31.5 お昼休みと友達 【結奈の視点】
今日はずっと蒼生くんを避けてしまい、お昼の時間になった。登校時間も大きくずらしてしまった。朝から蒼生くんの視線に気が付いているけど気付いていないフリをしている。
気付かないフリをするのはつらい……でも、どんな顔をして蒼生くんと話せばいいのか分からない。時間が経つごとにどうにもならない状態になってきている。
(どうすればいいの……)
私はあまり友達が多くないし、ましてやプライベートを気兼ねなく話せる人はほとんどいないのだ。クラスの友達とお昼を食べるけどあまり食べる気になれない。でも食べないと皆んなから不審がられていけないので、とりあえずは食べる事にした。
それが状況を変えるきっかけになった。食べながら話していた中で、女子バスケ部の話題になった。
(あっ、そうだ! 私と蒼生くんの共通の友達がいた!)
食べ終わると、不自然にならないように輪から抜けて教室を出た。共通の友達がいる教室に向かうが、声をかけるにもどうすればいいのか悩んでしまった。
そもそも一人で他のクラスに行く機会はこれまであまりなかった。
(う〜ん、悩んでもダメね……もうおもいっきり行くしかない)
そもそも教室にいるのかどうか分からない。私にしては珍しく行き当たりばったりになってしまった。
教室の前に着いて、中を覗き込む。それぞれ数人づつに分かれて食べたり、話をしているので誰も私の存在に気が付いていないみたいだ。
(え〜ん、どうしよ……ここで声をかけるのは……)
いざ呼び出そうとしたタイミングで怖気付いてしまった。多分、あの後ろ姿は間違いないのだろうけど、声が出ない。それに話をしたと言ってもだいぶ前にあった練習試合の時だけで後は挨拶程度しかしていないのでちゃんと話してくれるか分からない……ましてや蒼生くんの過去の話だ。
躊躇している間にふとした拍子に本人がこっちを向いてくれた。
「あれ? どうしたの東條さん」
「は、原田さん……よかった……」
私に気が付いた原田さんが慌てた様子で向かってきてくれた。きっと私の顔が助けを呼ぶような表情になっていたのかもしれない。
「なにかあったの? もしかして蒼生とケンカでもしたの?」
「えっと、あ、あの……」
私の前に来た原田さんは心配そうな表情をしていた。予想外の反応で返答に困ってしまう。どう説明すればいいのかと迷っているうちに原田さんは元いた場所に戻り、友達とひとことふたこと伝えるとまた私の所にやって来た。
「ここじゃなんだから、そうね……移動しましょう」
「は、はい……」
ちょっと大袈裟な感じがしてきたが言われるがままに原田さんに付いて行くことにした。
私達がいる三階の校舎と校舎の間にある渡り廊下に着いた。この場所からは中庭が見えて、反対側は外の景色が見える。
「ここならよさそうね、それでいったい何があったの?」
ちょうど日陰になって風が通る場所で原田さんが口を開いたが、あまりに深刻そうな表情で焦ってしまった。
「えっと……蒼生くんとは喧嘩した訳でもなく、揉めている訳でもないの」
「そ、そうなの、蒼生が何か言ったのかと、私の早とちりかな?」
一瞬、原田さんの顔から笑顔が見られたが、私の一言でまた戻ってしまう。
「いや、そう……蒼生くんは何も言ってないけど私が……」
「ん……言ってないけど?」
私の返事に原田さんの表情が再び曇ってくる。一杯一杯だった私の頭の中に蒼生くんの幼馴染のしーちゃんの名前が浮かんできた。本当はこの事を確認しようとしたのを思い出した。
「うん……あのね、原田さんに聞いてみたい事があるの……」
「えっ、な、なに? やっぱりなにかあるの?」
「ううん、なにもないけど……あ、あの蒼生くんの幼馴染の事で……知ってるのかなって……」
私の問いかけに原田さんはすぐに反応した。やはり知っているみたいだった。
以前、蒼生くんから原田さんとは同じ小学校だったことを耳にしていた。だからもしかしてと思って尋ねてみたのだった。
「あぁ……聞いたんだ……そうか、じゃあ仕方ない……」
原田さんは小学校の時の話を説明してくれた。原田さんは蒼生くんと小学校の時にはまだ親しくなかったけど、幼馴染のしーちゃんとは仲が良かったみたいで一緒に遊んだりしていたみたいだ。もちろん蒼生くんとしーちゃんの仲も知っていた。
「う〜ん、確かに蒼生としーちゃんは凄く仲良かったよ。でもそれは小学校の時の話で、今は東條さんが一番じゃないの?」
「でも、蒼生くんのあの表情は思い出という感じではなかった……まだ未練というか後悔というか……心の中にまだ残っているじゃないかな……そんな事を考えていると気持ちがだんだんと落ち込んでいくの」
「落ち込んでいくって……東條さんは蒼生の彼女でしょう? そんなに弱気にならなくてもいいんじゃないの、もっと自信持ってよ!」
俯いていた私は慌てて首を振る。大袈裟なぐらい首を振るので不思議そうに原田さんはじっと見ている。
「か、彼女って……私と蒼生くんはまだちゃんと……」
「もう、そう言うところだよ……今、紛れもなく蒼生の隣にいるには東條さんなの! しーちゃんじゃなくて結奈だよ!!」
力強い声で私を励ますように原田さんはしっかりと私の目を見つめている。その力強い瞳でだんだんとその気になってきた。
どんよりとしていた気持ちに光が差し込み明るい未来が見えてくるような気がした。
「……うん。そうだね。私だよね。私が蒼生くんの隣にいるんだから、誰にも譲らないんだよ」
「ふふっ、そのだよ。その気持ちを忘れないようにね。それに蒼生はああ見えて優しいから大丈夫、心配ないよ」
私の答えに満足したみたいで原田さんから笑みが溢れた。私も気が張っていたみたいでやっと気持ちが軽くなり笑顔になれた。
渡り廊下に気持ちいい風が通り抜ける。蒼生くんに今日の事を謝らないといけない、でもどんな顔をしたらいいのかな……ちょっと不安もあるけど蒼生くんを信じて、もっと自分に自信を持とうと心に決めた。




