30.思い出と幼馴染
晩御飯を食べ終えて部屋に戻ってゆったりとしている。普段と違うのは目の前に笑顔の結奈がいるところだ。
「ふふっ、ご飯美味しかったわね」
「うん、喜んでもらえて良かったよ」
父さんがまだ仕事から帰っていなかったので、三人で食べることになった。いろいろと根掘り葉掘りと聞かれると思っていたが意外にもそうではなかった。それよりもちょっと困ったことになった。
いつ結奈から問いただされるかハラハラしていた。確かに顔は笑顔なのだけど瞳がいつもとは違うのだ。
「……ねぇ、蒼生くん。ひとつ聞いてもいいかな?」
「は、はい……」
「話の中で出てきたしーちゃんは誰なの?」
試験勉強をしていた時の穏やかだった空気とは違ってピリピリした雰囲気になってきた。予想はしていたが食事の時に話題になったしーちゃんの事だった。
「えっと……なんて言えばいいのか……」
和やかな雰囲気で食べて始めた晩御飯だったが、母さんが言った一言からだんだんと結奈の笑顔が微妙に変化していった。一緒にいる事が多いから微妙な変化が見て分かる。だから母さんには分からなかっただろう。
なんて返事をするのがいいのか迷っていると結奈の視線が痛く感じる。
「別にいいのよ……言い難かったら言わなくても……私には関係ないし……」
きちんと返事をしない俺に結奈は冷めたような言い方をする。これまで見た事ない表情で、さすがにヤバい気がしてきた。
過去の事だし……このまま濁していてもいいことがないので話す事にした。
「……幼馴染だよ。隣に住んでいた……小さい頃から俺の家に来ていたんだよ」
「へぇ……そうなの」
「うん、しーちゃんの両親が帰宅するのが遅くてよく晩御飯とか一緒に食べていたんだよ。それに母さんが女の子が欲しかったから、本当の娘みたいに可愛がっていたんだ……」
「あぁ、それでお母さんが懐かしそうに話していたのね」
「だから学校から帰ってくるとほとんどいつも一緒にしーちゃんといたんだ、お風呂とかまで一緒に……」
「えっ、お風呂? だって女の子でしょう?」
ジトっとした目で結奈が見るので慌てて否定をする。お風呂どころか一緒に寝ていたりしていたが、それ以上話すのはやめておいた。今考えるとさすがにちょっと恥ずかしい思い出だ。
「いやいや、低学年の時の話だよ。そんな目で見ないで……」
「あら、そうなの……」
「うぅ……だからあんまり言いたくなかったんだよ。でもしーちゃんはすごく活発な子でよく男の子と間違われたりしていたんだ」
当時は俺よりも運動神経は抜群で走っては負けた事もあった。一緒に遊んでいるうちに気が付けば同じくらいの足の速さになった。どんな運動でも優れていて球技も得意だった。しーちゃんがいたおかげでバスケをする下地が出来たのだろう。
「ふふっ、それで、今しーちゃんは何処に?」
「あぁ、小学校四年生の時に海外に引っ越しして……当時、しーちゃんはここに残りたかったみたいで大変だったんだよ」
「そうなの……」
「うん、一緒にいるのが当たり前だったからね……ずっとね……」
ちょっと複雑そうな表情を結奈は浮かべている。俺もしーちゃんが引っ越しをするのがショックで二人で泣いていた。しーちゃんが引っ越しをした後は心にポッカリと穴が開いたみたいで何も手につかない日が続いた。
だからしーちゃんがもしここに残っていたら俺はバスケをしていなかったかもしれない。元々はしーちゃんと別れた事で始めたのがバスケなのだ。
しーちゃんに鍛えられたおかげですぐにミニバスでも頭角を現してレギュラーになった。中学に入学してもやはり同級生よりもレベルが段違いで一年生から公式戦に出場していた。
「うん、最初の頃は帰国してきた時に会ったりしたけど、俺がバスケを本格的に始めたから会う機会がなくなってもう長い間、しーちゃんに会ってないよ」
「……そうだったの」
俺が昔の事を思い出して少ししんみりとした雰囲気になると結奈も同じようにちょっと寂しそうな顔をした。話をする前に機嫌の悪かった結奈の姿はすっかりと無くなっていた。ちょっと暗い空気になってしまったがとりあえずは誤解が解けたみたいで胸を撫で下ろした。
暫くして、父さんが帰ってきたので、車で一緒に結奈を家まで送り届けた。結奈が家に帰った後にメッセージが送信されてきた。
送ってくれた事としーちゃんの話をしてくれた事のお礼の内容だった。返事を送りかえした後にしーちゃんとの写真を探して、見つけた写真は二人が笑顔いっぱいで写っていた。
(しーちゃん、元気にしているのかな? あのままやんちゃな感じだったりして……でも、もしここに残っていたら今はどんな風になっていたんだろう)
そのまま変わらず、ずっと一緒にいたのだろうか? それとも別々の進路を歩んだのだろうか? 仮想の話を考えても仕方がない。
(たぶん……一緒にいるだろうな……しーちゃんがいなくなる事は想像出来ないな)
性格も合って相性もばっちりだったそれだけ当時はしーちゃんとの絆は深かった。でももう過去の事を思い出してもしーちゃんはここにはいないのだ。
いろいろと思い出してくると少し寂しい気持ちになってきたが、この先会う機会はないだろう。
それに今そんな感傷に浸っている場合ではない。結奈と約束した範囲の試験勉強を始めないといけないので机に向かう事にした。




