餅
じわじわと書き溜め消化していこうと思います。
会話を止めて見れば、残った岩をせっせと運び出す若衆の横。崖の崩落でぽっかりと空いた横穴。元からそこにあったのだろうか?
寂れた祭壇のようなモノが露出していた。苔むした廟のようにも見える。
「何だか見るからに嫌な気配ね、どうしましょう? 前からあったのかしらねぇ……」
考え深げにギヌシャは腕組みをする。魔術師なりに思うところがあるのだろうか?
俺様には全く何も感じ取れないが、確かに古い空気の匂いというか。臭。
「触らぬ何とやらという言葉もありますし、軽く清掃とお供えだけしておきますか? 教会の人間なら何か知っているかもしれない」
「えー、やめようよ兄貴。逆に呪われそうだし……」
「そうね、魔力の残滓こそ感じないけれど法力に似たものは感じるわ。何が祭られているとも知れないもの? 組合に報告だけはしておきましょうか? 団長」
魔力とほうりきの違いが分からないのだが、ううむ。あれか、教会と魔術教会は仲が悪いと流れの神官が教えてくれたが、それにまつわるのか?
「そうだな。我々が受けた依頼は瓦礫の撤去と周囲の魔物の掃討だ。専門外のことには首を突っ込まないほうが良いだろう。冒険者家業という年齢でもない」
それに、厄介ごとに巻き込まれるのはもう沢山だ。と、パウド団長は遠い目をして呟いた。まるで幾度も繰り返してきたかのように。それはさておき、
「よし、じゃあスペシャルグレートな俺様がお供えをしてやろう」
「え、今の話聞いてたか? おい。セツギ止めろって」
「まあ待て、俺様に任せろ。俺様は厄介ごとには飛び込みそれを食い破るタイプ。引退間際の中年とは違うのだ。見ていろよ」
懐からごそごそと取り出すのは非常食にとっておいた糧食。平たく丸い乾いた餅を草で包んだものだ。ちなみに餅は遥か昔に勇者が広めたものの一つ。水やお湯にふやかして食べてもいいし、そのまま齧ってじっくり咀嚼するのも良い。
ほんのりと甘味が残っていて小腹が空いた時に丁度良い、菓子の代わりだな。
「餅よ、スペシャルグレートな俺様に加護を授けたまえ」
何となくそれっぽいことを言って祭壇の中央、丁度丸い窪みがあったのでそこに置く。
すると指先に走る違和感。一瞬のことだが冬場に金属へと近づければ迸るあれに似た感覚。みれば、指の腹が薄く裂け、ぽたりぽたりと血の雫が餅に落ちていた。
おお餅よ、赤餅にジョブチェンジする気か。
「ほら、言わんこっちゃないわ。憑かれる前に早々に教会へ行きなさいな? 前途多難ねぇ……」
呆れたような声音。ふん、この程度かすり傷にもならんわ。
「ギヌシャとかいったな、でかぱい魔女。俺様はスペシャルグレートな男。血の契約により加護を授かったのだ! 多分!」
「でかぱっ……団長。こいつ追い出しましょう?」
口から出まかせを言っておくが多分そういうことなのだろう。
さっぱり何も感じ取れないけど。
「うるさいよ馬鹿。ほら、さっさと教会に行くぞ。性質の悪いのに憑かれてたら本当に大変なんだからな……ああもう、給金から差っ引いて置くからな! ギヌシャさん、すみません。多分悪い奴じゃないと思うんですけど、本当に申し訳ない」
ぐい、と腕を引かれてアルカに引っ張られる。横からお前も謝れ、と言われ渋々頭を下げるが事実は事実だろう? 苦笑いというか、若衆は素知らぬフリをしているが、多分今この場に居る男達は皆思っていたことだ。俺様が代弁してやったのだ。
パウド団長は長い嘆息を漏らし、手を振って教会へ行くことを承諾した様子。
粛々と撤去作業を行うのを後にアルカに連れられて教会とやらへ赴くこととなった。