17.今までと違う景色と初めての練習試合
急いで集合場所に行くともうほとんどの部員が集まっていた。どうやら俺は集合場所を間違えていたみたいで、先輩達から怒られることはなかった。
そして練習試合は予定通りの時間で開始された。
「ベンチから試合を見るのは久しぶりだなぁ……」
思わず口にしてしまったが、緊張感がない訳ではないがやはりこれまでの試合に比べるとかなり緊張感は薄くて気の緩みがある。
「そうだなぁ、俺も久しぶりだ」
隣に座っている永尾が同じような雰囲気で試合を眺めている。確かに永尾達も中学時代に部活を引退する前はレギュラーだったのだから多分俺とそんなに変わらない気分のはずだ。
でも全く出番がないことはないのである程度は試合に集中していないといけない。
試合開始直後は両チームとも確実にシュートを決めて差がない様子だった。しかし時間が過ぎてくるとやはり地力に勝る相手チームが押してきた。
試合前に会った中谷は言っていたとおりスタメンで出場していた。中谷もチャンスで確実にシュートを決めてチームに貢献している。
「おぉ、中谷やるなぁーー、中学時代よりかなりレベルアップしているじゃないか?」
オフェンスはさることながらデフェンスもしっかりとこなしてチームにはなくてはならない存在になっている。
「あぁ、やっぱりあの八番、宅見の元チームメイトだろう……さすがだな、一年であれだけ決めて守れれば……」
感心した表情で永尾は試合を眺めていたが、試合開始の頃よりかなり出場したそうな目でウズウズしていた。もちろん俺も見ているだけでは物足りない気持ちになってきた。俺以外の一年生全員が同じような目をしている。
監督の宮瀬先生が俺達の苛立ちに気が付いたみたいで、試合中にも関わらず俺達一年生の前に移動してきた。
「お前達の気持ちはよく分かっているから、今日はしっかりと試合見ていなさい!」
俺達の方を見て話してきた。個々の力は一年生の俺達が上だが、やはり連携といった部分はまだ二、三年生には敵わない。一年生同士でもまだまだ連携は未熟だ。
「焦らずともお前達は絶対に強くなる!」
宮瀬先生はそう俺達に言って、再び元の監督席に戻っていった。不満があった訳ではないが永尾達も納得した顔をしている。宮瀬先生の気遣いに感謝しつつ、ベンチの熱気が少し収まった気がした。
試合はハーフタイムまで進んで、相手チームにリードされている。ここまでほとんど交代をしないできたが、後半になるところで二年生が二人交代で入った。
後半の第三クォーターが始まり、最初は先輩達が流れを掴みオフェンスの時間が増えたが長く続かなかった。
「結構、いい試合だなぁ……」
試合を眺めていた永尾が呟いた。得点差はなかなか縮まらないけど離されることもなかった。俺達一年生は試合に出られない分、しっかりと声を出して応援をしていた。時間が経つごとに力が入って普段は大人しい猪口も大きな声で声援を送っていた。
「やっぱり、いいなぁ……こうじゃないと……よかったこのチームで……」
「突然、どうしたんだ?」
俺の呟きに隣の永尾が驚いた表情で反応した。中学時代にあまり体験しなかったチームの一体感が心地良かったから思わず口に出してしまったのだ。俺の顔を見ながら永尾は首を傾げている。きっとこれが普通なのかもしれない、中学の時が異常だったのだ。
応援に集中していたのか気が付くと試合終了のブザーが鳴り響いた。結果は追いつくことが出来ず俺達のチームが敗れた。
「さて、次は俺達の出番だな!」
自然と一年生全員が集まり、俺が言った言葉を耳にして大きく頷いていた。
少し休憩を入れてから一年生同士の練習試合が開始されることになった。俺達、一年生の七人がハーフコートの中でウォーミングアップを始めた。
徐々に試合への気持ちを高めていく、調子はまずまずのようだ。シュートの確率も以前よりかなり良くなってきている。
「蒼生くん!」
「ん……どうした?」
前の試合はずっとスコアをつけていて、ハーフタイムもマネージャーの仕事をしていた結奈がちょっと疲れた顔をして声をかけてきた。
「調子はどう?」
「あぁ、悪くはない。久しぶりの本格的な試合だから楽しみだよ」
「えへへ、私も楽しみで、やっと見られるよ。蒼生くんが試合をする姿を!」
疲れたていた結奈の顔が一気に笑顔に変わる。結奈は相当期待しているみたいで、ちょっと緊張してしまう。でもあの嬉しそうな笑顔を見ていると、期待を裏切る訳にはいかない。
「う〜ん、なんとか結奈さんの期待に添えるように頑張るよ」
「うん!! がんばってね!」
俺の返事を聞いた結奈は嬉しそうな笑顔で戻っていく。手元にあるボールをゆっくりと指で回して結奈の後ろ姿を見送るように眺めていた。
(これまでにない感覚だなぁ……ちょっとだけ心に余裕がある)
これまでは常に緊張感のある中で試合をしてきた。もちろん練習試合も例外ではなかった。それにこんな感じで応援されたこと一度もはない。すごく新鮮で心地良かった。
「お前は本当にすごいな……仮に練習試合といえ、試合前にマネージャーに励ましてもらえて、余裕だな……」
スッと俺の背後に永尾が立って、羨むような顔をしている。永尾に嫌な気持ちにさせてしまい、緊張感が足りなかったかと反省をしようとした。
「……緊張感がなくてすまない、これから気をつけるよ」
試合前にチームの雰囲気に不味い事をしてしまったと頭を下げて謝るが、永尾は予想外の反応をする。
「おぉ、何を頭下げているんだ? マネージャーが楽しみにするのは当たり前だろう。お前の一番のファンなんだからいいところを見せてやらないとな、はははーー」
逆に笑顔で永尾から言われてしまう。一瞬、拍子抜けしそうになって、周りで聞いていた村野や山西も頷きながら笑顔で笑っている。
「えっ、えっと……よ、よし、がんばって、やるぞ!」
ちょっとぎこちない声で俺が答えたので、周りにいた村野達は笑みを浮かべて大きな声を気合を入れるように雰囲気を盛り上げてくれた。なんだかんだでだんだんと盛り上がりをみせて、練習試合といえ長い間持つことがなかった気持ちで楽しんでやれそうな気がした。