20.一年前と違う試験勉強
翌日の放課後、俺は図書室の前に立っている。結奈から用事があるから先に行って言われてここで待っているのだ。
進学校というだけあって勉強をする為の施設は充実していて、結構な生徒が学校に残って試験勉強をしている。まだ俺は入室した事がないが、この図書室も自習スペースがかなり広めになっているみたいだ。
「ごめんね〜、おまたせ!」
用事がの終わった結奈が嬉しそうな笑顔でやってきた。昨日の帰り道に約束したとおり一緒に試験勉強をする事になった。日頃から成績のいい結奈はわざわざ残って勉強をする必要はないのだが、昨日も言っていたとおり俺の為に残ってくれるのだ。
「じゃあ、入ろうか」
「うん!」
俺と結奈は一緒に図書室の中に入る。予想以上に席が埋まっていて、二人が一緒に座れそうな場所がなかなか見つからない。
「う〜ん、どうする? 別々に座るしかないか……」
小さな声で言うと笑顔だった結奈の顔が一気にしぼんでしまい、項垂れそうになる。確かに一緒に座れないとあまり意味がない。それに結奈の残念そうな表情を見せられると簡単にあきらめる訳にはいかなくなった。
「そうだな……あっ、あそこが空きそうだ」
隅々まで見渡して場所を探しているとタイミングよく一人の生徒が机の上を片付け終わり立ち上がった。その隣もちょうど空いていて、運良く早く見つかり安心する。
「じゃあ、あれ!?」
俺が振り向いて結奈に話しかけようとしたが姿がなかった。一瞬慌てるが、もう一度席が空いた方向に目をやると結奈の姿がある。突然のことで唖然としてしまう。
(あんなに素早い動きができるんだな)
意外な一面が見ることが出来て驚いたがちょっと面白かった。結奈が早く来てという表情で俺を見ているので急いで結奈の元に向かうことにした。
「ははは、そんな急がなくても大丈夫だよ」
「えへへーー、よかった。もう少しであきらめるところだったから」
俺が笑いながら空いた席に座って鞄から教科書や問題集を出していると笑顔の戻った結奈が安堵した表情を浮かべていた。
不意に見た隣に座る結奈と距離が近くてちょっと照れてしまう。普段の教室でもこの距離感はあるけどあまり意識していなかった。でも今日は図書室といったいつもとは異なる空間で変に意識してしまった。
「どうしたの?」
結奈はいつもと違うことに気が付いたのか首を傾げて見つめている。ただでさえ近く感じていつものように平静さが保てない。
「えっ、いや、う、うん、ははは、何にもないよーー」
さらに見つめる結奈の顔が可愛らしくてもっと慌ててしまう。笑って誤魔化そうとしたが、さすがに図書室の静かな空間なのでちょっと目立ってしまった。周りから鋭い視線を浴びてしまいバツが悪い感じになった。
「……もう、ほら、始めるよ!」
バタバタと入って来てただでさえ目立っていたので、俺がペコペコと周囲に対して頭を下げた。結奈が頬をぷくっと膨らませてちょっと機嫌悪そうな顔をしていた。
(……うぅ、元を正せば結奈が悪いんだよ)
何故か悪者扱いで、思わず声に出してしまいそうになる。高校に入ってから結奈と一緒にいる時間が増えてきていろいろな表情を見せてくれる。中学の時はあまり感情を表に出したりすることが少なかった。一緒に受験勉強していた時も似たような雰囲気だった。だから怒った顔でも可愛く見えてしまう。
(だ、だめだ……そんな事を考えていては、今日は試験勉強をする為に来たのだ)
そろそろ真面目にしないといけないと、問題集を開き試験範囲の問題を解き始めた。日頃から結奈に勉強を見てもらっているので以前ほど分からないところはない。ある程度問題を解いていたが手が止まってしまい前に進まなくなる。
「ここを、こうして……これを……前の問題と同じように……」
体を寄せるようにして結奈が小さな声で教えてくれる。結奈は自分の問題を解きながら俺の様子もちゃんと窺っていたみたいだ。結奈の教え方は分かりやすいのですぐに理解出来た。
「あ、ありがとうーー」
問題が解けた俺はお礼を言いつつ顔を結奈のいる方に向けると予想外に近かくてびっくりしてバランスを崩す。
「なんでそんなに驚くの? 中学の時もこうやって教えていたでしょう」
「あっ、うっ、うん、そ、そうだったね、ははは……」
呆れたような表情を浮かべて結奈が小声で様子を見ている。倒れかけていた俺は体勢を立て直すと笑って誤魔化そうした。
確かに結奈の言うとおりで中学の時はこんな感じで教えてくれていた。俺は自分の頬をペチペチと叩き気持ちを落ち着かせようとする。俺の様子を見て結奈がぷっと小さく笑って、ちゃんとしてよと言わんばかりに目で合図をしてきた。落ち着いた雰囲気の結奈と対照的な俺はしゅんとして落ち込んでしまう。
(意識しているのは俺だけなのか、なんか自惚れてるみたいだな……)
ちょっと調子に乗っていた自分が恥ずかしくなってきた。再び問題を解き始めたけど、あまり頭の中には入ってきていない。浮き足立っていた自分を反省した。
しばらくしてチラッと結奈の様子を窺うと真剣な顔で問題を解いている。中学の時に見た同じ表情をしていた。小さく息を吐くとちょっとだけ落ち着く事が出来た。




