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26.曇りのち晴れ

 試合が終わってその後は現地解散になった。途中からの出場だったけど意外と疲れていて、皆んなとの別れ際に何か食べていかないかと誘われたが断っていた。結局、いつもと同じように結奈と帰る事になった。


「……惜しかったね」


 普段よりトーンが低い声で結奈は気をつかっているみたいだ。確かにここまでほとんど会話らしい会話がなかった。重たい空気に見えたのかもしれない、本当はただ疲れていたからで落ち込んでいた訳ではなかった。


「そうだね……でも交代した時にはあれだけの点差があったから仕方がないよ」

「そ、そうだね……」


 やはり気をつかっているみたいで、顔色を窺いながら表情も暗いままだ。


「……大丈夫だよ。落ち込んではいないから」

「えっ、そ、そうなの?」

「うん、さすがに悔しいけど、別に落ち込んだりしてはないよ。これからいろいろと大会があるし、たくさん試合もあるから落ち込むヒマはないからね」

「そ、そうだね!」


 笑顔で答えると結奈は安心した表情に変わる。良かったと俺も安心したが、俺の表情はそんなに暗い顔をしていたのかと反省した。

 やっといつもと変わらない表情に結奈が変わると重くるしかった空気が和らいできた。

 普段の学校から帰る道のりとは違うのでまだしばらくの間一緒にいることになる。今日の試合の内容を二人で話していた。バスケ部に入部して初心者だった結奈も三ヶ月が経ちいろいろと気がつくようになってきたみたいだ。


「村野くんとの連携もかなり良くなってきたね」

「うん、そうだなね。結奈さんが言うなら間違いないな」


 部活中ずっと側で見ているのだから良し悪しが分かるようになってきた。それだけ毎日真剣に練習を見ているからだろう。


「それに……今日の試合を見て確信したよ。えへへーー」

「……ん、何を?」


 凄く嬉しそうな表情をして結奈が俺をまじまじと見ている。何事か分からなないが、至近距離で見られるとちょっと恥ずかしくなってくる。


「蒼生くんが凄い選手だってこと、ずっと蒼生くんに釘付けだったよ!」

「そ、そんな……」

「それにものすごく楽しそうにしてたよ!」

「あぁ……」


 確かに負けはしたけど久しぶりに公式戦で肩の力を抜いて楽しくプレーが出来た。顔には出さないようにしていたが、こんな気持ちで試合が出来たのは本当に嬉しかった。チームメイトには感謝しないといけない。


「きっと今日の試合会場で一番の選手だったと思うよ」

「そんな大袈裟な……」

「ううん、そんなことないわ! 女の子がたくさん惚れちゃうレベルだよ!! 彼女の私としては困ってしまうけど……」


 ちょっと興奮気味でうんうんと頷き、一人で納得した表情を結奈が見せる。真面目な顔をしているので冗談とかではないのだろう。


「……えっ!?」


 思わず聞き流しそうになったが、この頃結奈は突拍子のない事を口走る。俺をからかう訳ではないようで、結奈自身は気がついていないみたいだ。


「どうしたの? そんなに慌てて」


 やはり気が付いていない、結奈はきょとんした顔で俺を見ている。どうしたらいいのか悩んでしまうが、あれこれ考えても仕方がない悩むのをやめた。


「ううん、なんでもない……」

「……そう?」


 不思議そうな顔で結奈が俺を眺めている。俺は意識しないように顔を背けて誤魔化した。この後の帰り道のバスの中では疲れたからと寝たふりをしていた。隣で優しく見守ってくれた結奈には悪いことしたかなと反省をした。


 翌日、部活の練習は休みだったがこれからの体制について話合いがあった。要するに誰がキャプテンをするのかという話合いだ。二年生の先輩達が実力的に出来ないと言ってきて俺達一年生の中から選ぶ事になった。


「ここは宅見にやってもらうのが一番だろう! チームで一番上手いし……」


 開口一番に山西が俺を指名してきた。すぐに村野と山寺も俺を見て大きく頷き同意する。


「……いや、俺には皆んなを引っ張っていく能力はないよ、それにそんな人柄でもないから……」


 多分俺に振ってくると思っていたので、大袈裟なぐらいに首を横に振って断りを入れる。

 中学時代に部活から逃げ出した俺だから務まる訳がない。過去の事を引き摺っている訳ではないが正直言って自信がない。

 また皆んなから裏切られるかもしれない、また一人孤立してしまうのかもしれない……

 山西達には詳しい事を話していないから事情を知らないはずだ。「何でだ?」と不満そうな顔で山西が見ている。でも上手いからと言って務まるものではない。

 このままだと長引きそうな雰囲気がしてきたタイミングで永尾が慎重そうな声で口を開く。


「……俺で良ければ」


 声の主、永尾に皆んなが一斉に振り向いた。このチームはキャプテンの経験者が多いので大変さは知っている。もちろん永尾も経験者だ。


「……いいのか?」


 永尾に尋ねてみる。同じ地区の中学だったから俺の事はよく知っているはずだ。それにもともとチームとして、永尾がキャプテンをやるのがベストな気はしていた。チームを引っ張っていくには十分な人物だ。


「あぁ、宅見には精神的に負担をかけないのがいいだろう。またいろいろなものを背負わせてもいけないし……」


 永尾の言葉に事情を知っている猪口と結奈は硬い表情で頷いた。山西達もその雰囲気が伝わったのか、様子が変わって永尾と俺の顔色を窺っている。ほんの少し間を置いて納得した表情を山西達がしてきた。少し空気が重たくなってしまったがなんとなく事情が伝わったみたいだ。


「ありがとう……いいかな? 永尾がキャプテンをすることで……」


 皆んなの様子を窺うと理解してくれたみたいで頷いてくれた。スムーズに決まってちょっとだけほっとする。

 永尾に気をつかわせたのは後でお礼を言わないといけない。それに皆んなの顔を見てこれからもチームの為にやっていこうと気持ちを更に強くした。

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