緊急事態
少し早めに狩りを切り上げナミラーに戻ると町の中が異様に騒がしい。
小耳を立てると
「サンジョウの町が銀色の巨人に襲われたらしいぞ」
「俺は白いゴーレムと聞いたけど」
「ダイワの町が一瞬にして壊滅したと聞いたぞ」
「魔王がイズモニアを攻めこんでいるらしい」
「ガルメニアがイズモニアを侵略していると聞いたぞ!」
「ガルメニアの狙いはオリタリアだろ。だからイズモニアを攻めて二正面作戦は取るわけ無いだろ」
「そうそう、ルホストの町は軍事要塞化しているだろ。ガルメニアはナミラーを狙ってるはず」
町の空気は明らかに驚きの色に満ち溢れている。
「おいおい、なんか物騒な話ばかりだぞ」
「ナミラーは仮面魔道師で手一杯でゴザル」
「そう言えばルホストの町は軍事基地になっているってイラークの人が言ってたわね」
「トモ君はさっきから黙ってるけど何か考えてるの?」
「ナミラーの町も潮時かもしれないな。北のミアンへ行くかオリタリアの首都リーパスに行くか」
「何れ、この町とはお別れをしないといけないのだけど、せっかくネーナさんがギルド長になったのに少々勿体ない気もするな」
「碧の言うとおり、ネーナさんとの繋がりは大切にしておきたいがキナ臭くなってきたからな。
仮面の魔道師の件が片付いたらゆっくり相談しよう」
宿につくと宿の前に見かけない男が立っていた。
「白田 碧さまとその御一行の皆さまですね」
「はい、そうです」
「私は商業ギルド支部長アルファンブラの使いの者です。大至急、商業ギルドへお越しいただけないでしょうか?」
「この騒ぎと関係あるですか?」
「詳しいことは聞いておりませんが、多分、そうだと思います」
急いで商業ギルドへ向かう事になった。
支部長室へ入ってみるとネーナさんの右には冒険者ギルド長が渋い顔をして腕組みをしながら椅子に座っていた。
左には見たことのない綺麗で上品な女性が座っていた。
お姫様が着るような白いドレスにロングの金髪。
誰がどう見ても上流階級のお嬢様だった。
その後には見たことがある老人が立っていた。
たしかアレックスさんの家の家老だったはずだ。
「碧さん、みなさん、お疲れのところ御足労、痛み入ります。
ご存知だと思いますが、こちらは冒険者ギルド長のテッド・ドリスタン氏です」
冒険者ギルド長は頭を下げた。
お、初めて名前を知ったぞ。この筋肉ダルマ。
左側に手をやり金髪のお嬢様を指し
「そして、昨日みなさんが助けた。アレクサンドラ・マイソールです」
「「「「「エーーーーーー!!!」」」」」
俺たちは全員大声を上げた。
アレックスさんは立ち上がり礼をした後に
「昨日は皆さんのおかげで助かりました。ありがとうございます。
あのまま行き倒れていたら私はこの世にいなかったことでしょう」
それはそうだろう。モンスターが徘徊する森付近に倒れていれば餌食になっていたことだろう。
「アレックスさんって名前からてっきり男性だと思っていました。すみません」
「あなたが白田 碧さんですね」
「はい、そうですが。なぜ俺の名前を?」
「ネーナから色々伺っていまして。私はこう見えても学者の端くれで学術ギルドの上級会員でもあります。
学者にとって『白田 碧』という名前は『学問の父』であったり『科学の祖』とも言われる特別な名前なんですよ」
うん?アレックスさん何言ってるの? そんな偉人と俺関係ないと思うのですけど。
