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シロのセカイ  作者: 七坂 洋
第1部 白き者
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第1話 白の力 (1)

 異世界<Lua>というものがある、らしい。

 俺たちが住んでいるこの世界とは全く別のもう一つの世界だとか。

 その世界が俺たちの世界に干渉したことにより、今大きな問題が発生している。


《リンケージ・クライシス》


 俺の頭では難しい事はわからないが、簡単に言うとこの世界にいる人間と異世界の誰かが繋がってしまう《リンク》という現象が多発的に発生している事をまとめてそう呼んでいる。


 このリンクが発生した人間は便宜上《Linked Person》、略して《LP》と呼ばれている。なんか昔、音楽再生するやつでそんなのあったよな?

 このLPとなった人間なんだけど、いろいろと影響が出てくるみたいだ。


 一つ目、これは一番わかりやすいやつなんだけど、身体能力が飛躍的に向上するってことだ。

 例えば10階建のビルの屋上から飛び降りても全然平気になる。


 あ、これは今まさに俺が実感していることだな・・。信じられないけど、あんな高いビルから飛び降りて全然平気なんだぜ。しかしだからと言って、怖くないわけではない。ちょー怖い。高いところ苦手なわけではなかったけど、出来れば毎回は勘弁したい。


 二つ目、LPになった人間はそれぞれ異なる特殊能力を身につける場合がある。これはかなり個人差があり、能力が全く発現しない人間もいれば、一人で複数の能力を持つ人間もいるとのことだ。ちなみに俺の能力というのはかなりレアらしい。そのためスカウトされたと言ってもいいらしいんだが。


 最後の一つは記憶に関してだ。


 LPになると、接続したLuaの人間、あ、この人間のことを《リンカー》と呼んでるんだけど、そのリンカーの記憶の影響を受けてしまうらしい。


 この現象、俺には「今のところ」全く発現していないので全く実感がない。実際、これも個人差が大きいらしい。ちょっとした趣味・嗜好が変わったというだけの人間もいれば、かなり影響を受けてしまい完全に人格が変わってしまった人間もいるとのことだ。


 サーザス、あいつが名乗った名前も多分あいつに繋がったリンカーの実際の名前で、あいつ的にはその名前が自分の名前としてしっくりくる、という状態なのかもしれない。


 「今のところ」とさっき言ったが、俺も将来どうなるかわからない。

 このリンクの度合いは徐々に進んでいく可能性があるとのことだ。リンクが進めば段々とリンカーに近づいていく。

 記憶が書き変わり、肉体の強化が進み、更に特殊な能力も発現していく。まあ、スーパーマンになれるというのは、もしかしたら凄いことなのかもしれないけど、自分じゃ無い別の誰かになってしまうかもしれないというのは困る、というか正直怖い。


 さて、俺、鏡日有はとある事件に巻き込まれてこのLPになっちまった。

その時に出会ったある女を通じてある組織を知り、その組織から持ちかけられたある約束の交換条件として今回の任務に参加しているって訳だ。


‥‥って、いろいろと頭の中で状況整理している内に俺は前を走るいけすかない野郎に追いついた。



ーーー


「ここが、そうなのか?」


 真夜中に佇む洋館。

 しかし、ここだけ周囲の風景に溶け込んでいない。明らかに異質だ。

「あれ?こんな街中にあったっけ?こんなデカい家‥‥」

 ここは言うならばビジネスビルが建ち並ぶいわば都心部だ。そんな街中に突如として現れた巨大な屋敷。こんな場所があれば、TVなんかで取り上げられて名所になるんじゃないだろうか?


「恐らく、認知が歪まされているのだろう‥‥。《デモン》にはそういう能力があると聞いた」


 《デモン》、LPの中でも魔族と呼ばれる種族とリンクしてしまった人間。

 LPになる、ということは人間にとって悪い事ばかりではなかったらしい。俺たちの科学技術とは異なる叡智を授けてくれる場合もある。そういう俺たちにとって利益のあるLPのことを《セラフ》と呼んでいるらしい。

 そして逆に人類を害をなす者、どうやらLuaの中でも魔族と呼ばれていた種族らしいのだが、それら繋がったLPを総じて《デモン》と呼んでいるとのことだ。ま、俺も教えてもらったばかりだけどな。


「へー、いろいろ物知りなんだな。さすがセンパイ。つーか、任務ってもう何回くらいこなしているんだよ?」

 奴は俺に目も合わせずこう答えた。

「‥‥今回で2回目だ。」


‥‥なんだよっ!お前も素人同然じゃないかよ!!


