SIDE:光流
「はい、お疲れ様でしたぁ!」
「お疲れ様で~~す♪」
私の中から流月がいなくなって3か月。私はまだ、ヒカリを演じている。
流月がいなくなった喪失感はあるのに、なぜか時々流月を感じることがあるから。
こうやってヒカリを演じていると、時々、私が流月になったような不思議な感覚になることがあるの。だからこそ、私は今もヒカリを演じている。
ヒカリは、流月が遺してくれたたった1つの絆。私がヒカリでなくなったら、本当に流月がどこにもいなくなってしまう気がするから。
不思議なことに、流月が得意だった理数科目は、私も得意になっていた。きっと、流月が私に置いていってくれた能力なんだと思う。
流月からの宿題は、あと1つ。
颯真くんへの告白。
難しい注文をしてくれたものね。だって、颯真くんは流月が好きだったのに。
小学校でクラスが違ったにもかかわらず流月のことを知っていたのは、そのせい。流月は否定していたけど、バレンタインにチョコあげたことがあったらしいし。
颯真くんは、私の知らない流月を知っていた。
その上で、ヒカリのことを流月だと思ったらしい。見る目があるわよね。
高校で同じクラスになった時、真っ先に流月のことを訊かれて、11歳の時亡くなったって答えたら、すごく驚いていたっけ。それでも、ヒカリが私である可能性に思い至らない辺り、彼の中で私の評価は、よっぽど暗い娘ということなんだろうね。
流月は、最期の頃はほとんど眠ったままで、私が呼びかけても応えてくれなかった。
さよならを告げられた後は、どんなに呼びかけても応えることはなくて。
成仏したってことなのかな。
本当なら、11歳の時、死んでいたのは私だったはずなのに、私を助けるために自分が死んじゃって。
私の中に流月がいるのに気付いた時は、私の体をあげてもいいって思ったのに、流月は私が困っている時にしか出てこなかった。うっかりすると流月が体を使っている時でも私に戻ってしまう。
私は、流月の大切なものをなんでも奪ってしまう。
命も。ヒカリも。颯真くんも。
本当は、流月が颯真くんと付き合いたかったはずなのに、私の背中を押して逝っちゃった。
私は罪深い。よくわかってる。
でも。
せめて、流月のお陰で生きている私が頑張っている姿を、流月に見せてあげたい。
私が颯真くんを好きなのは確かなんだから、流月の言うとおり、告白しよう。
ふられても構わない。ふられたら、流月のお墓の前で泣きながら報告しよう。
校舎の裏に、颯真くんを呼び出して。思いっきりベタな形で、真正面から、告白する。
「颯真くん、私は、あなたが好きです。私と付き合ってください」
これにて完結です。
元々は連載用に書いていたものですが、とにかく話の進みが遅くて、しかも展開的に書いていて辛い部分も多く、書けなくなっていたものです。いじめられたり、変質者に襲われたり、ほんと、結構ひどい目に遭うものですから。
せめて形にしたいと思い、ダイジェスト的な短編にまとめてみました。
最初は、序盤だけで終わりにしようと思っていたのですが、それだと消化不良だというご意見もいただき、2人の別れまで書くことにしました。
光流の中にいた流月は、光流が生み出した幻影…第2の人格です。
“流月ならこうするだろう”という光流のイメージで生み出された人格であるため、流月としての記憶がありません。無意識にそこを考えないようにしていたのが、颯真の存在により、齟齬が生じ、流月の側が自分の存在に気付く、というものでした。
流月人格の計らいにより、光流は最後まで本物の流月の魂が自分の中にいて、成仏したのだと信じています。
その思いが、光流を強くしてくれるのです。
告白がどうなったかは、ご想像にお任せします。どちらにしても、光流はこれからも流月を犠牲にしたという十字架を背負いながらも前向きに生きていくのですから。




