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シロのセカイ  作者: 七坂 洋
第1部 白き者
8/30

第2話 白となった日(2)

 何とか時間内に学校の門に滑り込んだ俺たちはそこでお互い別れを告げた。全員、クラスはバラバラなのだ。朝からちょっと変わったことはあったけど、学生の本分は勉強!さあ、今日も1日頑張るとするか!


 1時限目、現国

 爆睡。

 先生に教科書で叩かれて目が覚める。


 2時限目、数学

 爆睡。

 隣の女子に突かれて起こされる。話しながらじっと俺のことを見ている先生のメガネの下の目が怖かった・・・。


 3時限目、英語

 爆睡。

 ......。

 ......。

 ......。

 ......「ふぁぁぁぁ...よく寝た。」

 ......ん?周りが静かだ。

 もしかして、授業が終わるまで寝ちゃってて、クラス全員別の部屋に移動しちゃった?

 ヤバイ!と思い股間がキュっと閉まるような感覚を感じながら俺は寝ぼけた目をこすりつつ周りを見渡した。

「な...。」


 クラスメイトは全員教室にいた。皆、机の上に倒れ込んでいる。先生も教壇の横で倒れている。


「...っおいっ!!!」

 俺は隣の子の肩を揺さぶった。彼女は静かな吐息を立てていた。

「寝ている...。」

 なんだ?どういうことなんだ??その後、何人か起こそうとしたが誰も目を覚ますことはなかった。


 俺は教室の外に出た。

 異様なくらい校舎の中が静かだ。校舎の中...?いや...そうじゃない、街全体が静かすぎる。


「おぉぉーーーい!!ひゆうっ!!!」


 後ろから聞き慣れた声で呼ばれた。

「カズヤ...。お前は寝てないのか!」

「...いや、俺、授業中寝てたんだけど起きたらみんな寝ていてびっくりだよ...。」

 お前も授業中寝ていたのかよ...。

「しかし、お前、起きていたんだな...。驚いたぜ...。」

 カズヤは珍しくシリアスに言った。

「俺たち二人だけなのか...?」

「ああ、他のクラス見てきたんだけど...全滅だ。誰も起きちゃいねぇ。」

 ということは、桜子も?学校にいる人間が全滅?...いや、多分この様子だと学校だけじゃ無い...。


 何で俺たち二人だけ...。その『何か』があった時にたまたま寝ていたということが理由なのだろうか・・・・?


「おい、日有、何か聴こえないか?」

 カズヤの声に俺は我に返った。遠くから何かが聴こえる...これは...歌?この方向は・・。

「これ、多分屋上からだぜ...。」

 カズヤが言った。

「ああ、行こう!」

 俺たちは階段を駆け上がった。


 屋上に近づくにつれ、その歌声は大きくなってきた。そして、その声に聞き覚えがあることに気付く。

 あいつの歌。

 子供の頃、あいつはよく歌っていた。そういえば昔、あいつ「歌手になることが夢だ」って言っていたっけ...。


 俺は、屋上の入り口のドアをあけ、あいつの名前を叫んだ。

「桜子っ!!!」


 果たして、桜子はそこにいた。屋上の手すりの上に立ち、グラウンドの方を向いて歌い続けていた。

「桜子っっ!!!!!!!」

 俺は一段大きい声で再度叫んだ。

 桜子は歌うのを止めた。静かにこちらを振り返る。


 確かに、そこにいたのは桜子だった。しかし、その表情は俺の知る彼女ではなかった。生気というもの感じない...。あの元気いっぱいの明るい少女が、今はまるで人形のようにただそこに立ち、そして感情というものを感じない目で俺達を見ている。俺は彼女の異常な様子に恐怖を感じた。


「...桜子...。よかった...。お前も寝ちゃっているんじゃ無いかと思ったんだ...。」

 俺は恐る恐る声をかけた。彼女は俺の言葉を聞いても微動だにしない。


「...お、おい、何やってんだよ?そんなところで...。危ないから降りろよ...。こっちこいよ!」

 俺は続けて声をかける。


 一瞬、桜子が僅かに笑ったような気がした。しかし、直後、俺は彼女の次の行動でそれは気のせいだったのかもしれないと考えることになる。

 桜子は屋上から飛び降りたのだ。


「桜子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

 俺は絶叫した。

 俺は急いでさっきまで桜子が立っていた場所まで行き、下を覗き込んだ。そこで見えたのは予想外の彼女の姿だった。


「浮いてい...。」

 彼女は地上スレスレのところで静かに浮いていた。ゆっくりと前に進む。どうやら、学校を出ていこうとしているようだ。

 俺はカズヤの方を見た。カズヤは蹲って震えている。泣いているのか?


