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シロのセカイ  作者: 七坂 洋
第1部 白き者
9/30

第2話 白となった日(3)


「ここここ怖ぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 カズヤが俺の身体にしがみつく。

「ちょ...ばっか、止めろ!カズヤ。俺も落ちるだろ!!」

 俺は俺で今俺たちが乗っている板状の何かにしがみつく。

「俺...高いところダメなんだよ...。高ぇ...落ちたら死ぬよな...。」

 カズヤが真っ青な顔で言う。

「だから付いてくるなって言っただろ!」

「うるせえ!お前が何かやるってんだから俺が付いていかない理由はないんだよ!何たって俺はお前の『フォロワー』だからな。」

 カズヤが更に強引にしがみついてくる。その反動で俺たちが乗っているプレートが大きく傾く。

「ちょっと待て!カズヤ!俺も高いところはそこまで平気では無い!!」

「あなた達ねぇ!そもそも定員オーバーなのよ!バランスをとっている身にもなってちょうだい!!!」

 蓮川が大声で俺達を叱り付ける。


 そう、俺たちは今空を飛んでいる。正確には空を飛ぶ絨毯よろしく魔法陣が描かれた空を飛ぶ光る丸いプレートに乗っている。蓮川の魔法の一つらしい。

 魔法。

 これに乗る前に簡単に説明を受けたが、蓮川美優流は『魔法使い』らしい。彼女もLPであり、それによって彼女は魔法が使えるようになったとのことだ。正直、俺の中のLPというもののイメージがこの1日で大きく変わった。多少賢くなる、力が強くなる、性格が変わる、程度のものだったのが、歌で眠らせるととか、今度は魔法とか・・もう正直何でもアリって感じだ。


 蓮川の話を信じるならそのLPになることが俺は確定している。いや、ならないといけないのだ。桜子を助けるために。


「見つけた!」

 蓮川が叫んだ。前方、500メートルほど先にふわふわと浮かんでる。

「彼女・・どこに向かっているのかしら...。」

「うーん、多分あてもなくフラフラしているだけだと思うぜ?」

「きっと戸惑っているんだ。」

 二人が俺を見る。

「自分でもわからない状態になって、怖がって...戸惑っているんだ。助けてあげなくちゃ。」

「...そうね。」

 蓮川が相槌を返すと同時に、俺たちが乗る光の円盤が加速し、桜子に急接近いした。

「じゃあ、『作戦』通り頼むぜ!!」

 俺は、桜子に飛びついた。


 作戦と言ったが、これから俺たちがやろうとしているのは正直『作戦』と呼べるものではない。

 ZEMSという組織はおおよその新規LP発生を予測できる手段を持っているらしいのだが、その精度というのは1日から2日の間というざっくりした期間だということだ。しかし、言い換えると後1、2日以内に俺がLPになるのはほぼ確実ということらしい。そして、LPとなった俺の能力というものも予測されている。

「Linkを解除する力」

 それが、ZEMSが導き出した俺の能力の予想。

 かなりレアな能力であるため、ZEMSは監視のため蓮川を派遣してきたのだ。俺にとって迷惑な話ではあるが、それが事実であるなら今はそれにすがりたい。

 俺は桜子を助けたいんだ。


ーー


 渋谷のスクランブル交差点、その中央に桜子は立っていた。

 彼女を中心にして多くの人々が倒れている。桜子の能力で眠らされたのだろうが、空中から見たその様子はまるで桜子を中心にした花びらのようだった。


「桜子ーーーっ!!!!」

 俺は叫びながら、蓮川の魔法のプレートから飛び降りた。

「ちょっ...まだ早い!」

 蓮川が叫ぶ。まだ地上まで5mほどの高さがあるのだ。


 俺は受け身をとりながら着地した。かなり転がって全身擦り傷だらけだが、うん、大丈夫。

「心配しなくてもあいつならあれぐらい昔からやっちゃうんだよ。」

 カズヤは蓮川に話しかける。

「ふぅ...まったく猫みたいなやつね」


 桜子は静かに立っていた。

「桜子?」

 立ち上がった俺は今度は静かに、出来るだけ落ち着いて話しかけた。桜子は静かにこちらを見つめる。その目には意志を感じない。「まるで寝ぼけている時の桜子だな」と幼馴染の寝起きの顔を思い出し、フッと笑みが出た。こんな時に不謹慎だなと一瞬思ったが、俺は思わず出たこの笑顔を利用させてもらうことにした。


