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チュートリアル?

 そして現在、

「だから、もう1度話すぞぉ、良く聞けよ。寝ずに、うぉら!」

スコンという音と共に頭が叩かれる。駄目だ、智慧を引き出すのは楽しいが人の話は眠くなる何故か。ううむ。パウド傭兵団の本拠地、その2階の丸机に頬を伏せた。

手前には資料の束とコーヒーの入った飲みかけのコップが1杯。

「お前人がせっかく講義してやってるのに寝てんなよ。というか! 1対1で寝るとかどういう神経してんだよ」

アルカは木の平棒を肩に据えながら言い放つ。眠いものは眠いのだ。

「知らん。思うに話し方が悪いのではないか? もっと俺様を愉しませろ。ほれ」

「ぶっ飛ばすぞ。ったく……」

嘆息交じりに頭を抱えている。うーむ、ほんの少し悪い気がしてきた。だが、本当に眠くなる内容なのだ。知っていて損は無いのだろうが。

 何せアルカは馬鹿丁寧に世界の興りから古代、中世、近代までの歴史だとか。

英雄の誰それが何処何処の戦いで寡兵にて勝ったとか。

国同士の一騎打ちで結ばれた友情があっただとか……。

英雄叙事詩ばかり聞かされてもだな。

「そこじゃあないのだ! 俺様が聞きたいのは、こう。もっと身になるというか。仕事の内容を教えろ」

「馬鹿野郎、これから傭兵をやる奴がこれくらいの基礎知識もなく、戦場はおろか魔物狩りになんて連れていけるわけがねえだろうが! 分かれ! この想い!」

いや全然分からんぞ。英雄叙事詩と魔物狩りの関連性が。待てよ。

もしかして戦い方のヒントになったりするのか。きっとそうだな。うむ。聞いてみよう。

「で、だな。この伏兵の使い方が分水嶺だったと俺は思うんだよ。お前もそう思うだろ、な?」

いや全然ダメだ。大軍での戦い方を聞いても役立つのはもっと先の話。

というか! それ軍師が分かってなきゃいけないやつ!

「分かった。歴史は分かった。首都での生活で必要なことを教えろ。英雄も身近なことからこつこつと、積み上げていくとか何とか。俺様はそう思う、アルカはどうだ」

「お、いいこと言うねえ。じゃあまずは田舎もんのセツギに必要な常識を教えてやろう。それは、貴族と異人には逆らわないってことだ。自覚が無いだろうけど、お前の口調はかなりまずい。自分でまずいって思えてないところがまずいな。俺達が仕事で話してる時は、しばらく黙って口調だけ覚えるようにしろよ? でないとすぐ牢屋行になりかねんぞ」

「ほう……俺様を牢屋に引っ立てられるなら、してみせろと言いたいな!」

「いや、だからそれね。頼むから大人しくしててな。あとはー……金銭感覚が田舎もんは全く無いからな。それくらいか? 飯を食うだけなら1日200ゴルドもあれば足りるだろ。1000ゴルドが金貨1枚、100ゴルドが銀貨1枚、10ゴルドが銅貨1枚、んで1ゴルドが錫貨1枚だ」

そう言いながら金貨、銀貨、銅貨、錫貨を机の上に並べられる。金の価値は今いち分からんが、ぴかぴかしている順に高いということだろう。銀貨2枚で1日食いつなげるということか。こんなもんが食い物に変わるとは考えてみれば不思議な話よ。

「ああ、それとお前が持ってきた魔石は換金しておいたから。あとで確認しておけよ。手数料はちょろっと貰ったが、まあしばらくは食うに困らないだろう。それで装備を揃えたら良いさ。あんななまくらな斧一本じゃすぐに折れちまうぞ?」

「いや、1番馴染んだモノだから問題無い。むしろあれが1番だな」

「いや、伐採用の使い古しでろくに切れもしないものだぞ。あれ……」

それでどうやって伐っていたんだか、とアルカが頭を振って嘆く。力で振り抜いたまでよ。 それに俺様にとっては履きなれた靴同様の捨てがたいもの。数多の魔物の血を吸ってきたのだ。そのうち魔石からあふれ出た超パワーで魔斧に格上げされるに違いない。

「っただいまー! あー、疲れた」

階下から聞こえてくるそんな声。てこてこと階段を軋ませやってくるのは、

「えー、兄貴本気だったんだ。ちょっとどうかと思うけどなぁ……」

背中の弓と細身の剣を壁に建て掛け、俺様を見て微妙な表情を作る女。

女というより少女というべきだな。あらゆる部分がまだ少女だ。

蒼よりも濃く黒いに近い髪に同色の瞳。鎖帷子の覗く外套を脱ぎ捨てれば、なめし皮の装束が現れ。首元を隠す薄桃色の布が印象的だった。

「こらリンカ。これから俺達のツレになる奴だぞ? どうかは無いだろう、どうかは」

「いや、だって、あり得ないじゃん? 俺様がここの頭になってやる光栄に思え。ガハハーとか言っちゃう人だよ? 丁重にお断りしたいよ、私は」

その結果、負けたから余計に気が重い。

しかし俺様は過去を振り返らない男。そして不屈の男なのだ。

「ふっ……これだからちんちくりんは」

「ふっ……これだからダサ男は」

俺様と全く同じ動作で言葉を返してくるリンカ。

「何だと貴様! 今俺様をダサ男と呼んだか!」

「だって田舎くさくてだっさいんだもん。ね、兄貴ー?」

「顔は普通だと思うけどなぁ」

素で返すな、素で。

「ところで依頼はどうだった? 団長達は一緒じゃなかったのか?」

「叔父さ――団長達? 多分まだ現場にいるんじゃないかな?」

「現場? 山場でも職場でも戦場でもないのか? アルカ達は傭兵だろ?」

「いつの時代の話してんだよ、セツギよぉ。不景気の昨今、何でもしないと食っていけないのがこの業界、この職種だろ? 傭兵が傭兵らしく食っていけたのは何十年も前の話。

食い詰め者のごく潰しが『冒険者』なんて囃し立てられたのも遥か前のことだ。今じゃ複数の組合が合併して職人組合になってるくらいだぞ? ま、ここ数年に限ってはまた魔物が出始めてるから需要増ってとこか」

遠い目をしながらそんな風に言われましても。

というかお前その時代知らないはずだろうが。しかし、俺様が想像していたのと何か違うぞ? スペシャルグレートな選ばれた異人が世界を左右したりすんごいことをやるんじゃないのか? 英雄として成り上がるんじゃないのか?

「日々慎ましく暮らしていければそれで充分だよね~」

明るく夢の無いことをリンカが言った。やはり駄目だな。

このスペシャルグレートな俺様が、天井の見えかかっているこいつらを引き上げてやらねば。そう、何かは分からないがとんでもないことをしてやらねばならんのだ!

俺様はやるぜ! 何かを!

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