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24.幻のシュート

 週末にある地区予選に向けて部活の練習はいつも以上に活気があった。三年生にとっては最後の大会で今年は久しぶりに県大会に出場するチャンスがあるからだ。


「やっと調子が上がってきたな!」

「えっ、そうかな? あまり変わったないような気がするけど」


 練習の合間に永尾が声をかけてきたが、俺は不思議そうな顔をして答えた。特に自分では調子が良いとも思っていない、何を見てそう感じたのか永尾に聞いてみたくなる。


「そんなことはないだろう? 今日だってほとんどシュートを外してないし、パスだってミスがない……これで調子が悪くないって言うのか?」

「う〜ん、でも特にないけどなぁ……」


 再び永尾に問いただされ返答に困ってしまう。俺と永尾の間に猪口が加わってきた。


「ははっ、そんなに追及するなよ、宅見が困っているだろう」

「あぁ、そうだな、調子が良いのは悪いことじゃないし、試合に向けて明るい材料だ」


 猪口の言葉に永尾はやっと納得したような表情になる。助かったと思っていると、猪口がガッツリと肩を掴んで小さな声で聞いてきた。


「でも何かいい事でもあったのだろう?」

「ん……特にないぞ」

「そうかな、何か肩の荷が降りて体が軽くなったみたいだぞ」


 思い当たる節は……ない訳ではない。


「あっ、そ、そんな事ない……はず」


 思わず声に出してしまった。結奈との関係を話す訳にもいかない。でも猪口はピンときたのか、ニヤリと笑い、今度は肩をバシバシと叩いてきた。


「まぁ、いい事だからこれ以上は何も聞かないよ!」

「い、痛いなぁ、な、なんだよ……」


 そう言って最後にもう一度バシッと背中を叩いて猪口は永尾達の所へ向かって行った。やれやれと思いながら、床に落ちていたボールを拾った。まだ先輩や他の一年生も休憩をしている。

 こんな周りから調子が良いと言われると段々とそんな気がしてきた。確かに今日は特に体が軽いような気がする。


「やってみるか!」


 センターサークルの辺りまで移動して、ゆっくりと持っていたボールを突き始めた。まだ誰もコートの中に入ってきていないのを確認して、勢いよくゴールに向かいドリブルを始める。トップスピードでゴールへ真っ直ぐにフリースローラインを過ぎた所で踏み切りリングに向かって跳んだ。


「いけるか?」


 最後に一番高く跳ぶとばっちりなタイミングでリングに届き、右手に持っていたボールを輪の中心に上から入れる。ボールは綺麗に吸い込まれた。


「おぉーー!」


 周囲から響めきのような声が聞こえる。ドリブルからシュートの体勢に入るとスローモーションのように感じていたが、本当はかなりの速さだったみたいで思いっきり着地に失敗してしまう。


「うぅ、いたたた……」


 捻挫みたいな怪我までしなかったが、床に体を強打するが意識はちゃんとある。俺の様子を見て驚いた表情をしていた結奈が血相を変えて飛んでくる姿が見えた。

 永尾達も慌てて立ち上がってこっちに向かってきた。落ちた衝撃で大丈夫だと声が出ない。


「ちょ、ちょっと、だ、大丈夫なの?」

「う、うん……勢い、あまってしまって……」


 救急箱を抱えて慌てた様子の結奈に頷きながら苦笑いをして答えた。同じように駆けつけた永尾達も心配そうな顔で窺っていたが、俺の言葉を確認すると笑顔に変わった。


「それにしても……凄かったなぁ」

「マジで跳んでる感じだったよ」


 無事を確認した永尾達は驚いた表情になって口々にしている。実際にやった俺自身もちょっと驚いていたが、いかんせん着地に失敗したので残念で笑うしかなかった。

 休憩時間が終わり練習を再開する。しかし始める前に先生に呼ばれて叱られる。とりあえず暫く安静にしちろと言われて座って見学する事になった。結奈がスプレーで打った箇所を冷してくれたので楽にはなっていたが、激しい動きはまだ無理っぽいみたいだ。

 結局、大事をとってそのまま練習には参加することはなく部活が終了した。


「もう、調子がいいからといって無茶したらダメだよ!」


 隣を歩く結奈がムスッとした顔をしている。いつもと同じように結奈と帰っているが機嫌は悪い。一番真っ先に駆けつけて一番心配していたのが結奈だった。


「……はい、反省しています」


 さすがにあれだけ心配させてしまえば落ち込んでしまい、声も小さくなってしまう。


「ふふっ、でも怪我はしなかったし、良かったよ。今度の大会に出場出来なくなったら大変だものね、蒼生くんがいないと大変なことになるからね」


 落ち込んだ姿を見て結奈は気をつかったのか、優しく微笑んでくれた。少しだけ元気になる。


「……うん、もう痛みはないし、明日は通常どおり練習に参加出来るよ」

「それにしてもやっぱり蒼生くんは凄いよね!」

「そんなことないよ、今日のだって試合では使えないよ、おまけに最後に失敗して転けてるからね」

「ううん、全然そんなことないよ」


 笑いながら自虐的に話したが、結奈は真面目な顔で横に振りながら否定している。これからたくさん試合をしていく中で、勝つだけじゃなくて俺の中でやらないといけないことがある。


「でも本番の試合ではちゃんと結奈さんが喜んで感動してもらえるように頑張るからね、これからたくさん期待しててよ!」


 横に振っていた結奈の顔がピタリと止まって嬉しそうな笑顔に変わる。俺が言った言葉を噛み締めて一段と大きく頷いた。


「うん、楽しみしてるよ! えへへ、私の彼氏は最高だね!!」

「えっ、えっと、な、な、な、なんて言ったの?」

「ふふっ、教えな〜いよ!」


 慌てている俺を見て結奈は可愛く舌をぺろっと出して微笑んでいる。聞き間違えでなければ……胸のドキドキが聞こえてしまいそうなぐらい慌ててしまった。

 呼吸を整えようと立ち止まって大きく深呼吸をする。予想外の反応だったみたいで結奈も立ち止まって、こっちを見てちょっと呆れた顔をして笑っていた。

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