34.怪我と意地のシュート
ハーフタイム中、チームメイトが代わる代わる俺の様子を見に来る。捻った足は宮瀬先生がガチガチにテーピングを巻いてくれた。
とりあえずはなんとかこの試合は持ち堪えられるような気がしてきた。シューズを履き直し紐を強めに結んでいた。
「……ごめんね、また力になれなかった」
肩を落として俯いた結奈が横に座っている。初めは結奈がアイシングをしてくれていたがいざテーピングをしようとしたが上手くいかなかった。知識はあるけど本格的なテーピングをした事がなかった。
結局、宮瀬先生がしてくれることになったのだ。
「ははは、そんなことで落ち込むなよ。ちゃんとアイシングとかしてくれただろう、それで十分だよ、ありがとう」
落ち込んでいる結奈の頭をポンポンと撫でると小さく頷いて顔を上げてくれた。顔を上げた結奈は心配そうな表情を浮かべている。
「でも、その足、大丈夫なの?」
「う〜ん、大丈夫かと言われると大丈夫ではないけど……」
ここでベンチに下がる訳にはいかない、もちろん俺が欠場すればチームとしても戦力ダウンになってしまう。ここまで強豪チームに対していい試合をしているのだから交代したくない。
先生には出られると伝えていたが結局、後半のスタートはベンチだった。試合の様子を見てすぐに交代するから気持ちを切らすなと言われた。
ベンチから集中して試合を見つめている。相手チームのディフェンスを見てどう攻略すればいいのか、一人一人の力量を客観的に確認する事が出来た。もちろん俺達チームのそれぞれ動きも確認出来た。
時間が過ぎていきいつの間にか逆転されて、試合の流れも相手チームに傾いていた。第三クォーターも残り少なくなっているタイミングで交代の合図が出る。これ以上相手チームに流れを持っていかれないようにする為だ。
「絶対に無理したらダメだからね!」
コートに出る前に険しい表情で結奈がかなり強めに釘を刺す。
「……分かっている」
いつもより低い声で答える。足の怪我よりも相手の勢いを止める事だけを集中していた。
猪口と交代して入ると山寺と山西はかなり疲れていた。デフェンスの時間が多くて振り回されたみたいだ。声を掛けてきた永尾も大分体が重たそうだ。
「……大丈夫か? 無理するなよ」
「問題ない。それよりもここまでやってきたからには絶対に勝つぞ!」
山西からパスが回ってきた。ドリブルをしながらゆっくりと相手コートに進む。本来ならポイントガードの山西が運ぶのだが、疲れと勢いに押されて足取りが悪いので俺が相手コートまで進んだ。
山西が少し遅れて付いてきた。その時、一瞬相手デフェンスの気が緩んだ。俺は見逃す事なく一気に中央から切り込む。相手も足を負傷している俺がいきなり単独で来るとは想像していなかったようだ。慌てて止めに来るが、ことごとくディフェンスをくぐり抜けてあっさりとシュートを決めた。
「よし! ここからだ!!」
「「おぅーー!」」
俺の大きな声で息を吹き返すように皆んなが一斉に声を上げる。デフェンスに戻る顔が皆んな一気に明るくなった。とりあえず交代して役目は果たせた。
怪我をした俺があれだけ動ければチーム全体にいい影響を与えれたはずだ。でも足の痛みは思ったよりもかなりきている。
(あとどれくらいもつかなぁ……なんとか最後まで)
顔には出さないように気を付ける。せっかくの流れを取り戻せそうな雰囲気に釘を刺してしまう。まずはこの第三クォーターを乗り切らなけれならない。
なんとか同点まで戻す事が出来て、第三クォーターが終わり、インターバルになった。短い時間でもう一度テーピングをきつく締め直してバッシュを更にきつく結ぶ。
「ねぇ、本当に大丈夫? 無理してない?」
心配しすぎて泣きそうな顔になっている結奈が見ている。この顔はちゃんと返事をしてあげないといけない。
「大丈夫だ! そんな顔をしないで笑顔で見ててくれよ」
そう言って俺はコートに向かう。決して大丈夫な状態ではないけど絶対に笑顔にしないといけないといつも以上に集中をする。第四クォーターが始まる時には中学時代の全盛期であった久しぶりの感覚になった。
(この集中力はあの時以来だな……あと十分だ)
ここからは怒涛のようなオフェンスとディフェンスをしていく。もう一度やってくれと言われてもきっと無理だろう。皆んなも俺に釣られるようにペースを上げると一気に逆転する。
でも相手チームも必死に付いてきた。リードは二点差で残り時間が無くなってきた。相手チームの攻撃で光井のシュートを俺がブロックして止めると一気に速攻を仕掛ける。
マイボールにしてキープしてもよかったのだが、俺が走り出して合図を出した。光井が必死に俺をマークしてきて、時間的にも最後の一騎打ちだ。
山西から鋭いパスがきて光井がカットしようとしたが届かずに無事に受け取る完全に俺が一歩前に出ている状態になった。だが一瞬、シュートをしようと踏ん張った時に足に激痛が走りスピードが落ちてしまった。
(……しまった、追い付かれてしまう)
案の定追いついた光井は体を入れてファール覚悟でシュートを止めにきた。体と体がぶつかり体勢が崩れるが、俺はその前にリングに向かってボールから手を離す。俺はそのまま光井に押さえつけられるように倒れてしまった。ピッと笛が鳴った。
ボールはリングに吸い込まれ、得点が認められてデフェンスのファールになりフリースローになった。
「……すまん」
顔を上げた瞬間、悔しそうな顔をした光井から聞こえてきた。そのまま光井は戻っていき、すぐに俺の周りにはチームの皆んなが駆け寄ってきた。
心配そうな顔をして皆んなが見ている中で永尾が手を貸してくれて立ち上がる。
「……ありがとう。これでフリースロの一本を決めれば、ほぼ俺達の勝ちだな」
「本当に凄い奴だな……宅見は……」
永尾と肩を並べて、フリースローラインまで戻った。まだ集中力が切れていないようで、足の痛みは強く感じていない。
ワンショットのフリースローを確実に決めて五点差まで得点が開いた。残り時間も僅かになってた。相手ボールから再開されて、ベンチいる猪口や結奈が叫ぶようにカウントしている。
「三、ニ、一!」
一段と大きな声で結奈が叫ぶと、同時に終了の笛が聞こえた。久しぶりの感覚を味わえた試合が終わった。これまでの試合で一番疲れた。




