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35.試合の後と怪我の具合

 試合終了と同時に歓喜に沸いたが俺の体は疲労と激痛が走った。試合後の挨拶も終わり永尾に肩を貸してもらいながらベンチに戻っていた。


「ちょ、ちょっと、だ、大丈夫なの……」


 血相を変えて結奈が駆け寄ってきたので、やれやれといった表情を永尾がしている。いつも事だから永尾も分かっているみたいだ。

 ゆっくりと永尾の肩から手を離して、永尾はその場を離れて一人で立って歩き始めた。でも激しく動いてテーピングが緩んでいるのか、痛みでバランスを崩してしまう。


「……あっ!?」


 咄嗟に慌てて結奈が支えようとしたが体が大きい俺が覆いかぶさるように抱きついてしまう。

 とりあえず倒れなかったが、周囲から見ると勝利して嬉しくなって抱きついたように見える。それに俺は汗まみれで、間違いなく結奈に汗が掛かっている。今度は俺が慌てて体勢を立て直す。


「ご、ごめん……」

「う、うん、いいよ」


 謝りながら結奈の顔を窺うとちょっと涙目だったが笑っている。一瞬、ドキッとした。これまで見た事がないくらい透明な笑顔だった。


「で、でも、汗が……」

「ううん、そんなの気にならないよ」


 笑顔の結奈は慌ててしまうのかと思ったが、意外と冷静だった。結奈も興奮しているみたいだ。よく見るとかなり俺の汗で濡れてしまっている。


「蒼生くん、ありがとう……私、凄く感動した……それにあんなに集中している姿、凄かったよ」

「そ、そんなことないよ……」


 濡れているのを全く気にする様子がない結奈が笑顔できりっとした表情なので恥ずかしくなってしまった。いつものように結奈の顔を見られない。ちょっとだけ照れ隠しみたいな笑顔をして視線を逸らす。


「……これが本当の蒼生くんなんだね」

「ははは、これからいくらでも見る機会はあるよ」

「うん、そうだね。私はマネージャーで彼女だからね!」

「ははは……えっ、い、今、な、なんて……」

「えへへーー」


 やっと結奈は屈託のないいつも笑顔になったが、どう返事をしていいのか目を丸くする。結奈の笑顔を見ているとちゃんと返事を返せない自分が情けなくなってくる。


「あ、あっ、そう、そろそろ移動しないと……」

「うん、そうだね」


 周りを見ると片付けが終わり移動をし始めていた。ちょうどいい理由になってその場を誤魔化せそうだ。結奈も察してくれたのか嫌な顔せずに笑顔のままだった。本当に情けない……

 もやもやしながら動き出そうとしたが、やはり痛みですぐに歩き出せないのでもたついてしまった。


「あっ、そうだ……」


 そう言って急いで結奈が俺の隣にピタリとくっ付いて、体を支えてくれた。もう永尾達は移動し始めていて近くにいないのだ。


「わっ、悪いよ……それに汗まみれだし……どうにかして歩くよ」

「もう、さっきも言ったでしょう。汗も気にならないし、それに無理して歩いたらもっと悪くなるよ」


 しっかりと支えられるように密着してきた結奈はムッとした顔をしている。俺も一人で歩くより支えてもらったら痛みが和らぐ。もうここは結奈に甘える事にした。


「ふふふ、ちゃんと蒼生くんの力になれたね」

「ありがとう、今日もいっぱい結奈に助けられたな」


 無理しない程度に支えてもらうと結奈は満足した表情に変わった。俺もやっとホッとした落ち着いた気持ちになって皆んないる場所へと移動した。

 そのまま帰りに病院に寄って診察をしてもらったが骨には異常がなかったので、とりあえずは大事に至らなかった。

 もちろん翌日の試合はベンチに入らず観客席で観戦した。そして試合結果は残念ながら惨敗だった。


 週が明けて学校があったが、終業式だけで授業はなかった。朝、教室に入った時に松葉杖をついて歩く姿に注目が集まってしまい、結奈がクラスメイトに説明をしてくれた。そこで結奈が試合の事を話してあまりに俺の事をオーバーなくらい誉めているのでちょっと恥ずかしかった。

 あっという間に下校時間になり、今日は部活が休みだった。松葉杖をつきながら歩いていて、隣には結奈が歩いている。


「しばらくはお休みだね……」

「そうだな……」


 結奈は寂しそうな顔している。骨には異常がなかったがまだ腫れは引いていない状態でしばらくは走ったり跳んだりは出来ないので部活のは休む事になった。顔を出したかったが、無理をしてはいけないからと宮瀬先生から完治するまで来るなと言われた。


「うぅ……当分の間、会えないのよね」

「あっ、あぁ、そうだな……」


 更に落ち込んだ顔をする結奈の足取りが重たくなる。もちろんマネージャーの結奈は部活に出ないといけない。毎日のように顔を会わせていたから、不安な気持ちになったのかもしれない。

 期末試験の前から会わない日がないぐらい会っていたし、すぐそばにいたから余計に感じてしまうのだろう。


「ちゃんと戻ってくるよね?」

「何言ってんだ、当たり前だろう。怪我が治ったら戻るよ」

「……うん。そうだね」

「もうそんな顔をするなよ。心配しなくても大丈夫だから!」


 松葉杖なので立ち止まり、隣を歩く暗い顔をした結奈の頭を軽く撫でると、やっと表情が柔らかくなってきた。結奈は小さく頷きちょっとだけ恥ずかしそうな顔をした。

 結奈の顔を眺めながら、早く治るようにならないかなと思っていた。


(……会えないと、寂しく思うのかな)


 そばにいるのが当たり前だったにであまり実感がないのでよく分からない。


(でも、そうだな当たり前が急になくなると……)


 不意にしーちゃんと別れた時の事が脳裏に浮かんだが、あの時とは全く状況が違う。もう会えなくなる訳ではなく、また完治すれば会えるのだから全然違うのだ。

 変な事を考えてしまったと気持ちを切り替える。ここで俺まで暗い顔したらダメだと結奈を元気づけないといけない。


「う〜ん、仕方ないな……ちょっとだけ寄り道するか」

「えっ、大丈夫なの?」

「まぁ、無理しない程度で」


 帰り道で一緒にお昼を食べるようにして、ちょっとだけ二人の時間を作る事にした。今日一番の結奈の嬉しそな顔を見れたので俺も幸せな気持ちになれた。

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