28.次の日の予定
試験週間の初日からガッツリと勉強が始まった。予想通りに結奈は手を抜く事なくしっかりと勉強を見てくれる。学校がある日は時間いっぱい放課後に残って勉強を見てくれた。
もちろん朝も一緒に登校しているので、しっかりとその日の夜の勉強について質問されたりした。例の単語帳の追加も毎日渡されてかなりの厚みになってきた。
そして学校が休みの週末も一緒に試験勉強をすることになっている。
「もう、遅いよ!」
「ごめん、ちょっと寝坊して……」
待合わせ場所の図書館に着いたが、三十分ばかり遅刻してしまった。頭を下げる時にチラッと見た表情は、ほっぺをぷくっと膨らませて結奈は機嫌が悪そうだ。目覚ましはセットしていたけど学校が休みなので油断してしまい二度寝したのが原因だ。
「蒼生くんの為に試験勉強を手伝ってるのだからね」
「……はい、反省してます」
結奈の声は普段より厳しくて、バツが悪るすぎて俯きながら答える。結奈の言う通りで俺の為に休みの日も一緒に勉強してくれるのだから何も言う事は出来ない。
「う〜ん、ちゃんと反省してる?」
結奈の声はまだ厳しいままだ。ゆっくりと顔を上げるとやはり結奈はまだ機嫌が悪いというより怒っている感じだ。時間は守らないといけないと反省をする。
「……もう遅刻はもうしません」
もう一度頭を深々と下げて謝った。さすがに三十分以上の遅刻は不味かったと二度寝した事を後悔した。でもここまで怒るとは予想外だった。どうしようかと悩んで、少し間が空いたがまだ頭を上げられない。
「……ふふふ、もういいよ。ちょっと意地悪し過ぎたかな?」
「えっ!?」
何事かと慌てて顔を上げると、いつもの優しい笑顔に戻った結奈が視界に入ってきた。よかったと胸を撫で下ろして一息を吐く。
さすがに心臓に悪い……でも結奈を怒らせると、とてもヤバイことになる事がよく分かった。
「ちょっと疲れが溜まってきたかな? 昨日も放課後遅くまで頑張っていたからね、今日は早めに終わろうか」
「う、うん、でも……あ、あぁ、そうだ、じゃあ、明日も一緒に勉強してもいいかな?」
体調を気遣ってくれる結奈に感謝しながら、今日の遅刻をした事の罪滅ぼしになるかなと提案した。下手な事を言うよりも今は勉強の事がいいかもしれない、日曜日はもともと一緒勉強をする予定はなかった。
「うん、私はいいけど……場所がないのよ」
あっさりと返事をした結奈だったが、予想した答えと違っていた。もともと日曜日に予定を入れていなかったのには理由があったみたいだ。
「ここは?」
「ううん、ダメなのよ。明日はイベントがあるみたいで使えないの……」
「そうなんだ……」
残念そうな顔をする結奈はあきらめかけようとしている。以前、ファミレスやファーストフードでは勉強をしないと言っていたのですぐに頭の中に思いつく場所がない。
でもこのまま中止にするのは自分から言っておいて悔しいような気がする。いい場所がないか頭を捻り考える。
「……ん、じゃあ、俺の家でもいいかな?」
なかなか候補が出てこなくて、考えついた最終的な答えが自宅がだった。いいか悪いかよく分からない。
「えっ、いいの? 蒼生くんの家で!」
結奈が驚きの声を上げる。これまであまり聞いたことがないくらい元気いっぱいな声だった。予想外の反応に押され気味になる。
「……う、うん、いいよ。俺の家で、問題ないよ」
「ほ、ほんとうに……嬉しいよ」
「そんな大袈裟だよ」
「ううん、そんなことない。じゃあ、明日に備えて今日は控えめにしよう。明日、楽しみだね!」
一気に結奈は興奮気味になった。何故か結奈の言っていることがおかしいような気がする。でも勢いに押されたままの俺は笑うしかなかった。
その後、結奈の言った通りに早めに切り上げて図書館をあとにした。ただ一緒に勉強している間、結奈は機嫌が良かった。
家に帰ってから部屋に戻ると少し後悔した。
(片付けないといけないな……)
部屋の中を見渡して汚いという訳ではないが結奈が来るのでやはり掃除はしていないといけないだろう。日頃から掃除機をかけることなどないので母さんが驚いていたので、明日は友達が来て勉強をすると一応伝えておいた。
(とりあえず準備は大丈夫かな?)
本来は掃除をしている場合ではないのだが、前回よりも内容が濃い勉強を結奈と一緒にしているので少しだけ余裕がある。その分ちょっと疲れが溜まっていた。掃除がひと段落したのでほんの少しだけ休むつもりだったのだがそのまま爆睡をしてしまった。
「うぅ、やばい……さすがに不味いな……」
目が覚めた時は辺りがすっかりと暗くなっていた。まだ完全に準備が終わっていないし、昼間に結奈から言われていた宿題も解いていないかった。
結局、結奈からの宿題は夜遅くまでかかってしまい、就寝時間がかなり遅くなってしまった。ゆっくりと休むつもりだったのだが……
(まぁいいか、明日はここで勉強するから朝は焦らなくてもいいか)
試験前と言え、明日は日曜日なので少しくらいゆっくりとしてもいいかと油断して眠りについた。
翌日、目が覚めて時計を見た時に愕然としながら呟いた。
「マジか……約束した時間まであと三十分もないじゃないか……」
目覚ましは一応セットしていたが、知らない間に止めていたみたいだ。それから慌てて顔を洗って服を着替える。身支度をしながら再び時間を確認する。
(きっと結奈のことだから約束の時間より早く来るだろう)
それまでに完全に身支度を終わらせて、玄関で待ってないと母さんが迎えに出てしまう。そうなると面倒くさいことになる。
支度が終わり朝食を食べていないので、ちょっとでも何か食べておこうとキッチンで直ぐ食べられそうな物を探していた。
『ピンポーン』
玄関のチャイム音が聞こえてきた。やっと見つけた朝飯を食べようとした瞬間だった。食べようとしていた物を置いて玄関に向かおうとしたが、先を越される。
「あらっ、いらっしゃい……」
玄関から母さんの声が聞こえてきたがちょっとだけ声の調子が違う。何故か玄関の近くにいたようで、どうしようかと足取りが遅くなる。友達が来るとしか伝えていないし、結奈もまさか母さんが出て来るとは予想していないかもしれない。
「おはようございます!」
元気のいい明るい結奈の声が聞こえてきた。さすがは結奈だとちょっとだけほっとする。でもまだ何も解決はしていない、止まっていた足を急いで玄関に向かわせた。