「心配するな、2回目といえども先輩である事実は変わらない。俺にはお前をリードする義務がある。お前は俺の指示に従えば大丈夫だ。」


 ‥‥キメ顔で言いやがった、こいつ。

 何となくわかってきたぞ、こいつは『真面目』だ。クソがつくほどの大真面目。お前は学級委員長か何かかよ!


「はいはい、わかりましたよ、サーザスセンパイ。今日はあんたの指示に従いますよ。でだ‥‥」

 俺は目の前にある巨大な鉄の扉に目を向ける。

「とりあえず、これが入り口みたいだけどどうやって中に入るかだよな。鍵かかっているみたいだし、さすがに正面から入るってのもノープラン過ぎるんで他の入り口を探すってのが最善‥‥」


 俺が言い終わる前にサーザスは刀を振り下ろした。

「問題ない、解決した」

 敷地内全体に響き渡るような轟音が鳴り響く。

 え?斬ったの?この扉を?

 俺は頭が真っ白になった。


「‥‥‥‥何で?」


「ふむ、俺の能力をまだ教えてなかったな。『空間を斬る』というのが俺の能力だ。目の前の物質ではなく、それが存在する空間を斬れる。つまり‥‥」

 やつは一段低い声でこう言った


「俺に斬れぬものは無い。」


 ‥‥あ、そう‥‥いや、違う、違う‥‥‥俺、斬れた理由を聞いたんじゃなくて、あなたが正面入口の扉をあんな目立つ方法で斬った暴挙の理由を聞いたのですが‥‥。


 案の定、館内から大量の足音が聞こえてくる。

「だーー!!!!やっぱり見つかちゃったじゃねーか!どーすんだよ!このクソ真面目暴走男!!」

 俺は頭を抱える。

「ふむ‥‥」

 やつは一瞬考え、低い声でこう言った。

「‥‥殲滅する」

「この脳筋野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」


 案の定、20人を超える黒服の怖ーいお兄さん方が現れちゃったじゃないの。手に持っているのは‥‥。

「ピ、ピストル!?」

 事前にもらった情報によると、今回のターゲットは、指定暴力団か何かの親分だか幹部だったか。そりゃあ、武装している子分いるよな‥‥。

「おーーーい、サーザスさんよ、もう万事休してんじゃねーか!!!!」

「ふ‥‥、LPとなった俺たちの肉体は強化されているのを忘れるな。よく見れば拳銃などよけることは出来るし、例え当たったとしても‥‥」

「当たったとしても?」


「痛いだけだ」

 痛いのかよ!痛いの嫌なんですけど‥‥。


 「やれ」とかいう掛け声の後、何人かが打ってきた。

 瞬間、背筋に冷たいものが走ったが、確かに銃弾の動きが見える。俺の動体視力も大幅に強化されているらしい。とは言っても避けるので精一杯。

 サーザスの奴はというと、銃弾の嵐の中、集団に突っ込んで行っていた。

 あいつ、鉄の心臓か。

 そして、相手の一人に刀を振り下ろした。

 え?フリオロシタ??

 ‥‥ん、斬っちゃったの???


「おい!てめぇ!!人を殺すとかは無し!そういう約束だっただろう!!!!!!」

 俺はただっ広い玄関ホールに響き渡る声で叫んだ。


 あいつは振り下ろしたのだ、あの「何でも斬れる」という刀を。

 「人を殺さない」これが、俺がこの任務を受けるにあたって出した条件だ。たとえ相手がデモンであったとしても、「俺の能力」なら人間を殺す必要がない。それが任務を受けた理由の一つでもあったのだ。

しかし、こうも早くその条件は破られるなんて‥‥。


 死んだ。人が死んだ。人の死に俺が関わった。そういう恐怖が俺の中で走った。

きっと相手は惨たらしく真っ二つに‥‥‥って、あれ?


 血‥‥が出ていない‥‥気絶しているだけ??

