魔力は不万能
見ればギヌシャが俺達が放ったのと同じような岩へ向かい合っている。
真剣な眼差しは岩を貫かんばかり。前かがみになった体勢に、周囲の若衆の視線も貫かんばかりだ。というかちょっと必死過ぎて引くんだが。
「っは、ぁ! はー……見てる? 見てるわよね! 私にだって出来るのだからねぇ…全く苦労を掛けさせないで頂戴」
両手を前に突き出したまま、ぷるぷると震わせ前かがみの状態から体を起こしていく。
つぅ、と汗が伝いながら、ギヌシャの前で僅かばかりに浮いた巨岩。
浮遊する位置が上下に変化する度、その表情が苦し気に変化する。若衆の一人がごくりと喉を鳴らした気がした。色々と危ないだろうに、と声を掛ける間もなく、破ァッ! と崖下へと岩は放たれた。
というよりも宙に浮かせたまま、崖際から自由落下していったように見える。
「で、出来るじゃないですか。ギヌシャさんも」
引き気味だったのはアルカも同じだった様子。だって大分辛そうだしな。
「出来ないとは言ってないわよ、疲れるから嫌なだけ! 本当に……、もう。仕方ないわ。あー……残りは貴方達で出来るわよね? 魔術なんて万能じゃないのだから」
そう言って若衆に向き直ると汗を拭って、再び傍らの平岩の上に腰掛ける。
ぱたぱたと手扇を翳しながら強い眼差しを送れば、周囲が騒がしく動き始めた。
「うむ。ご苦労だったな。これで分かっただろう? 新入りよ。あまり出過ぎた真似をするな。お前は特別でもましてや勇者特性でも無い。指示に従わなかったり使えないと俺が判断したら、そこで故郷に帰って貰う。当然退職金など期待するな? 何処の村の生まれかは知らないが、大人しく畑でも耕して平和に暮らせ。そして幸せになれ」
ブエナ村出身のスペシャルグレートな俺様は、狩りの方が得意だぞ。伐採は無論。
「まあまあ団長。せっかくの松持ちなんですから、磨いたり育てたりしたらそれなりには……」
「そんな暇があれば良いんだが、な? 組合からもきな臭い情報が流れていることだ。
まあその辺りはお前が拾ったのだから面倒を見ろ。何かしでかすようなら、衛兵に突き出すのも――」
「ちょっと叔父さん! そこまで言わなくて良いんじゃないの? 何だか力だけはあるんだから、こーいう仕事の時には役立つでしょう?」
「う、……リンカか。叔父さんは止せ。団長と呼ぶんだ」
意外なことにあのちんちくりん娘が擁護してくれている。やはり言うよりも力で見せる方が効果的なようだな。
思えばブエナ村で親父無しの単独での狩りだった時も、長老達や幼馴染連中から止められ心配されたものだ。結果として、その日はたまたま親父よりも大きな魔物を狩ることが出来て評価が一変した。力は正義。
「ねえ、そこの新人君のことは置いておいて。それ、何かしら?」