「桜子、帰ろう!」

 俺は満面の笑顔で話しかけた。

 桜子は静かにこっちを見ている。10秒なのか、1分なのか、もしかしたらほんの数秒だったのか、静寂の時間が続いた。俺は両手を広げてゆっくりと桜子に歩み寄り始めた。1歩、2歩、、あと少しで手が届くという時に、彼女はすっと手を俺の方に伸ばした。気持ちが届いた。そう俺は思った。差し出されたその手を掴もうとしたその瞬間、桜子は静かに歌い出した。


ーーー


(やばい!)

 俺の中に猛烈な睡魔が生まれ始めた。ついに、俺も(おそらくカズヤも)眠りの対象にし始めたのだろう。

身体中から力が抜けていく。俺は膝から崩れ落ちた。


 桜子の心が消えかかっている?俺は彼女の顔を見上げた。そこには奥歯を噛み締めるような桜子の顔があった。ああ、そうだったな。お前昔からそうだったよな。必死で我慢している時ってそんな顔するんだった。

 このままでは終われない、終わっちゃいけない!

 俺は、残された力で自分顔面を思いっきりぶん殴った!口の中に血の味が染み渡る。

「痛ってぇなぁ!!ちくしょう!」

 一瞬、痛みで頭がクリアになる・そのタイミングで俺は手を伸ばし、桜子の手を掴んだ。その瞬間、ビクッと桜子の身体が反応する。

「桜子っ!起きろ!」

 俺は叫んだ。


 桜子の表情が崩れる。

「...ひーちゃん...」

 その瞬間、四方から来た光の縄が桜子を縛り付ける。

「う...うぅぅわあアアアアアア...!!!」

 桜子が叫び声を上げる。蓮川が放った魔法だ。


 俺たちが立てた作戦というのは時間稼ぎ。

 俺の能力が発現するか、蓮川が依頼したZEMSからの増援が到着するまでなんとかして時間を稼ぐという内容。そのためには、まずは俺とカズヤが説得する、それが駄目だったら隙を見て蓮川の魔法で桜子を拘束する、という手筈だった。当初の予定通りの魔法ではあるのだが、タイミングとしては最悪だ。


「蓮川!!やめてくれ!今、桜子は戻ったんだ!魔法を解いてくれ!!!」

 俺は叫んだ。

「でも、彼女はあなた達でさえ攻撃しているのよ!」

 蓮川は答える。彼女の足元ではカズヤが倒れている。蓮川はカズヤが眠りについたことをきっかけに魔法を使用したのだろう。


 バキッ!

 桜子の身体から異様な音がした。骨が折れたのか?


「蓮川!桜子の身体は強化されていない!生身の人間と同じなんだ!拘束が強すぎる!このままだと桜子が死んでしまう!」

 俺は桜子を締め上げている光の帯をつかみ引き離そうとする。


「...くっ」

 蓮川は杖を振った。瞬間、桜子を包む帯が緩む。俺は倒れてきた桜子を抱き抱える。

「桜子!大丈夫か???」

「...うう...」

 桜子が俺の顔を見る。

「...ひーちゃん...」

 良かった!戻った!そう思ったその時、カズヤが俺の名を叫んだ。反射的に後ろを振り返った瞬間、俺の胸に激痛が走る。ゆっくりと、桜子の方を見る。

 桜子は涙を浮かべていた。

「ごめんね...ひーちゃん...」


 桜子の右手は巨大な剣に変化していた。そして、その剣は俺の胸を刺し貫いていた。

(ゴフッ...)