「バカ!泣くな!カズヤ。桜子は死んでない!追いかけるぞ!」

 どういうことだよ?と涙目でカズヤに聞かれたが、俺も答えようが無い。俺達は全力で階段を駆け下りた。


==


 学校の校門を出て、俺たちは事態の深刻さを理解した。街中で多くの人たちが倒れている。皆、寝ているのだ。遠くから桜子の歌声が聴こえる。


 歌...歌のせいなのか?

 桜子の歌を聴いた人間が眠ってしまっている??つまり、これは桜子がやったことなのか??

 何故、桜子はこんなことをやっている?

 何故、桜子はこんなことができるんだ?

 何故、そもそも俺たちは大丈夫なんだ?

 いろいろな疑問が俺の頭の中で湧き上がる。でも、悩んでいてもしょうがない。今は桜子を止める、それしかない。


 俺は近くに倒れている女性が乗っていたのであろうママチャリを起こした。

「すみません、借ります。」

 俺は眠っている女性に語りかけた。

「カズヤ、後ろに乗れ!桜子を追いかけるぞ!」

 俺たち二人は自転車に乗り全速力で歌が聴こえる方向に走り出した。


 桜子の移動速度はそれほど早くはなかったようだ。5分ほど自転車で走ったところでその姿が見えるところまで追いついた。「後少しだ!追いつくぞ!」俺はスピードを更に上げる。ふと前を見ると、桜子の進行方向に一人の人物が立っていることに気付いた。


 あれは...朝会った女...確か蓮川と言ったか?彼女は懐からペンダントのようなものを取り出し、それを桜子に見せてこう言った。


「デモンと認定。対デモン特措法5条に基づき、これよりあなたを排除します。」

 突然、彼女の手には長い棒状のものが現れた。杖...か?そして、何かをブツブツ言い始めている。何だ?何をしようとしているんだ?


「ラ・フィアラ!」

 彼女がそう叫んだ瞬間、桜子の身体は炎で包まれた。


「......ァアアアアアアア......。」

 桜子が無感情な叫び声を上げる。


「やめろぉーーー!!!!」

 俺は自転車から飛び降りた。漕ぎ手がいなくなった自転車はカズヤを乗せたまま壁に激突した。

カズヤが転がり落ちる。俺は走って桜子の元まで行き、抱きついた。桜子の身体にまとわりついている炎が俺の身体も焦がす。

「うわぁぁぁぁぁぁl!!!」


「...っ!」

 蓮川は杖を大きく振った。その瞬間、俺と桜子を包む炎が消えた。俺はその場で倒れ込む。


「鏡くん!大丈夫!」

 蓮川の意識が俺の方に向いた瞬間、桜子は物凄い速さで空中に飛んで行った。桜子を追おうとする蓮川。俺は強引に彼女の胸ぐらを両手で掴み、こちらを向かせて言った。

「何やってんだよっ!!お前!!!!」

 蓮川の顔がむっとする。

「あなたの方こそ、何をやっているのよ!私が止めなければただでは済まなかったのよ!」

「あいつは...桜子は...俺の大事な幼なじみなんだよ!」

「知っているわよ!そんなことは。でも、彼女はデモンになった。周りの状況を見てみなさい!これは彼女がやったことなのよ!私は彼女を止めないといけない。ZEMSの一員として!」

「だいたい...LPになるのは俺だったんじゃ無いのかよ!なんであいつなんだ!」

「...それは...、わからない...。詳細は言えないけど、我々の予知は100%正しいはずなの...。予想外のLPの発生なんて初めてのケース...。」

 彼女のトーンが落ちた瞬間、俺も少しだけ冷静になった。そして、お互いの顔が物凄く近づいていること、胸倉を掴んでいる俺の両手の甲の部分に女性特有の柔らかさを感じていることを感じ、慌てて手を離して距離を取った。


「...あ...ごめん...。ちょっと感情的になった...。」

「...別にいいわ。」

 彼女は視線を逸らして答える。

「でも、何か方法はないのか?俺は止めたい、あいつを。

まだ桜子なんだ、あいつはあいつの意思が残っている。だから助けたいんだ!」

「...意志が残っている?...何を証拠に?」

 俺はそっと自分の手を胸にあてて答えた。

「俺たち自身が証拠だ。」

 あ...と蓮川も声を出す。

「桜子は確かに学校の...街のみんなを眠らせてしまっているかもしれない。でも俺たち二人だけは眠らせていないんだ。あいつにとって大事な幼なじみである俺たち二人だけは。このことが証拠にならないか?」

 真剣な目で蓮川を見る。カズヤもきっと同じ気持ちでいるはずだ。

「...確かにそうかもしれない...。」

 蓮川は呟いた。そして、しばらくの沈黙の後、彼女は改めて口を開いた。

「一つだけ方法があるわ。...でもそのためには貴方の力が必要なの、鏡 日有くん。」


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