38.一緒に見た花火
まだ花火大会が始まっていない段階でこの状況だといったい何か起こってしまうのではないかと落ち着かなかった。
普段の下校の時や勉強の為の待ち合わせとは訳が違う。でもこのままだとなかなか前に進まないので気を取り直して結奈に目を向ける。
「そろそろ行こうか」
結奈が小さく頷く。浴衣を着ているのと髪を上げているのでチラッと見えたうなじにドキッとしていた。いつもと違う雰囲気の結奈と一緒に歩き始めたが、いつもより大人びていて妙に緊張してしまう。
花火大会の会場に向かって行くにつれだんだんと人で混み合ってきた。ちょっと油断すると逸れてしまいそうだ。
「ま、待って……」
一瞬、結奈の姿を見失ってしまいそうになるが、すぐに追いついてきた。これでは逸れてしまうのは時間の問題で、やはり手を繋ぐしかないのかないみたいだ。
「……ん? あっ!」
背中になにか感触があったので、振り向くと結奈の手が見えた。結奈が逸れないように、俺が着ているTシャツの裾をぎゅっと掴んでいる。このままだと後で後悔してしまう。
「……手を繋ぐか?」
さすがにこのままではまた逸れてしまう可能性がある。勇気を振り絞って結奈に声を掛けて手を差し出した。堂々と手を出せばいいのだけど、緊張して手が震えていないか気になった。ちょっと情けない……
「うん!!」
人混みに紛れそうになって不安そうな顔だった結奈がパッと明るい表情になった。すぐに裾を掴んでいた手が俺の手を躊躇することなくぎゅっと握ってきた。
見慣れているはずの結奈の手だったが思っていたより小さくて柔らかかった。
「えへへ〜」
上機嫌になった結奈は笑顔でピタッと寄り添ってきた。浴衣姿でくっついてきたので直接結奈の感触が直接伝わったくる。
「うぅ……、ゆ、ゆいな、ちょっと……」
「え、なに? どうしたの?」
動きがぎこちなくなりそうな俺を無視するかのように更にピタリと寄せてくる。俺の様子を知ってか知らずか結奈は不思議そうに窺っている。まだ会場まで距離はそこそこ残っているので、心臓のドキドキが伝わらないか心配だった。正直言ってこの前の試合より緊張していた。結奈もちょっと歩き難かったのか、ちょっと残念そうな顔をしていた。
なんとか花火大会の会場に着いたが、やはり凄い人混みで屋台など出店があって賑わっている。花火の始まるまで時間があるので、ゆっくりとはいかないが屋台を周りながら花火を見る場所を探した。
「この辺りでいいじゃないの?」
「……そうだなぁ、ちょっと端になるけどここにしよう」
端と言っても十分花火を間近で見る事が出来そうな場所だ。レジャーシートを敷いて座る。途中の屋台で焼そばとか飲み物を買っていたので花火が始まる前に食べる事にした。
「ふぅ……やっぱり暑いな……うちわでも持ってくればよかった」
タオルは持っていたが、人が多くて風もないのでかなり熱気がこもっている。気休めにしかならないけど手のひらで扇ぐ真似をしていた。
「ふふふ、蒼生くん、これを使っていいよ」
結奈がカバンの中から小さいハンディタイプの扇風機を取り出した。それ以外にもいくつかの涼む為のグッズがあるみたいで、得意げな顔をしている。
「ははは、さすがだな、結奈は!」
「えへへ、もっと褒めてよね」
結奈のお陰であまり暑い思いをしないで花火が見られそうで本当に結奈の気遣いには頭が下がる。嬉しそうな笑顔でいる結奈を見ていると俺も嬉しい気持ちになる。
だんだんと辺りも暗くなり、いよいよ花火が始まった。思ったよりも近くで花火が上がって、音も大きくて驚いた。そして一時間近く続いた花火も最後に大きな音と大きな打ち上げで終了した。
「すごかったね!」
「あぁ、こんな近くで見たのは初めてだったよ」
花火が上がっていた間は、大きな音のせいであまり会話が出来なくて二人共上ばかりを眺めていた。
「ねぇ、来年も一緒に見に来ようね」
「う、うん……」
嬉しそうな笑顔の結奈があまりにも可愛く見えて照れてしまう。今日はいつもと違ってなかなか結奈の顔を見る事がちゃんと見られない。浴衣着ているせいなのか分からないけど、キラキラしてあまりにも可愛いすぎる。意識しすぎると更に恥ずかしくなってくる。
「そ、そろそろ帰ろうか、遅くなってしまう」
恥ずかしさを隠そうと帰る準備を始めると、結奈は微笑みながら小さく頷いた。
帰り道もかなり混んでいる。来た時以上に逸れてしまうと大変な事になる。待ち合わせした場所に戻ろうとしたが、近づくにつれてぎゅうぎゅうになってきた。背が高い俺は周りが見えているが、多分結奈はあまり見えてないだろう。
「蒼生くん、この先どんな様子なの?」
「う〜ん、ちょっと進むのに時間かかりそうだな……先の方が詰まっている感じだ」
そう言っている間に結奈が周りから押されそうになる。俺は咄嗟に結奈をグイッと寄せて体に密着させて周りから押されないように守った。
「あ、ありがとう……」
恥ずかしそうに結奈が俺を見ている。またその顔に俺はドキッとしてしまう。また密着したので結奈の感触が直接伝わってくる。行きよりも更に密着した感じなので、心臓の音が聞こえてしまわないか不安になるが、そんな余裕はない。流れに押されないように結奈を守るようにして歩き始めた。
やっとの思いで、二人が乗るバスの列に着いた。ずらっと並んだ列は当分の間待つ事になりそうな気がした。




