プロローグ
思えば俺はいつも髪のことで苦労していたような気がする。
天パーで見事なくらいにクリンとした髪は、無駄に人目を引いたし、「いや、これ天然なんすよ」と何度説明したことか。頭が硬い時代遅れの先生にはいちゃもんつけられるのもしばしば。
あー思い出してきただけでイライラしてきた。
でも、兄貴はいつも言ってくれていたんだよな「それもお前の個性だ」って。
だから俺もこの髪を好きになろうと頑張ってきたんだけど、あの女が現れた事件からまた俺は「髪」のことで悩まされている。
そう、あの女との出会いが今の俺の状況の始まりだった。
あの綺麗な髪の女との出会いが‥‥。
「‥‥時間だ」
突然の声に俺は我に返り、声を発した人間を見た。
長い黒髪を携えた一人の若い男。
お前毎日トリートメントしているのかよと言いたくなるくらい綺麗なストレートロングに少しイラつく。男のくせに。更に年は俺とそう変わらないくらいなのに、偉そうに話すところがますますイラつく。
こんな街中で日本刀携えているアブないやつだ。
名前はたしか『サーザス』とか言っていたっけ。多分、あっちの方の名前なんだろうけど。
俺の今回の相棒らしい。
「シロ、行くぞ」
「俺は『シロ』じゃねー!『鏡 日有』という親からつけられた大事な名前がある!」
ん、なんだこいつ、やれやれ‥‥って感じで首振りやがった。
「その見た目だと、『シロ』の方がお似合いだ」
突如、俺たちのいるビルの屋上に突風が吹いた。癖っ毛のあるおれの髪が風で靡く。透き通るように『真っ白な髪』が。
そう、これこそが今のこの俺の状況の原因となったもの。1ヶ月前のあの事件から俺はこの髪のせいで振り回されっぱなしだ。
気づいたら奴の姿はなかった。どうやらビルから先に「飛び降りた」らしい。
ったく、こっちはお構いなしかよ。
気は乗らないけど目的のためには行くっきゃないか。
「さーて、お仕事をしますか」
白い姿がひとつ、真夜中の闇の中に吸い込まれた。