21.試験明けと情けない気持
高校に入ってから初めての中間試験も無事に終了した。毎回定期試験で赤点を取ると再試験に合格するまで部活が出来なくなってしまう。
「う〜ん、もう少し点数が取れているはずなんだけどね……」
試験結果が全て戻ってきたが結奈は浮かない表情をしている。もちろん全ての科目で満点に近い結奈の成績のことではない。
「ご、ごめん……ちゃんと勉強したのけど……」
成績が振るわない俺は項垂れて小さい声になる。結奈は何やら考え込んだ顔をしている。でもすぐに考えが纏まったのか、パッと顔を上げると二、三度頷いて納得した表情になった。
「今度こそ任せて! 期末は科目が多いから少し大変だけど大丈夫だよ!」
「う、うん、頑張るよ……」
よく分からないが結奈が自信たっぷりな顔をして見るので、俺は勢いに押されるように返事をしてしまう。でもさすがに今回の成績は不甲斐ないので、期末試験はしっかりと集中しないといけない。
「ふふふ、今度はちょっと厳しくするからね! お休みもないかもよ」
「……えっ!?」
普段見る事がない笑みを浮かべる結奈に思わず身震いをしてしまう。結果が出ていない以上、結奈の言うとおり従うしかないが、少し不安が残った。
とりあえず今回は赤点を回避しているので部活に参加することは出来る。いよいよ今週末に地区予選が始まる。一週間まるっと休んでいたので、先ずは感覚を早く取り戻さないといけない。
部活再開の初日は軽めのメニューだったが、翌日からは通常よりもハードなメニューに変わっていった。
「さすがにフルの練習はキツいな……」
「そうね、みんな疲れ切った顔をしていたわね」
いつもより足取り重く疲れた俺は結奈と一緒に歩いて下校している。結奈の言うとおり永尾達も部活終わりはかなり疲労をした顔をしていた。でもそのおかげでほぼ試験前の近い動きが取り戻せてきていた。
「次からはちょっとでも体を動かしていないといけないなぁ」
やはり体力が落ちるのは早いので少しでも体を動かしていないといけないのがよく分かった。でも今度の期末試験は結奈が厳しくすると言っていたのでちょっと心配になる。
「うん、そうだね。体を動かす時間も入れておかないといけないわね」
呟くように結奈が俺の顔を窺っている。やはり今回の試験結果には納得がいっていないみたいだ。まるで自分の事のように真剣に考えている。親身になって勉強のことを考えてくれているのはとても嬉しいけど、俺自身は奈との距離感に悩んでいた。
もちろん結奈の元から離れることは全然考えていないが、あまりに近すぎるのも今の関係のままではいけないのじゃないかと考えていた。そうなるとちゃんと結奈に告白すべきではないのかという結論になるのだが、どうしても一歩前に進む事が出来ないままだ。
「……ねぇ、どうしたの?」
隣にいたはずの結奈が目の前に現れて立ち塞がり俺の様子を窺っている。しばらく俺が黙っていたから心配したみたいだ。
「蒼生くん、この頃時々急に黙ったりするよね? それになんかよそよそしい時があるし……」
結奈の眼差しがキュッとキツくなって怒っている訳ではないが、問い詰めるような口調になる。一瞬、頭の中をを読まれたのかと焦ったがそんなはずはない。ただ俺の態度がおかしな時があるからなのだろう。
「……ん、そうだな、最近迷惑ばかりかけて申し訳ないなと思ってね、中間試験とかね、ずっと頼ってばかりだから……」
「もう、前も言ったでしょう! 気にしなくていいよって、私が付いているから任せてね!」
結奈の表情がほんの少し緩んだが、口にする言葉には揺るぎない決意が見える。でも俺が今思っている答えとは微妙にずれている。
「……うん、ありがとう。でも、それだけじゃなくていつも側で、一緒にずっといてくれて……」
なんて伝えればいいのか言葉が出てこない、言葉に迷っている。気持ちをストレートに伝えればいいのだが次の言葉が出てこない。
もどかしそうな俺に勘づいたのか、結奈が恥ずかしそうな表情に変わる。
「……そ、そうだね、う、うん、だ、大丈夫だよ。あ、蒼生くん、な、悩まなくても、焦らなくてもいい、わ、私の気持ちは変わる事がないから、絶対に、大丈夫だからね!」
言葉を選んで誤魔化すように結奈は顔が真っ赤になっていた。お互いに目を合わせられずに俯いてしまった。しばらくそのまま沈黙が続いてしまう。ここで気の利いた言葉が出てくればいいのだが、何も思い浮かばず口にする事が出来なかった。徐々に自分が情けなくなって落ち込んでくる。
気が付けば登下校で乗り降りするバス停に到着した。すぐにバスがやって来て黙ったまま俺と結奈は乗り込み、いつもどおり二人で座る。先に降りる結奈が通路側で俺は窓側だ。
座っていると距離が近いのでなとも言えない微妙な空気になる。普段だと結奈が学校での事を楽しく話してくるのだが、今日は気恥ずかしそうな顔をしたまま口を閉じている。表情から見る限り機嫌が悪い訳ではなさそうなので安心した。
このまま黙ったままではいけないとせめて少しだけでも気持ちを伝えようと口を開いた。
「……ありがとう、俺も絶対にいい加減なことはしないから、もう少しだけ……」
「分かってるよ、蒼生くんは真面目だからね……ふふふ、さっきも言ったけど、私は大丈夫だから蒼生くんのペースでね」
自信なさげに話した俺は恥ずかしくて窓の外を見る。窓越しには優しく微笑む結奈の姿が映っていた。今出来る精一杯の返事だったけど、最後で曖昧にしようとした自分はやはりズルいなとそのまま窓の外を眺めていた。