「ふん、お前は峰打ちというものも知らんのか」

 呆れた表情でサーザスが答える。

「え‥‥、お前の剣って何でも斬れるんじゃなかったのか???」

 やれやれ、ともう何度か見せられたあの表情をした後、やつは言った。

「能力のON/OFFぐらいできるようなってないと、使いこなせるとは言えんだろうが」

 俺はこのクソ真面目暴走長髪野郎を後ろから蹴り倒したくなった。


 安心も束の間、俺が出した大声は注目を集めるには十分だった。

 怖いお兄さん方の銃口が一斉に俺に向けられ、銃弾の嵐が俺に集中した。

「ちょ‥‥」

 俺は幼い頃から武術もやっていたので、戦うってことに関してはそれなりに自信はあったんだけど、こういった武器を相手にした戦いなんて当然一般的な高校生だった俺にあるわけなく、俺は銃弾の雨霰の中を頭抱えて走り回るしかなかった。

 いくら肉体が強化されてたと言っても、銃弾の嵐の中を戦うとか絶対に無理無理無理!

追い詰められた状況の中、俺は兄貴の言葉を思い出した。

「時には逃げる勇気も必要だ」


 ありがとう、兄貴。今の俺には金言だ。

 ‥‥よし、逃げるか。


 銃弾の嵐の中、俺はサーザスを一人置いて、全力で逃げ出した。


ーー


 建物の中をどれだけ走っただろうか。

 何とか怖いお兄さん達を撒いたようだけど‥‥しかし、この建物予想以上に大きいようだ。というか、外から見たサイズに比べて大きすぎないか?


 そう、明らかに異常だ。

 外とは全く別の空間にいるという感覚。これも奴らの能力とかなのか?


「おい、こっちだ!!」

 遠くで奴らの声が聞こえる。やばい、どっかに隠れないと‥‥。

 俺は一番奥の扉が半開きになっていることに気づいた。

 ひとまず身を隠すため、その部屋に俺は飛び込んだ。


 飛び込んだのは月明かりが窓から差し込むだけの薄暗い部屋だった。

 とりあえず、この部屋に隠れていたらやり過ごすことができそうだ‥‥。


 コトン


 部屋の奥から物音がした。人の気配がする。

 俺は思わず身構えた。


「どなたですか?」


 聞こえてきたのは予想外に少女の声だった。

 ここは、客間だろうか?非常に広く豪華な部屋だ。

 一人の少女が窓際に立っていた。

 最初は驚いていた様子だったが、少ししてから俺の方に歩み寄り顔を覗き込んできた。

 こんな状況でこの子には警戒心というものがないのだろうか?


「ヒユウ様‥‥ですね?」


「え?ああ、はい、ヒユウ、鏡 日有です。よくご存じで‥‥」

 突然名前を呼ばれ、思わず変な答え方をしてしまった。

 なんで、この子は俺の名前を知っているんだ‥‥?


 俺は彼女を見た。肩までかかった赤みがかった金髪が綺麗だ。

 日本語喋っているけど、外人さんなのだろうか?

 年は俺より5歳くらい年下って感じだろうか?中学生くらいのようにも感じるが、彼女から感じる雰囲気、気品、気高さというものなのだろうか、それは彼女の見た目の年齢とは釣り合わないものだった。


「えーと、どこかで会ったことあったっけかな?」

 彼女はふふふっと笑い、くるりと一回転して後ろを向いた。

 その動きはさながら軽やかに舞っているようだった。

 雲が流れ月明かりが窓から差し込む。気付いてなかったが今日は満月だったのか。月明かりが照らす彼女のシルエットを見て「可憐」という言葉思い出した。

「そうですね‥‥。この場合、何とお答えするべきでしょう‥‥」

少し考えて、彼女はこう答えた。

「今目の前にいるあなたのことは知りません。でも、あなたのことはよく知っています」

 全く意味がわからない‥‥。

 不思議ちゃんなのだろうか‥‥?


 少しだけ冷静になった俺は根本的な質問を彼女に行った。

「君は誰だい?何でこんなところにいるんだい?」

 彼女はまた少し考えている。のんびりとした性格なのだろうか。

「そうですね‥‥帰りたくても帰れないといいますか‥‥」

そういえば、ここはかなり危ない連中の館だった。もしかしたらどこからか拐われてきて監禁されているのではないだろうか‥‥。

「ここは危ない、一緒に逃げよう」

 俺は彼女にそう言った。

 彼女の表情がぱぁっと明るくなった。

「ヒユウ様、また助けてくれるのですね‥‥」

 彼女はニッコリ微笑んだ。

 (また?)気にはなったが、それとは別の質問を俺は彼女にした。

「君の名前は?」

 彼女はこう答えた。

「アシュリーです」


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