「私の名前を含めたこの話は、また機会を改めて」
「みなさんに謝らなくてはいけないことがありまして・・・・・」
ネーナさんが申し訳無さそうに俺たちに言った。
「緊急事態なので、ここにいる者に皆さんが日本からの転移者という事を話させていただきました」
「緊急事態というのはサンジョウの件ですか?」
幼女智弘が会話に加わる。
「そうです。サンジョウの町に見たこともない銀色の巨人が現れ、その後、白いゴーレムも現れたと。
ダイワの町に火を噴く馬車が攻めてきたという話がありました」
「それはどこからの情報ですか?」
「私が目撃しました」
とアレックスが答えた。
「私はイズモニアのサンジョウの町の近くにある遺跡調査に行っていたのですが、偶然襲撃に居合わせてしまいました。
見たこともない銀色の巨人が現れ暴れたかと思うと腕から魔法を放ち城壁を粉々にしました。
巨人がいなくなると今度は白い巨大なゴーレムが町を破壊していきました。
イズモニアの魔法部隊が操るゴーレムを巨大な銃でいとも簡単に殲滅したのです。
その後、ダイワの町へ伝えようと飛んだのですがダイワの町も火を噴く車に襲撃されていました。
イズモニアの首都ワセンへは行けずオリタリアの首都リーパスへ行こうとしたのですがグリフォンに追いかけられてナミラーに逃げ延びた次第です」
「ちょっと待ってください。なぜ銃だと分かったのですか?この世界で銃を見たことないのですが」
「銃は一つだけあるんだよ」
冒険者ギルド長のドリスタンが会話に入ってきた。
銃を一丁ではなく一つと数えた。やはりこの世界では銃は珍しい物なのだろう。
「イズモニアにあるセキジョー・ダンジョンに勇者・茜様が使用したと言われる銃が一つあるんだよ。
誰にも触ることが出来ず、どんな魔法でもどんな攻撃でもけして壊れることがない銃があるんだよ。
大昔、銃の隣に石版があったらしいが破壊されちまってな。
言い伝えには『私の一番大切な人のために、ここにおいて置く』と掘ってあったと言われている。
そして、セキジョー・ダンジョンにはゲートがある。
単刀直入に聞く、サンジョウの件、お前たちに心当たりは無いか?」
ゲート!!
俺たちは顔を見合わせた。
あるある大有りだ。みんなの顔を見ると
智弘は顎でを前に出しお前が話せと指示している。
「ゲートは何れお聞きするとして、サンジョーの件は、俺が代表して話します。
みなさんの予想通り、俺たちの仲間だと思います。
召喚を受けたとき女神様から『女神の祝福』を一人一つずつ与えてもらいました。
銀色の巨人はワレトラマンと言って俺たちの世界では大人気の英雄と言えば分かりやすいかな。
白い巨人はズガーンダムといいます。
俺たちの世界の人気ロボット。分かり易く言えば金属で作られたゴーレムですね。
火を噴く車というのは戦車と言って銃の超大型版というより巨大なファイヤーボールを撃ち出す馬車ですね。
そして、そいつらの大元締めは魔王ではなくガルメニアですよ」
「ガルメニアか!フェルナンド王の仕業か!
俺はナミラーを狙っている物とばかり思っていたのだが」
と前にある机を両手で叩きドリスタンは言った。
「いえ、何れナミラーも。それどころかハルフェルナを征服できるくらいの戦力ですよ。
イズモニアを占領したらオリタリアも狙ってくると思います」
「うぐぐ」
ギルド長ドリスタンは歯軋りとも呻き声とも分からない音を発した。
「して、召喚された者は何人いるんだ!
