37.花火大会と待ち合わせ
部活に復帰して十日程過ぎて、怪我をする前の状態に戻ってきた。チームとしては二試合目だが、俺にとっては復帰後の初めての練習試合があった。
相手は大会でベストエイトに入ることがあるチームだ。試合中は俺達チームに予想外だったみたいでかなりてこずっていた。そして最後は接戦で勝つ事が出来た。練習試合と言えどやはり勝つのは素直に嬉しかった。
「お疲れ様。どうだった復帰後の第一戦は?」
「えっ、どうだったと言われても……う〜ん、そうだな……こんな感じでしょう」
「えぇぇ……なんかあまり嬉しそうじゃない……」
練習試合の帰り道、機嫌が良い結奈は軽やかな口ぶりで、試合前から機嫌は良かったが勝った事で更に上機嫌といった感じだ。
「そんなことはないけど、その練習試合だし、内容が大事だからね。それに怪我からも順調に回復出来ているから、嬉しいよ」
試合中は問題なく動けたし、普段通りに出来たので完全復活といって間違いはない。
「うん、今日はほとんどフル出場してたからもう怪我は問題ないよね」
「まぁ、元々、ひどい怪我でもないからな、ははは……」
「……でも、怪我だけは気をつけてよ」
隣に座っている結奈は笑っていた俺の顔を見て注意を促すような表情になる。真面目な結奈らしくてただ機嫌が良いだけではなくて気配りが出来る。だから俺も結奈と一緒にいて心地がいいのだろう。
試合後は現地解散になった。試合をした学校は遠くではないのだが、永尾や山寺達とは帰る便が違ったのでいつものように結奈と二人だけだ。この状況もすっかりと慣れてしまい、当たり前のように結奈が隣に座っている。
「あっ、次で降りないと……」
結奈がバスの停車ボタンを押す。次のバス停で降りて乗り換えをしないといけない。基本的に俺と結奈は同じ方向なので同じバスに乗る。
「……暑いなぁ」
涼しかったバスから降りて、乗り換えのバスを待つ。時刻表を見るとすぐには乗り換えのバスは来ないようだ。さすがに結奈も暑そうで、目と鼻の先にコンビニがある。
「ちょっと、涼もうか」
俺の言葉に結奈が頷き、コンビニに向かった。店内に入る前に貼ってあったポスターが目に入る。
結奈も気が付いたみたいだ。
「あっ、そうだ。もうすぐ花火大会があるね」
日程は明後日で、部活がちょうど五日間程お盆休みなる初日だ。もちろん予定はない。
「一緒に行くか?」
「ふぇ!?」
結奈は一瞬、驚いた顔をする。思わず声に出てしまった俺自身もびっくりした。全然、無意識だったので、焦って訂正をしようとする。
「あっ、い、嫌なら無理に……」
「ううん、そんなことないよ! うん、絶対に行く!!」
焦っていた俺に気付かないぐらの興奮した声で結奈が返してきた。それにめちゃくちゃ嬉しそうな笑顔を見せる。
「予定とかなかったのか? それに俺と一緒に行ってもいいのか?」
「えぇ、なんで? 蒼生くんと一緒だから行くのよ。それに元々予定はないから」
笑顔だった結奈はちょっとムッとした顔をする。俺の問いかけは愚問だったようでこれ以上言うと危険な気がしたので止めることにした。
俺自身も花火大会はこれまで小学生の低学年の頃に親と一緒に行って以来行っていない。
「じゃあ、楽しみにしてるよ」
「うん、私も楽しみにしてる!」
やっと元のご機嫌に戻った結奈は笑顔いっぱいになった。友達とも行った事がない花火大会に行くのはちょっと不安になる。
(これって、普通にデートになるよなぁ……人も多いし、はぐれたりしないように手を繋いだり……)
ちょっと落ち着いて頭の中を整理したが、想像が邪魔をして真面に考えがまとまらない。何の想像をしているんだと気を落ち着かせる。多分、俺の様子が少しおかしかったのだろう、結奈がちょっと不思議そうに見ていた。
それからの帰り道は、花火大会の事が頭の中で踊っていて上の空だった。でも結奈も同じ雰囲気だったような気がした。
花火大会当日、待ち合わせの場所に着いたが気が早くて約束した時間よりかなり前だ。でもあまりウロウロとして時間が過ぎてはいけないので、その場で待つ事にした。
(思ったよりも人が多いなぁ……)
家族連れ、友達同士、そして恋人同士といった感じでいろいろな人が歩いている。俺と結奈は周りからどう見られるのだろう……やはり恋人?それとも友達?……普通に考えると恋人だよな……
(いいのかな……知り合いとかに会ったら何て答えたらいいのだろう。結奈は何て答えるのかな……)
同じくらいの年代の男女が手を繋いで目の前を通り過ぎる。まだ初々しい雰囲気がしている。
(結奈と一緒に歩いていたらあんな風に周りから見えるのかな……)
普段から学校帰りに一緒なのだが、あまり意識した事はなかった。でも変に意識してもいけないから考えるのはやめようと大きく深呼吸をして気分を変えようとしていた。
すぐ近くにある時計を見てまだ時間があまり過ぎていないので肩を落とす。これまではどちらかというと結奈を待たせる事が多かったので気をつけようと反省をした。ただほとんど外で試験勉強をする時だったので元々気がのっていない事が多い。
「あ、蒼生くん! ごめんね〜 もしかして待たせた?」
少し待つのが退屈になりかけていたタイミングで結奈の声が聞こえてきた。声がする方向に目を向けると可愛らしい浴衣姿の結奈が視界に入る。
「あっ、い、いや、そ、そんなに、ま、まってない……」
「……ん、どうしたの?」
あまりに辿々しく答えた俺の様子がおかしいみたいで、結奈はちょっと困った顔をしている。俺はただ結奈の浴衣姿があまりに可愛いので直視出来ないだけなのだ。
「……浴衣が」
「ふぇ!? 浴衣? あぁ、昨日買ったの、せっかくの花火大会だからね。蒼生くんと二人で行く初めての花火大会!」
めちゃくちゃ嬉しそうな顔で話している結奈はすごく眩しかった。嬉しいが全身から溢れ出ているのが分かる。
「そ、そ、そうなんだ……に、似合ってて、か、可愛いよ……」
俺は勇気を出して声に出すが、普段の様になかなか出ない。やはり恥ずかしい……多分、顔が熱いので真っ赤になっているのかもしれない。
「えっ、あっ、あ、ありがとう……うぅ……」
それ以上に結奈は恥ずかしかったみたいで、みるみる顔が赤くなった。頭の上から湯気が出そうな勢いだった。きっと周囲から見るとこのにやりとりはただのバカなカップルにしか見えないだろう。




