22.5話 王都は近い
団長との話が終わってから、リンネはすぐにノルンのいるテントを訪れた。
「やあノルン。最近、仕事の調子はどう?」
「段々と覚えてきましたよ! この前なんて、カーさんとクロウさんに褒められたぐらいです!」
「あの二人に? あはは。すごいや」
弾けるようなノルンの笑顔に応えるように、リンネも明るい笑い声をあげる。
マットの上にノルンが座って、その隣をぽんぽんと叩いた。リンネはその場所に腰を下ろす。そして今度はノルンが聞く。
「リンネの方こそ、特訓は上手く行ってるんですか?」
「うん、もちろんさ! ……こ、この前はちょっと負けかけたところもあったけど」
「そうやって正直に全部言ってしまうところ、好きですよ」
リンネは照れと恥ずかしさで顔を真っ赤にした。そして、誤魔化すように頭をかく。
しかし、今度は真面目な顔をして、ノルンへ言う。
「でも、確実に強くなってるから。僕が、君を守るから」
「……はい。くれぐれも、無理はしないでくださいね?」
「うん」
リンネは頷いた。それはリンネの精一杯の嘘だった。そんな状況になったら、きっと無理をするだろう。リンネは自分でそれを理解していた。
だから、もっと強くならなければならないと思う。
「そうだ。ノルンにこれ渡しておくよ」
そう言って、リンネはマリーの隠れ蓑をノルンへと渡した。
「返したんじゃなかったんですか?」
「うん。でも、ノルンに持たせてあげなって言われたし、僕もノルンに持ってて欲しいから渡そうと思って」
「なら貰っておきますね。あ、王都で羽を隠すのに使おうかな」
そう言ってノルンは自分の羽にマリーの隠れ蓑を巻き付けた。
「見えますか?」
くるくると体を回すノルン。リンネは頷いてから言う。
「大丈夫。しっかり隠れてるよ」
「よかったです。これでリンネと一緒に回れますね!」
「だね」
リンネは王都のことを考えた。ノルンとどんなところを回るかを想像すると、もう楽しみで仕方がなかった。
「王都で美味しいものでも食べれるといいね」
そう言うと、ノルンは何かを思いついて意地悪な笑みで言った。
「ハタさんの料理より美味しいもの、ですか?」
「いや、そういうことじゃなくて……は、ハタさんには言わないでよ? そのこと」
「言いませんよ。それで?」
「うん。なんか、変わったものを食べれたり、綺麗な景色を見れたら良いなって、思ってさ」
「ふふ。そうですね。……楽しみです」
ノルンはそう頷いて、そのままリンネの肩へ頭を預けた。リンネの頬を銀色の髪が撫でて、リンネはぎょっとして身を固くする。
ノルンがクスリと笑う。
「そんなに緊張しますか?」
「す、するよ。……まったく」
リンネはなるべく肩は動かさないようにして、ゆるゆると首を振った。頬はほんのりと赤く染まっている。
しかし、どうやら満更でもなさそうだ。
二人はそれから言葉を交わすことなく、床から伝わってくる振動と音、そしてすぐそばにある体温を感じていた。
王都は近い。