全員あれほど強力な術を持っているのか?」
「戦車を召喚したヤツはコリレシアという我々の世界の軍隊です。兵力は1万人、先の戦車は100両くらいあるそうです。
このコリレシア軍を召喚したヤツとワレトラマン、ズガーンダムの3人が最強でしょうね。
他は剣とか槍の武器を与えられた者、職業を与えられた者です。
職業を与えられた者はあまりステータスは高くなかったようでフェルナンドはイラついていました。
武器はエクズカリバーとかロンロンギヌの槍とか言っていたと思います」
「何、エクズカリバー、ロンロンギヌだと!!」
ギルド長ドリスタンが立ち上がり大声で驚いた。
「凄いんですか?」
「聖剣や伝説の槍だぞ! 他に何かあったか覚えていないか?」
「他何か覚えてるか? 俺、斬られて失神していたから」
「デュラランダル、アロロンダイト、ミヨ~~ンニル、グルグルニル、ライトセイバー、イージーの楯だったはず」
「智弘、記憶力良いな」
「おいおい、ライトセイバーは知らんが他も伝説の武具だぞ。
何でそんなに凄い武器ばかり持っているんだ。
その武器を持っていれば誰でもSランク冒険者になれるぞ」
ギルド長ドリスタンは頭を抱えた。
「他は勇者とか賢者とか職業系でしたね」
「勇者もいるのか・・・・・・で、お前たちは何を貰ったんだ?」
「俺は『キチンセット・オマケつき』」
「はぁ?キッチンセットだ? お前は何貰ってるんだよ」
やはりこれがキッチンセットの普通の反応だ。
「まぁ、これは非常に便利なので重宝しています。
で、この小さい幼女が『魔法少女』という我々の世界でもちょっと特殊な職業です。
『姫騎士』『聖女』」
と一人ずつ指しながら説明した。
俺は一呼吸置いて
「仮面を被っている人は『リッチ』です」
と言った瞬間、ドリスタンは剣を抜き構えた。
「リッチだと!! ふざけるな、お前たちよくもそんなヤツと旅をしていられるな。俺が叩き斬る!!」
俺も立ち上がり七海の前に出てサックブラッド・ナイフを手元に呼び出した。
「ドリスタンさん、もし七海に斬りかかったら俺があんたを殺すよ。
俺をカレー屋のアンちゃんだと思っていたら痛い目にあうよ。
昨日、アレックスさんを追ってきたグリフォンを殺したのは俺だからね。
このナイフは加減できないよ。刺さったら確実に死ぬからね」
美味しいところを横から掻っ攫っただけだがとどめを刺したのは事実だ。
「彼女は賞金首のオークジェネラルを瞬殺しましたからね。
彼女が怒ったらこの町なんか一瞬にして廃墟ですよ。
まぁ、そんなことは望んでいないでしょうけどね」
「止めてください!!ここは商業ギルドです。ドリスタンさんも碧さんも剣を収めてください」
ネーナさんがドリスタンさんから庇うように俺たちに背を向けて両手を広げ止めてくれた。
「あぁ、悪かった。リッチと聞くと反応するのが冒険者だからな」
と言って剣を鞘に収め座った。
「彼女はリッチですが大切な仲間です。
彼女だけでなく俺たちの仲間に危害を加える者がいたら容赦しませんから。
他の仲間も俺と同じ思いでいますから」
「あと、商業ギルドとしても碧さんの肩を持ちますので」
とネーナさんが味方をしてくれた。
「すまん、本当に悪かった。俺が詫びる。
知っていると思うがハルフェルナにとってリッチは脅威の対象でしか無いからな」
と言ってドリスタンは頭を下げた。
「みなさんは何故ガルメニアから出れたのですか?多大な犠牲を払う召喚者をそう簡単に手放すとは思えませんけど」
ネーナさんが話題を変えるために話し出した。
やはり、気が聞く優しい人だ。
「俺たちは使い物にならないと思われ追い出されたんですよ。
俺はキッチンセット、聖女も姫騎士も魔法少女も男がなってしまったのでステータスが使い物にならないほど低かったんですよ」
「フェルナンド王らしいな」
「ドリスタンさんはご存知なのですか?」
「あぁ。冒険者になる前はガルメニアの騎士団に所属していたんだよ。
あの王は強欲な上、独善的だろ。
冒険者気質の俺なんかが要られる分けないだろ」
と肩をすくめて言った。
と、そのとき町の北側から凄い爆発音と共に辺りが昼間と思えるほどの火柱が上がった。
アルファポリス
https://www.alphapolis.co.jp/novel/815678814/835323125
カクヨム
https://kakuyomu.jp/works/1177354054892564964
で先行公開しています。




