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32.一年大会と不安

 期末試験は無事に終わり、結果も前回より良くなっていた。これも全て結奈のおかげで、試験結果に結奈は満足しているようだった。

 一学期も残り少なくなってきたが、俺達バスケ部は週末に一年生大会が控えている。一年生だけと言っても俺達チームの実力を把握するには絶好の機会になる。


「明日からの試合はどうなの?」

「う〜ん、そうだなぁ……」


 練習が終わり結奈といつも通りに一緒に帰っている。三年生が引退して部員が減ってしまい、練習内容が限られている。なかなか試合形式の練習が出来ていないので少し不安がある。


「あれ、蒼生くんらしくない返事だねぇ」

「そ、そんなことはないよ」


 結奈から予想外の言葉に慌ててしまう。自信がない訳ではないけど、確信はないので曖昧な返答をしてしまった。


「もう、心配しなくてもいつも通りで大丈夫だよ。きっと上位を狙えるから私達のチームは!」

「し、心配なんかしてないよ……うん、そうだな」


 笑顔で結奈は励ましてくれて、ちょっと弱気になっていた俺は反省をした。この前の県大会では負けてしまったが、途中出場してからは内容的にかなりいい感じだった。まだ新チームになって試合をしていないので不安もあるが、なんとかなるような気がする。


「ふふっ、そうだよ。蒼生くん、明日も期待してるからね!」

「あぁ、任せてくれ!!」


 笑っている結奈の顔を見ていると悶々としていた気持ちが晴れてきた。


(また結奈に助けられたな……そうだ、結奈に喜んでもらおうと再びバスケを始めたのだ)


 最近は忘れがちだったけど、初めの目標を思い出した。もちろん今は目標がこれだけではないが、まずは結奈を笑顔にさせないといけない。小さな目標だけど大事な目標だ。きっとこの目標を達成するとチームもいい結果を得る事が出来るはずだと思うと少し肩の力が抜けたような気がした。


 翌日、朝イチで初戦を迎えた。この試合に勝つともう一試合ある。この二、三年は部員不足で大会に出場していなかった事もあり一回戦からの戦いになった。

 さすがにチーム全員朝から緊張気味だで、昨日の帰りに励ましてくれたはずの結奈も緊張した面持ちだ。逆に俺は昨日の事で気持ちに余裕がある。


「……結奈、大丈夫か?」

「えっ、う、うん」

「頼むよ、マネージャーは結奈しかいないのだから……」

「う、うん……」


 昨日とは正反対で、結奈の表情が固いままだ。試合に出る訳ではないけど、いつも笑顔のマネージャーがこんな調子だとチーム全体に影響が出てしまう。


「昨日、任せてって言っただろう。ちゃんと応援してくれよ!」


 ちょっと恥ずかしかったが、結奈の頭を軽く撫でるようにポンポンとする。


「えっ、あっ、う、うん……ありがとう」


 一瞬、驚いたような顔を結奈は見せたが、すぐに元の顔に戻りいつもの表情になる。やっと平常心になってくれたみたいだ。

 チームメイトはいつものことかと言わんばかりの呆れた顔で俺と嬉しそうな笑顔の結奈を眺めていた。そのおかげで浮き足立っていた雰囲気がいつも通りの空気になった。

 これで良いか悪いか分からないが、とりあえず試合が出来る状態になった。

 初戦は試合前の練習を見るからにはたぶん問題ない相手だろう。試合開始前に宮瀬先生からスタメンを告げられる。もちろん手抜きをすることはないベストメンバーで臨む。

 試合開始してすぐにボールが回ってきた。ドリブルをしながらパスのコースを探す。相手も様子見であまり前からプレッシャーをかけてこない。

 本来なら山西が中心でボールを回すのだが俺がボールを持っている時点でまだ緊張しているのようで、村野や山寺も同じく動きが鈍い。永尾だけは通常通りの様だ。

 永尾に目で合図を送りパスを出すと俺が走り出す。永尾がボールをキープしているので、その横を走り抜ける。同時に俺をマークしていた相手を永尾がブロックをして一瞬、俺がフリーなる。


「こい!」


 俺は振り向くことなくゴール前に向かうとジャストのタイミングでパスがくる。そのままキャッチしながらシュート体勢に入ると簡単にシュートを決めた。


「よし! これでいける!!」


 普通のランニングシュートだが、たぶんこれでチームがちゃんと動くきっかけになるはずだ。相手チームが動揺したみたいで、すぐにオフェンスに移れない。

 無理やりパスを出すが、村野が反応してカットしてマイボールになる。そして村野はそのまま走り込みシュートを決めて、固い表情が和らいだ。山寺も山西も同様にシュートを決めると笑顔が見えた。


「これで問題ないな」


 一通りのメンバーがシュートを決めると永尾が呟くように俺に声をかけた。もちろん永尾もシュートを決めてリバウンドもしっかりと取っている。


「あぁ、そうだな」


 後は交代しながら無理をせずに次の試合に備えて体力を温存していくだけだ。七人しかいない俺達のチームはとにかく選手層が薄い。だから各自いろいろなポジションをこなせるように練習をしてきた。さっそくこの試合でいろいろと試せそうだ。


「蒼生くん、凄いよ!」


 改めて得点を確認すると圧倒的な点差になった。ハーフタイムになったのでベンチに戻ると、興奮気味に結奈が駆け寄ってきた。もちろん笑顔いっぱいだ。この笑顔を見る為に頑張ったのだが、飛びついてきそうな雰囲気だ。


「はいはい、分かった。とりあえず水分を摂らせてくれ!」

「はいどうぞ」


 笑顔だった結奈がぷくっと頬を膨らませてボトルを渡してくれた。あまりの勢いでちょっと恥ずかしかったので無愛想に答えたのだった。


「宅見も大変だな……」

「……まぁ仕方ないさ」


 隣に座った永尾が結奈に聞こえない声で呟く。俺も結奈に聞こえないように答えた。


「あぁ、なにを言ってるの? 二人でコソコソ話して!」


 さらにムッとした顔をして結奈が俺と永尾を睨むようにして立っている。その光景を山西達が笑いながら眺めていた。試合中なのを忘れてしまうぐらいのいつも通りの光景だ。


(このチームで良かった……これならやっていける)


 勝っているのもあるけどチームの雰囲気は最高だ。それにこの前の負けた大会でも雰囲気は悪くなかった。これからいろいろな場面があるに違いないが、きっとこれなら皆んなで協力してやっていけそうだ。試合前から心の底にあった過去の負の思い出から生まれた大きな不安が完全に消えた。

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