元で優しく甘い声で結奈が囁くと更に心臓の鼓動が早くなる。


「う、うん……」

「……これからも蒼生くんの隣に居てもいいのかな?」

「えっ!? そ、それは居てもらわないと困るよ……」

「ほ、本当に、夢のような時間を続けてもいいの?」

「……うん、で、でも、ゆ、夢じゃないよ。これからもたくさん結奈には見せてあげる……特等席でね……だから、隣に居てくれ」


 この答えで良かったのか、不安になるが結奈は背中から抱き締めるようにぎゅっとする。もうこれ以上ないくらい密着していて、結奈の心臓の音が伝わってきそうだ。


「……ありがとう……楽しみにしてるよ」


 嬉しさを噛み締めるような声で結奈が囁いた。俺は結奈を背負いながら黙ったままゆっくりと歩き続ける。


「あっ、もうここでいいよ」


 目の前にある家の表札を見ると東條とある。俺は足を止めて結奈をゆっくりと降ろして、地面に結奈の足が着いたのを確認してから立ち上がる。ちょっと楽になったのか、結奈は足を庇うような仕草をしなかった。これなら玄関まで歩くことは出来そうだ。


「うん、大丈夫だよ。すぐそこだか……」


 笑顔だった結奈はちょっと寂しそうな表情に変わる。俺はまだ結奈の顔を恥ずかしくてちゃんと見られない。これまで以上に可愛く見えてしまう。


「……じゃあ、またね」

「うん……また……」


 寂しそうな顔で結奈が小さな声を出す。俺も結奈の家の前なので小さめの声で返事をする。次に会うのはお盆休みが終わってからだ。結奈がゆっくりと足を気にしながら玄関に向かって行く姿を見送る。玄関の手前まで着いた結奈はもう一度俺が居る方を向くと優しく笑って手を振ってきた。俺が手を振り返すと玄関の中に入っていった。家の中に入ったのを確認してから俺は元来た道を戻ることにした。

(あれで正解だったのかなぁ……)


 足早にバスを降りた場所へ向かっていたが、頭の中は迷いでいっぱいだった。結奈の気持ちに対してどこか曖昧な返事だったような気がしてモヤモヤしていた。でも結奈は笑顔で帰ったからよかったのだろうと思っている。確認しようがないからそう思うしかない……気が付けばバス通りまで戻ってきていた。まだ背中には結奈を背負っていた感触が残っている。


(……結奈は大事な存在なのは間違いない。居なくて困る存在だ)


 嘘は言っていない、でもそれは恋人としてなのか、友達としてなのか……なんでちゃんと答えられなかったのか、どうしても心の中になにか支えるものがある。


(いつかは結奈も離れていく日が来る……もうあの時の様な気持ちには……)


 脳裏に思い浮かぶ、あの時の絶望感に似た気持ち、当たり前に居た存在が居なくなる。もうあんな思いをするのは耐えられない。きっと今ぐらいの距離感がベストなのだろう。でも結奈には笑顔でいて欲しい、だからその為には約束したバスケで笑顔にしよう、それが俺の出来る事だ。結局、そのまま自問自答しながら歩いて家に帰ったのだった。

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