39.花火大会の帰り道
二人が乗るバス停に着いたが長蛇の列になっていた。この様子だと一回待っただけでは乗れそうもにないが、俺と結奈は最後尾に並んだ。
「ちょっと遅くなりそうだね」
さすがの結奈もちょっと疲れた表情をしていた。ここまで来るのも結構しんどかったが、まだ暫くは立ったままで座る事が出来ない。俺自身は平気だけど結奈はしんどいと思う。
花火を見終わって、人混みの中でずっと手を繋いで歩いていたから結奈の姿をちゃんと見ていなかった。
(ん……あれ、なんか足、痛そうにしてないか?)
改めて結奈の足元に視線を移すと明らかに右足をかばっている仕草をしている。花火大会の会場を出た時は気にならなかったが、ここまで歩いている間に痛くなったのかもしれない。
「もしかして、足が痛いの?」
「えっ、あっ、う、うん……ちょっとね。でも大丈夫だよ。もうあとは帰るだけだし……」
やはり履き慣れていないうえに俺が強引に引っ張って、早く歩いたりしたからだろう。もう少し気を回さないとダメだなと落ち込んだ。
「あ、蒼生くん、大丈夫だからね。ほんのちょっと痛いだけだから、そんなに気にしないでよ」
俺の表情から察したのか慌てて結奈が心配そうに窺っていた。結奈自身が痛いはずなのに俺の事を気にかけてくれるのだから結奈の優しさが身に染みる。
しばらくの間バスを待っていたが、立ちっぱなしなので結奈はちょっとしんどそうな表情を浮かべている。やはり足が痛いみたいで、さっきは大丈夫だと言っていたが大丈夫じゃないようだ。
一本目のバスが行って、少し経って次のバスが来た。前で待っているのが数人なのでなんとかギリギリ座れそうだ。
「やっと来たね……」
疲れた声で結奈が呟いた。普段こんな声を出さないのでちょっと心配になる。列が動き出して、俺の前を結奈が歩く。痛いのを我慢しているようで、俺に心配させないよにゆっくり目に一人で歩き始める。バスに乗り込むとなんとか無事に二人とも座る事が出来た。
座った結奈はほっとした表情をしているが、いつものような元気はなく疲れている。このまま結奈を一人で帰していいのか待っている間に迷っていたが、家まで送る事を決めた。
でも先に言うと結奈は送ることを断ってくるはずなので降りる直前で話すことにした。
バスが満員で発車すると、結奈は窓の外を眺めている。多分疲れた顔を見せたくないのだろう。俺も慣れないことばかりで疲れたので降りるバス停まで俯いて休むことにした。
それからちょっと気が抜けていたのか、気が付くと結奈の降りるバス停が次に迫っていた。
「蒼生くん、今日はありがとうね!」
振り向くと笑顔の結奈が降りる準備を始めていた。座って少しは元気になったみたいでちょっと安心する。
「う、うん」
結奈は窓側に座っているので俺が立ち上がらないと移動が出来ない。バス停に到着してアナウンスが流れる。俺は立ち上がり通路に移動すると結奈が足を痛そうにして移動してきた。
「またね!」
痛いの我慢して結奈は笑顔で手を振っている。俺はそれを見送るふりをしてそっと結奈の背後をついて行く。
まだ乗客が多いので結奈は振り向いたりする余裕はないみたいだ。俺も人の間を縫うようにして結奈についていく。
「えっ、あれ!?」
降り口の手前で結奈は俺の存在に気が付いた。でもこの位置では話が出来ないので、俺としては作戦成功だ。
驚いたままの顔で結奈はバスから降りて、俺も続いて降りる。まだ降りてくる人がいるのでちょっと移動をする。結奈は足が痛そうに歩いているので、降りて正解だと思った。
「ど、どうして? 蒼生くん、降りるバス停が違うよ!」
「いいんだよ。結奈を家まで送り届ける為に降りたんだ」
困惑した表情で結奈が見ていて、俺はゆっくり屈んで背中を結奈に向ける。歩くのは痛そうなので背負って帰ろうとした。バスから降りた人もほとんど移動して周囲は今のところ誰もいない。
「えっ、そ、そんな……ここから結構あるよ家まで……」
「問題ない、結奈ぐらい簡単に背負っていけるよ」
「で、でも……」
「それに他に人がいないから恥ずかしくないよ」
まだ迷っている結奈に俺は大きく頷いて大丈夫だとアピールをする。
「このまま結奈を一人で帰せないよ……」
「う、うん。分かった」
そう言って結奈が背中にゆっくりと掴まった。俺は結奈の足をしっかりと支えて立ち上がるとピタリと結奈が背中に体をくっつけた。
結奈の柔らかい感触が背中に伝わる。予想していなかった訳ではないが、痛い足の結奈をどうすればいいのか悩ん結果がこれだったのだ。
「あっ……」
一瞬、焦ってしまったがやましい気持ちがある訳ではないので気を引き締めた。同時に想像したより結奈が軽くて驚いた。俺の様子に結奈がすぐに反応をする。
「だ、大丈夫? 無理しなくてもいいよ」
結奈の照れたような声で頭の後ろから聞こえてくる。いつもより近い距離からなのでちょっと恥ずかしくなった。
「あっ、う、うん。全然問題ない、ちゃんと筋トレしてるから」
恥ずかしいさを誤魔化すようにおどけたような声で答えた。背中の汗だけ少し気になったが、結奈に家までの道のりを案内してもらいながらゆっくりと移動を始めた。
ちょっと移動すると住宅街に入ると、ほとんどすれ違う人はいなかったので不審がられず安心して移動が出来た。順調に帰り道を進んでいた。




