SIDE:流月
「チェンジ! ~ボクは妹の中に住んでいる~」の完結編になります。
先に前作を読んでいただいた方がわかりやすいです。
どうしよう。光流の好きな人を好きになっちゃった。
綾瀬颯真。光流の小学校の時のクラスメートで、中学卒業後に再会した人。
そして…月乃ヒカリのファン。
ボクは天野流月。11歳の時に交通事故で死んで、双子の妹の光流の中で生きてる。光流が見たものを見て、聞いたものを聞いて、触ったものを触って。でも、それはやっぱりボクじゃない、光流の体なんだ。
ボクは、生きてた頃、光流と2人一組で、月乃ヒカリって名前でモデルをやってた。
光流は引っ込み思案だから、ボクが一緒だからモデルをやってたって感じで、ボクが死んだ後は仕事をしたがらなくなって、ボクが光流の体を使って仕事をするようになった。
颯真君は、そのヒカリのファンだ。
初めて開いた握手会に来てくれて以来、何かイベントがあれば大抵来てくれる。
そして、颯真君は、光流の高校のクラスメートでもある。
クラスが同じだと知ったのは、偶然の再会の10日くらい後。小4の時にどこかに引っ越してた颯真君は、同じ高校に合格してた。まぁ、高校なんて学区とかないんだから当たり前と言えば当たり前なんだけどさ。
学校では、内気で目立たない女子を地で行ってる光流だけど、颯真君といる時だけテンションが違う。たぶん中から見てるボクにしかわからない程度の違いだろうけど。なんていうか、颯真君は優しいんだろう。ちょっとした気遣いで光流に接してる。感覚を共有してるボクが勘違いしちゃうくらい。
こんな気持ち、光流には言えないよ。
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(ねえ、流月、起きて! 起きてってば!)
ん…、光流と、久しぶりに繋がった。
(大丈夫、起きてるよ。仕事?)
(うん。大丈夫なの? 最近、いっつも眠ってるみたいだけど。体調でも悪いの?)
(体がないのに、体調悪くなるわけないじゃん。大丈夫、なんともないよ)
(本当かなあ。無理しないでね。お仕事、減らしてもらおうか?)
(そんな気にすることじゃないって。じゃ、いくよ)
「「チェンジ!」」
光流は、ボクが最近眠ってばかりって言うけど、本当はボクは眠ってるわけじゃない。昼間は大体起きてる。
ただ、光流と繋がれないだけなんだ。
ボクが死んで、光流の中で目覚めた直後みたいに、真っ暗なところに立ってる気分。
ううん、あの頃よりひどい。あの頃は、少なくとも映画のスクリーンみたいに、光流の見てるものが見えてた。そのうち、音が聞こえるようになって、視界がスクリーンじゃなくて目で見てるみたいになって。今は、完全に真っ暗な感じ。光流の声も聞こえない。
こうして、仕事の時だけ、光流の呼ぶ声が聞こえてくる。
なんでだろう。
いつからだったかな。
もう、覚えてない。
時々意識が途切れることもあったけど、1時間も空かなかったし。そのうち、起きてるのに光流の感覚がわからなくなって。音が聞こえなくなって、とうとう何も見えなくなった。
意識が途切れるのは、光流に初潮が来た時以来だよね。あの頃は、光流が生理の間はずっと寝てる感じだったし。
生理中に痴漢に襲われて入れ替わってからは、ずっと起きていられるようになったんだっけ。
あれ、2人で色々考えたけど、どうしてかわからなかったんだよね。
本当は、光流には言ってないけど、もしかしたらってのはわかってるんだ。ボクが初めて生理の気持ちの悪さとか感じた時、“こんなの知らなきゃよかった”って思った。光流と2人で「きついよね」なんて言い合って笑ったけど。もしかしたら、光流がボクに気を遣ってシャットアウトしてくれてたんじゃないかって。
ボクは、光流の中にいるから、ある程度光流の無意識の影響を受けるんじゃないかって思ったんだ。
だって、痴漢の時、光流の助けを求める声で目が覚めたもの。
だから、もしかしたら、今光流と繋がらないのは、光流が嫌がってるからなのかもって思う。
思い出せ、何かきっかけがあったはずだよ。
最初に光流との繋がりが切れたの、いつだったっけ。
そうだ、去年のバレンタイン! 小3の頃、ボクが颯真君にチョコをあげたって話が出た時だ。急に耳が聞こえなくなって、あれ?って思ったんだ。
後で、光流からチョコの話を問い詰められたから、その辺あんまり気にしてなかったけど。
そうだよ。考えてみたらボク、颯真君のこと全然覚えてなかったのに、颯真君の方はボクのこと知ってるみたいだったんじゃんか。
なんでだろう。
ボクは、自分がどうやって死んだのか、覚えてない。轢かれた時の痛みとか恐怖とか思い出さなくてすむからありがたいくらいに思ってたけど、よく考えたら変だよね。それだけなら、刺激が強烈すぎてストップがかかってるのかもしれないけど、よく考えてみると、ボク、自分1人の時の思い出とか、全然思い出せないじゃない。思い出せるのは、光流と一緒の時のことだけ。
ボクは……流月じゃないのかもしれない。
考えてみれば、幽霊が光流の中に住んでるより、ボクは光流の一部で、光流が作った流月の偽者って方がありそうだよ。
あはは……な~んだ、ボクは光流のはじっこだったんだ。同じ人を好きになるのなんて、当たり前だよね。
だったら、何も悩むことなんかないよね。
ボクを光流に返そう。
ヒカリのお仕事だけどうにかすれば、もうボクはいらないんだから。
ボクが光流の一部なら、ボクができることは全部光流もできるはず。
どうしてもやりたくないなら、モデルをやめちゃえばいいんだし。
光流がボクを呼ばなくなれば、きっとボクはゆっくりと光流に溶けていくよね。
最後まで流月の幽霊として、光流とさよならしよう。
そうと決まれば。
仕事が終わって控室に戻った後、ボクは別れを告げることにした。ここを逃すと、次いつ繋がるかわかんないから。
(光流、どうやらボクは、もう光流の中にはいられないみたいだ…)
(どういうこと?)
(お迎えが来たっぽいよ)
(お迎えって…)
(ボクは5年も前に死んじゃったからね。やっと天国に行くみたい)
(ちょっと、流月、それって…)
(ヒカリの仕事は、光流が自分でやって。演じるくらいできるでしょ。どうしても嫌なら、引退しちゃえばいいよ)
(ねえ、話聞いて! 流月!)
(さよなら、光流。がんばって颯真君に告白してね)
さよなら、ボク。これが最後の…
「チェンジ!」
真っ暗な空間に帰ってきた。何も見えない、何も聞こえない。
(…)
(…!)
(流月! ねえ、返事して、流月!)
やだなぁ。思わず返事したくなっちゃうじゃんか。流月はもういないの。死んじゃったんだよ。
泣きながら流月を呼び続ける声が、段々遠くなる。
そのうち、きっと、1つに戻るよ。
バイバイ…。
午後10時頃更新のSIDE:光流で完結します。