19.中間試験前と部活の帰り道
練習試合の帰り道、何故か結奈の機嫌が悪いような気がした。怒っている訳ではないが、いつもと雰囲気が違っていた。
しかし翌日の朝、教室で会った時には普段と変わらない様子だったので、結局原因が分からないままだった。
大型連休が終了して学校生活も通常通りになり、部活はインターハイの予選に向けた練習が本格的になってきた。
先輩達は俺達一年生を練習相手に少しづつ力を付けてきている。これで何とか地区予選は突破出来る目処が立ってきた。
「蒼生くん、今日の練習は?」
先に部活の準備を始めていた結奈が練習の予定を確認してきた。俺は事前に予定を先輩から聞いていたので知っている。
「うん、ウォーミングアップが終わったら試合形式の練習するみたい」
明日から試験週間で全ての部活動が休みになる。大会前とはいえ進学校なので仕方がない。試験前の最後の練習で前回と同じような形で試合をすることになった。実践でどのくらいの力が付いた試すみたいだ。
「そうなの、じゃあ私は得点と時間だね」
「あぁ、頼んだぞ……もうマネジャーの仕事に慣れてきたみたいだね」
バスケ初心者の結奈も入部して二カ月近くなる。右も左も分からなかった結奈だったけど、マネージャーとしての仕事は飲み込みが早く、テキパキとしてかなり優秀のようだ。さすがは元委員長と言った感じで部員全員から既に信頼されている。
「う〜ん、だいぶ慣れてきたけど、でも私にはもっと大きな仕事があるからね!」
「あっ、う、うん……」
グッと近づいて結奈は俺の顔をジッと見つめて鼻を鳴らしている。勢いに押されてたじろいでしまう。
結奈の意気込みを感じるが、あまり近くで見つめられるとちょっと恥ずかしい……この最近、何か大きく変化があった訳ではないけど結奈が一段と可愛くなっていて意識してしまう。動揺している俺をクスッと笑いながら結奈は楽しそうに見ている。
「二人とも練習前に何をいちゃついているんだ?」
俺達の前を永尾が半ば呆れた声で通り過ぎようとしていた。最近、皆んながよく同じように冷やかしていく。
初めの頃は必死に否定していたが、何故かその後は結奈の機嫌が悪くなる。俺と結奈は付き合っている訳ではないのだから否定しないといけないと思っていた。
「ふぅ〜、じゃあ行ってくるよ」
「うん、頑張って! 心配しなくてもちゃんとマネージャーの仕事はするからね、えへへーー」
でも近頃は特に否定することなく、そのままスルーをして結奈には笑顔で答えている。おかげで結奈は機嫌を悪くすることはなくなって、すごく嬉しそうな顔をしている事が多いみたいだ。
とりあえず今は曖昧な感じになっていて、あまり意識しないように気を付けている。
放課後とあって時間に余裕がないので、簡単にアップを終わらせて試合が始まった。
俺達一年生チームのスタメンは前回の練習試合と同じで、今のところこのメンバーでこのポジションが一番しっくりとくる。開始早々に一気に俺達一年生チームが攻めていくが、身内同士の試合なので一応当たりはキツくいっていない。
順調に試合は進み一年生チームが押している。時間が過ぎるにつれて徐々に点差が開いてくると、先輩達のチームは当たりが強くなってきた。それでも一年生チームのオフェンス力が落ちることなく差が縮まることはなかった。
試合が終わり一年生チームの勝利だった。終わると同時に永尾が側に寄ってきた。
「うん、俺達もかなりチーム力が上がったきたな!」
「そうだな……オフェンスはこの二カ月弱で相当良くなった」
「どこにパスが出るのか分かってきたし、俺がシュートを打ちやすい所へボールを入れてくれる」
「あぁ、お互いの得意な所や苦手な所が分かってきたからな……まだまだ精度は低いけど、これからもっと良くなるはずだ」
永尾がいい表情をしているのはしっかりと手ごたえを掴んだのだろう、俺も少しは手ごたえを感じていたが、対外試合が少な過ぎるのでまだ疑心暗鬼の状態だ。
三年生が引退して新しいチームになる頃には状況も変わってくるはずだ。とりあえずは部活が再開される中間試験明け以降の話になる。
部活の帰り道、結奈が機嫌良さそうに一緒に歩いている。一緒に帰るのはもういつもの日課のような感じだ。
「やっぱり蒼生くんは凄いね!」
「そんなことはない、チームの皆んなが助けてくれるからだよ。俺の力なんてたいした事ない、最後はチーム力、チーム全体の力だよ」
俺は首を横に振っていると結奈が少し不満そうな表情をする。でも正直復帰して二カ月弱しか過ぎていないのでまだいろいろと不安が残っている。
「そんなことない、蒼生くんは凄いの! もっと自信持っていいのよ、皆んな蒼生くんを信頼しているからね。それに私が付いているから大丈夫!」
「……うん、ありがとう」
結奈の勇気づけてくれる言葉は素直に嬉しい。結奈の自信満々な顔を見ていると少なからずあった不安が取り除かれていく。ここまであまりにも順調に進んでいるのは結奈のおかげなのだろう。今の俺にとっては欠かせない存在になってきている。
部活帰りに乗るバスを二人並んで座っていた。いつもと違い試合形式の練習だったのでちょっと疲れてうとうととしていた。
「ねぇ、蒼生くん……」
「ん……どうした?」
俺は目を擦りながら結奈を見ると心配そうな表情を浮かべているので何事かと思う。
「明日から……大丈夫?」
「えっと……なんのこと?」
俺の返事に結奈が小さくため息を吐くと少し間を入れてゆっくりと口を開く。
「明日から試験週間に入るでしょう。蒼生くん一人で大丈夫なのかな? 帰り道、試験の事には触れないから心配になってきたの」
「う〜ん、大丈夫かと言われると大丈夫じゃない……でもさすがにこれ以上結奈さんを頼ったら悪いなと思って……」
普段の授業で頼ってばかりで部活でも助けられて、これ以上は結奈の負担になってはいけないと思っていた。でもそれは違っていたみたいで、結奈はちょっと怒ったような顔をする。
「……もう、今更そんなことを言って、ちゃんと蒼生くんの面倒は見てあげるから、さっきも言ったでしょう、私が付いているって!」
キリッとした顔で結奈が俺を見ていて、距離が近いので少し照れてしまう。結奈は真面目な表情をしている。




