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18.予想外の練習試合

 一年生同士の練習試合が始まろうとしていた。今日の注意点として俺達のチームは控えが少ない……なのでファールに気をつけていかないといけない。これは夏にある一年生大会でもいえる事でこのチームの一番の弱みになる。

 とりあえず今考えても仕方ないので、まずはこの試合に集中しないといけない。センターには永尾が立っている。ホイッスルが鳴りいよいよ試合が始まった。ジャンプボールで永尾が競り勝ち、山西がボールをキャッチして攻撃に入る体勢に入る。


「先ずは一本取るぞ!」


 山西が声を出してみんなを鼓舞して、俺はすぐに相手チームのフリースローライン近くに走り込んだ。まだ相手は完全に俺をマークしきれていない。アイコンタクトで山西からパスが入ってきた。


「おっ、タイミングがバッチリだ!」


 ちょうど走り込んだ先にパスが届き、スピードを殺すことなくそのままシュート体勢に入った。あっという間の出来事で、容易にシュートが決まる。


「ナイスシュート!」


 みんなが笑顔で一斉に声を上げる。練習試合の初得点で特別に意味がある訳ではないけど妙に嬉しい気持ちになった。

 それからは俺達のチームの怒涛の攻撃が始まり、第一クォーターはオフェンスの時間が圧倒的に長かった。

 インターバルになりベンチに戻るとチームメイトはみんな興奮気味で笑顔に溢れていた。


「思ったより点が入ったなぁーー」

「おぉ、ホントだなーー」


 俺の驚きの声に隣に座った永尾が涼しげな表情をして得点表情を眺めていた。他のメンバーも疲れている様子はなく全然余裕のある顔をしていて、もちろん俺も全然余裕がある。


「ちょっと予想外だったなここまで点差がつくとはね……」


 まだ第一クォーターが終わっただけだが力の差は歴然としている。思っていた以上の展開になっていた。


「そうだな、多分このままいけるんじゃないか? まぁ、でも油断は禁物だ」


 永尾にしては珍しく楽観的な言い方をしている。永尾も同じように俺達のチームが上だという認識のようだ。


 第二クォーターが始まって、相手チームはついさっきの試合に出場していた中谷が出てきていた。さすがにこのままで終わる訳にはいかないのだろう。

 しかしそれもほとんど焼け石に水だった。中谷が入って多少デフェンスに力をいれたが始めの時間帯だけで徐々にオフェンスの時間が増えていった。ハーフタイムになる頃には圧倒的な点差になっていた。

 ハーフタイムの後、第三クォーターからはポジションを変更したり、控えに回っていた猪口や阿南も交代で出場していろいろなパターンを試すことになった。

 どうしても選手層が薄いので不測の事態に備えておこないといけない。俺も普段することがないガードのポジションやセンターのポジションを試していた。


「練習でするのとは違って、試合形式だと新鮮でいいなぁーー」

「はははーー、しかし宅見は器用だな、さすがオールラウンダーだ」


 永尾がベンチに下がり俺がセンターのポジションでいると笑っていた猪口が感心した顔をしてデフェンスについていた。


「そうか? でもやっぱり本職の永尾には敵わないぞ」

「それは永尾がこの辺りではかなりの実力がある選手だからで……宅見も控えのセンターで十分通用するよ」

「ははは、それは褒めすぎだよ。でも普段やらないポジションをすることで勉強にはなるな、ボールの出し方やタイミングとかーー」

「さすが宅見だな! やっぱり凄いよーー」


 話していた途中で、相手のセンターとリバウンドを競り合い俺が勝ってボールを奪う。ただ最初のポジション取りがいいだけなのだが簡単ではないのは間違いない。ボールをガードの阿南にパスをしてゆっくりと攻めに入った。

 時間も過ぎて残り少なくなってきた。途中で交代したりしたが複数のポジションをこなしたので疲労が溜まってきた。

 そしてやっとブザーが鳴って試合が終了した。相手チームに挨拶をしてベンチに戻ると片付けを始めていた。


「はぁ〜、疲れた……」


 大きなため息が出ると同時に疲労がどっと押し寄せてきて座り込むと山西が側にやってきた。


「お疲れ〜、やっぱり宅見は凄いなぁ、お前と同じチームで良かったよ」

「なんだよ、大袈裟だなぁ」

「いや、マジで今日の試合で実感したよ。これで選手層の薄さもなんとかなりそうじゃないか?」

「う〜ん、どうだろうな……これから先、勝ち上がっていくにはやっぱり厳しいぞ」


 難しい顔をした俺に意外そうな表情を山西がしている。俺が複数のポジションをするのはやはり限界がある。控えはある程度欲しいのが事実だ。今日はファールが少なくて良かったけど、実際の大会になると必死になるので増えてくるに違いない、そうなった時の対処が心配だ。


「おぉ、お疲れ様!」


 背後から声をかけられたので振り向くと中谷の姿がある。


「おぅ、お疲れ!」

「いや〜、お前には参ったよ! 相変わらず規格外だな……ははは」

「なんだよ、それ……」


 俺は苦笑いをすると、中谷が笑いながら参りましたという顔をしている。


「でもまだ完全復活とはいかないな、もう少し実践をしていかないといけないなか?」

「ははは、そうだな……まだまだだな」


 俺の絶頂期を知っているだけあって状態の事を中谷はよく分かっていた。


「えっ!? マジで……あれだけやってまだまだ?」


 俺と中谷の会話を聞いていた山西が驚いた顔をしている。


「まぁ、そのレベルまで戻ればいいけどな……」


 あまり期待されてもいけないなので、笑って誤魔化そうとした。実際にそのレベルまでいけるか分からない……少し弱気な顔をする。


「ううん、大丈夫だよ! 私がなんとかするから!!」


 突然、俺達の会話に割り込むように入ってきたのはマネージャーの結奈だった。めちゃくちゃ自信たっぷりの笑顔で励ましてくれているみたいだ。


「……そうだな、委員長頼んだよ。きっと委員長なら宅見を完全復活させることが出来はずだ!」


 納得した顔で中谷は力強く話すと結奈は大きく頷いて嬉しそうな顔をした。一緒にいた山西も何度か頷き、俺の顔を見て笑みを浮かべている。何故か俺ひとり蚊帳の外といった感じだった。

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