一章 彼らのセイギ その2
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なぜこんな状況になったのか。
気づいたら中学生くらいの女の子と、仕切られた部屋で二人きりだ。
あの後のことは覚えておらず、気づいたらサイドテールの少女と受付の女性が何やら言い合いを始めていて、呆然とそれを見ていたら部屋に案内された。
僕は何が起こっているかわからず、されるがままにこの会議室のような部屋に連れてこられ、それで今に至るのだが……。
「はい、どうぞ」
椅子に座らされた僕の目の前に用意されたのは、紙コップに入ったコーヒーだった。
会釈すると、彼女は少し微笑んで自分のコーヒーを持ち、僕の向かい側の席に座った。
「じゃあ、面接を始めようか」
少女がそういうと、目の前に書類のようなものを出して、何やら書き始めた。
僕は固唾をのんでそれを見守る。そして彼女の言葉を待つ。
僕にはそれしかできないのだ。
なんとかこの少女に命を助けられるような形になったが、それは一時的なものであって、僕への脅威が去ったわけではない。
「あのさ、そんなに固くならなくてもいいよ! 取って食おうってわけじゃないんだし」
なぜかこの少女は、自分のほうが立場が上なのにおろおろしている。自分より背の小さい少女が慌てているのを見ると、なんだか懐かしく思えてきて、少しにやけてしまった。
懐かしく……?
「もう、笑わないでよ! 今から大事な話をするんだから!」
少女は頬を膨らませて僕を糾弾した。
「大事な話……?」
僕がオウム返しのようにつぶやくと、少女は真剣なまなざしで僕を見た。
「いい?君に与えられた選択肢は二つ。一つは君も組織に加担すること。もう一つは措置を受けること」
彼女の幼い容姿からでもその措置が含む言葉の意味は重かった。
「措置を受けたらどうなるんですか?」
僕は耐えきれず、そのことが意味する暗喩について聞いた。
「大丈夫。何とか上に掛け合って、君には何も手は出させない。絶対守ってみせる」
それは覚悟を決めているかのような顔だった。生命を脅かせるような状況にあまり陥ったことのない僕でもわかる。いくつもの死線を潜り抜けてきたような、僕の想像を超えてしまうかのような厚み。
ただ僕はその表情を見てある一つのことだけを感じていた。
どうしてこんなにも小さい少女がそんな顔ができるのか――――。
「その心配はないないよ」
気がつけば声に出ていた。
なぜこんなに小さな少女がそんな覚悟を決めなければならないのか。
なぜ僕のような空っぽな人間がのうのうと暮らしているのか。
この世界にもしも僕が何かできるなら、僕の選択は決まっている。
「―――――――」
その言葉を聞いた彼女は優しく微笑んだ。
「ふあ~、緊張した~」
彼女は面接が終わったその瞬間にふやけたような顔をした。
「なんか拍子抜けしたよ。一時は死ぬかと思ったし」
僕がそうぼやくと、彼女は渋そうな顔をした。
「案外、そうだったかもね。栗林さん怖いから……」
全く笑えなかった。おそらく僕の人生の中で一番生命を脅かされた瞬間だったと思う。
「で、名前、なんていうの?」
少女がコーヒーをすすりながら聞いてきた。
「え?」
「これから同じ職場で働くんだから、聞かなきゃダメでしょ?」
確かにその通りだが、普通だったら面接の途中で聞くものではないか。
やはり、こんなに小さな女の子にやらせていい仕事ではないと思う。
「安倉 幸。高校生だよ」
自分の自己紹介を簡単に済ませる。
「安倉くんね。私は臼井 透。苗字はあまり好きじゃないから名前で呼んでね?」
少女は微笑みながら僕に向かって手を差し出した。僕はその意図をくみ取り、彼女の手を握り握手した。
彼女の手は驚くほど小さく、それでもほんのり暖かかった。
「透ちゃん」
「へぐっ」
僕が透を名前で呼ぶと、変な声で咳きこんだ。
「年下と言えど、上司だからまずかった?」
透の思わぬ反応に動揺してしまって、心の声が漏れてしまった。
すると、透はこちらをジトっとした目で睨んだ。
「私は大学生よ。これでも年上。これには深い訳があるの」
「え!?」
自分でも驚くくらいの大きな声が出た。それでも、これまでの態度から納得できるものがある。道理で彼女は僕に対してタメ口で話してたり、気を使ったりしていたわけだ。
それでも、頬を膨らませながら抗議してくる彼女を見ていると、背伸びしている小学生を見てるようで、微笑ましかった。
「すみません」
「いいよ、謝らなくても。よく間違われるから。子供料金とかね……」
声の調子とは裏腹に顔はものすごく引きつていた。
「透さんって呼んだ方がいいですかね……」
僕がそういうと、透はうぅんとうなった。
「なんかしっくりこないなぁ。なんならいっそ、お、お、透おね……」
ゴウン。
透がなにやら言いよどんでいると、なにやら大きな音が聞こえ、けたたましくサイレンが鳴り響いた。
「え?透さん、これは!?」
「もう!バッドタイミング!」
透さんが叫びながら机をたたいた。一体彼女は何と言おうとしていたかが気になるところだが、今はサイレンの方が重要だ。
「安倉君はまっすぐ家に帰って! 間違っても南町の方に来ちゃだめだからね!」
「え?でも」
そう言いかけて僕は気づいた。
僕に一体何ができるのか?きっと、『南町に近づくくな』というのは、危険が迫っているからだろう。
「私たちに協力してくれるのは嬉しいい。でもね、君が傷つくのはそれ以上に悲しいんだよ」
透がまたあの顔をしている。
透はこのような局面をいくつも潜り抜けてきたに違いない。それでも、なぜか透がどこかへ行ってしまいそうな気がした。
「待ってください! 僕もつれてってください!」
考えるよりも口が先に動いていた。
「それはできないよ……」
「なんで……」
「君を守り切れる自信がないから。それに私たちは君を戦闘員にしたいわけじゃない」
「へ……? 戦闘?」
思いもよらない言葉に僕の勢いはそがれてしまった。戦闘といった字彼女の言葉が全く想像できない。
「ね? だから。今日は早く帰ること」
その時、電話がけたたましくなり始めた。
全く違和感を感じさせない流れで透が受話器を持ち上げる。
「はい。え!?私は反対です!そうですけど……。わかりました」
受話器を置くと、彼女は僕を見据えてこういったのだ。
「上からの命令で君を連れていくことになった」
m(_ _)m