 口の中に血が溢れかえる。


 桜子が剣を引き抜く。胸と背中から血が噴き出しているの感じる。俺はその場で倒れた。


 俺の中にあった血が周囲にどんどん広がっていくのを感じる。ふと、俺は上空から桜子を見た風景を思い出した。

 人々がまるで花びらのように倒れている風景。

 今の俺の姿も空から見たら真っ赤な花に見えるのかな...そう思いながら俺の意識は落ちていった。


ーーー


 白い世界。


 全てが真っ白だった。

 全てが白の中で俺だけがいる。


 どこだここは?


 わからない。


 俺は白い大地に立っているのだろうか?

 それとも空中に浮かんでいるのだろうか?

 俺はここに存在しているのか?

 それとも存在していないのか?

 自分自身の存在というものも虚に感じる世界。

 ゆっくりと時が進んでいるようにも感じるし、ものすごい速さで時が進んでいるようにも感じる。

 不思議な感覚だ。



 ふと、目の前に光の玉が現れていることに気づく。

 いや、ずっと前からあったのかもしれない。よくわからない。

 でも、手を伸ばしても届かないような気がする。

 近くにあるのに、とても遠く遠くにあるようにも感じる。

 光に向かって手を伸ばす。

 だめだ、届かない。無理なんだ。そう思った瞬間。


(届くよ...。それはあなたのものだもの)

 どこからか少女の声がする。


 届く、とそう言われるとそういう気がする。

 俺は再び手を伸ばした。

 そうすると、今度は簡単に手に取ることができた。


(なんだよ...これ...?)

 そう思い、その光を覗き込んだ瞬間、その光の球は激しく輝き出した。

 激しい光に俺は思わず目を瞑る。

 しかし、目を閉じても光が自分の中に入っていくことを感じる。

 光の先から様々なイメージ自分の中迫ってくる。

 全く知らない街並み、風景

 人外の姿をした存在と戦う人々

 6つの星とその中央に輝く巨大な星

 腰まである長い髪を風に靡かせて立っている男と女

 女はポニーテールか?

 そしてその先に立っている白い髪の男

 あれ?見覚えがある...あれは...兄貴???

 ...いや...あれは...。


 その瞬間、俺は光の中に吸い込まれた。


ーー


「白い...世界...」

 蓮川 美優流は、目の前に広がった光景に戸惑っていた。

 全てが真っ白な世界。


 周囲にあったはずの建物は白いキャンバスに描かれた落書きのようにその形を認識できる最低限の線(そう表現せざるを得ない何か)としか見ることができない。例えるなら、3次元の世界にいて、急に2次元の世界に来てしまったと言うべきだろうか。美優流はそうした初めて体験する未知の世界に戸惑い、恐怖した。

 デモン化した少女、桜子がターゲットである鏡 日有を剣で刺し貫き、彼が倒れた瞬間、まるで時が止まったかのように世界の有り様が変わった。


 その世界の中で自分と鏡 日有だけがいる。


 そうだ、彼は胸を貫かれたのだ。

 早く治療しなければ!

 世界への恐怖に彼への想いが打ち勝った瞬間、彼女は元の世界に引き戻された。


ーーー


 彼女は再び戸惑うことになる。


 白き世界は消え、また彩のある見慣れた世界が目の前に広がっている。

 しかし、一点だけ先ほどの世界と同じ、「白」が彼女の眼前にあった。

 風に靡くそれから彼女は目を離すことができなかった。


 一人の少年が立っている。

 透き通るような白い髪を携えた少年が。

 美優流はその少年が日有であることに気づくことができなかった。


 日有はゆっくりとその手を桜子の額に当て、力を発動させた。

 桜子の身体から何かが飛び出し、そして壊れた。


 倒れる桜子を抱き抱え、日有はしずかにつぶやいた。

「お休み、桜子。」


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