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13.5 新しい友達 【結奈の視点】

 蒼生くんを見送った後、私はそのままここで試合を見ることにした。得点は猪口君がつけてくれるみたいなので、戻らなくてもよくなった。


「さっきはごめんね、失礼なことを言って……」


 すぐ側にいた原田さんは申し訳なさそうな顔で声をかけてきた。私自身はあまり気にしていなかったので突然のことで驚いた。


「ううん、そんな謝ることはないわよ。それに分からなくても仕方ないからね、ふふふーー」


 出来るだけ原田さんに気にしないでもらいたいので笑顔で答えた。原田さんは私の表情を見て安心したような顔に変わる。


「……うん、ありがとう」


 これまで原田さんと直接会話をすることがなかったが、蒼生くんと一緒にいる所はよく見かけていたので名前は知っている。

 昔から原田さんは私と正反対で活発な凛とした雰囲気のある美人で同性にも人気がある。あまり蒼生くんは女の子と親しく話をする事はないけど、原田さんだけは違っていた。

 だからさっきの蒼生くんと原田さんの会話を聞いていて心の中が少しモヤっとしていた。会話が続かずにお互い黙って蒼生くんの試合を見始める。

 蒼生くんは最初と違って次々と自分でシュートを決めていた。素人の私が見ても蒼生くんが凄い選手だったことが改めてよく分かった。


「すごい……」


 思わず言葉が出てしまうぐらいレベルが違っている。興奮している私と違って、原田さんは落ち着いた雰囲気で蒼生くんの姿を追っていた。


「大丈夫みたい……あんなに楽しそうな顔でプレーをしていれば問題なさそうだね」


 以前の蒼生くんの姿を知っている原田さんが安心した表情になると、私はまた心の中がモヤモヤしてきた。原田さんは嬉しそうな笑顔で試合を眺めている。私は黙って試合を見ていたがモヤモヤが増してきてしまう。


「あれ? もしかして……」

「……えっ!?」


 私の気持ちが表情に出ていたのかもしれない、原田さんが私の顔を覗き込むようにしている。近くで見ると原田さんはやはり凄くきれいな顔をしていた。そんな原田さんの顔が目の前に現れて不意を突かれたようだった。


「そんなに不安にならなくても大丈夫だよ、ふふふ……」

「ど、どういうこと?」


 優しく笑って原田さんが私の顔を窺っているが、全く意味が分からないのでさらに動揺してしまう。


「そうね、東條さんが心配するような事はないわよ。私と蒼生とはなんともないからね」

「えっ!? あっ、あ、あぅぅ……」

「ふふふ、大丈夫だよ。東條さんは一生懸命に変わろうとしたんだから気が付いてくれるよ!いつも頑張っているんだから自信持っていいよ」

「う、うん……」


 私の心の中を見透かすように原田さんが優しく励ましてくれる。原田さんとは接点がなかったけど、蒼生くんの近くにいた人だから私の事もよく見ていたのかもしれない。


「……ただね、蒼生は鈍いからね。さっきも言ったけど、バスケ以外は本当にポンコツだからね」

「……ふふっ、そうだね」


 ちょっとだけ呆れたような顔をした原田さんが私と顔を見合わて笑顔に変わった。私のモヤモヤが解消されていくような感じがした。


「今日は良かったよ。前々から東條さんと話してみたかったの。思ったとおりの人で安心したわ」

「えっ、そ、そうなの……あ、ありがとう」

「ううん、お礼は私が言わないといけないわ。蒼生を立ち直らせてくれてありがとう。私には出来なかったからね。これからも蒼生の事、よろしくね!」


 清々しい表情だった原田さんだったが、一瞬だけ寂しそうな顔になった。多分、蒼生くんを立ち直らせる事が出来なかったからかもしれない。


「そ、そんな……」

「ううん、東條さんなら大丈夫! 心配しないでも何かあればいつでも相談に乗るからね。ほら、自信持って!!」

「う、うん……」


 最後まで優しく笑顔で励ましてくれる原田さんに疑うような気持ちを持ってしまった私は恥ずかしかった。


「あっ、そろそろ練習を再開するみたいーー、じゃあ、行くね。また話をしようね!」


 元気よく原田さんはそう言って慌てるように先輩達がいる所に向かっていった。私は頷いて、後ろ姿を見送った。私もまた原田さんと話をしてみたかったし、もっと早く知り合えたら良かった。

 気が付くと試合はもう半分くらい進んで、点差が開いていて一年生チームが勝っている。蒼生くんが活躍していたのだろうけど、ちゃんと見ていなかったので後で怒られるかもしれないと反省した。

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