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看板破り

第一章


 この世界で平民が成り上がるには二つ方法があると聞いた。

一つ、貴族への嫁入りもしくは婿入り。

二つ、戦で戦功を立てること。

前者は俺様にはとても無理だと思った。というより回りくどい。媚びるってのも癪だ。俺様はこの力で成り上がってやると決めたのだ。

顔が悪いとかではない。悪いと言われたことはない。けど、比較対象が居ないから何ともな……まあ良いのだ。

 異人はそういった宿命の元に生まれていると聞いたしな。異人というのが嘘だったが。

とにかく、俺様のようなスペシャルグレートな男が1木こりで生涯を終えるはずが無い。

ではどうすれば戦功が立てられるのか? かつ、存分に力を振るえるかを考えた。

国から度々配布されるお触れ(鳩によって届けられる上質な紙束。村の掲示板に張り出される)によれば、戦争よりも魔物に対する戦功を取り立てることが多くなっていると聞いていた。

だから、魔物相手に立ち回れば注目されて自然と取り立てられると考えた。

魔物が出るのは大抵深い森や山、洞穴、沼といった人気の無い処が多い。

 ちなみにそういった情報は村外れの鉱山から時々発掘される、魔鉱石から引き出した。どういう仕組みか、いつからあるのか、天然のものなのかは知らないが、手をかざして強く想えば頭に自然と浮かぶ文字や図面の知識の集合体。それが智慧だ。

 役に立たないのとか何のことかさっぱり分からないものも多いが。

引き出すことが出来るのは異人かその末裔か、貴族くらいのものと長老に聞かされた。

何度も引き出すうちに文字の読み書きもほとんどそれで見て書いて覚えたのだ。

 話は戻って、村の近くを通る山道では、魔物に襲われる旅人や荷馬車が増えていたので、その魔物を先に片付けた。商売道具の斧と満載になった荷袋を背負い、旅人のフリをして日暮れの山道で狩って回っていたのだ。

 俺様くらいになれば斧を振り回したり殴りかかっているだけで、大抵の魔物の相手は出来た。時々怪我をして帰りもしたが、それも狩り方に慣れていくうちに減っていった。一晩寝れば大抵の傷は塞がったし、村で取れる薬草は体に良く馴染んだからかもしれない。思えばブエナ村で重たい病気に掛かる奴もいなかった気がするな。

 とにかく、そんな大活躍をしていたのだが誰も注目するどころか、戦功を取り立てる奴もいなかった。当然だ。誰も見ていないのだから。

 それに気付いたのは旅の神官がブエナ村に訪れた時だ。

『いやいや、そういう年頃なのは分かりますが、ね。申告しないと認められませんよ』

 てっきり魔物の数や討伐なんてのは魔術で国が感知しているものだと思っていた。

それらは全て申告制で、結晶化した魔石を元にカウントするのだと教わった。

知らなかったぁ……。それからは今まで捨てていた魔石を溜め込んで、保管するようになった。純度や大きさ、色合いによっては高く買い取って貰えるとも聞いたからだ。

何か色々と用途があると言っていたが多すぎて覚えていない。

 旅の神官は魔石を見ても俺様が倒したといっても信じなかったが、興味があるなら首都へ行ったらどうかと言った。その時は親父には反対されたが、いつものように俺様は押し切った。

何が首都で役に立つかも分からないので、魔石と食料を荷袋一杯に担ぎ。手に良く馴染んだ斧を一丁。麻の服に上下の毛皮。それに毛皮のブーツの完全装備で村を出た。

見送りには幼馴染連中と長老達は来てくれたが、親父は結局来なかったな。

 そうして辿り着いた首都の城壁は俺様の人生で見た、一番でかい建物だった。右を見ても左を見ても端が分からない程の。身分証か行商手形の提示を求められたが、俺様が持っているはずもない。行商とレベルアップの為に長老達は持っていたらしいが、借りられるはずもなかった。思うに親父も追い返されるのが関の山と踏んでたんじゃないか? しかしスペシャルグレートな俺様がそこで諦めるはずもない。

 担いでいた荷袋から魔石を取り出して見せてやったら、門番達の顔色が変わった。

詳しく話を聞かせろ、怪しい奴め! と言いながらこそこそ連絡用の馬を繋ぎ止めてある厩舎まで案内され、濃いめのお茶とクッキーを出されて交渉が始まった。

魔物を倒したらいくらでも手に入る魔石なんぞ惜しくもないので、半分程くれてやったのだが、やけに嬉しそうな顔をしていたな。

ついでにクッキーは滅多に食べられないものなので美味かった。他にどうやって魔石を手に入れたとか、何処に落ちていたとか。

煩いことを言いだしたので入れるか入れないかはっきりしろと話した。

 結果として、仮の観光通行証とやらを渡された。金で無理くり門を通る時に配られるものらしい。滞在期間も決められているものだから、長期滞在するなら役所へ行けと言われた。

役所が何か分からなかったので、問い質したら街の相談所。連絡所のようなところだと言われた。首都の長老でもそこに居るのだと踏んで、俺様は町中を歩きだした。

 ブエナ村の建物とはどこもかしこも違っていた。窓は透明なガラスで仕切られているいるし、藁葺の屋根は数が少ない。煙突から抜ける煙で噎せてしまいそうなくらいだった。道の中央を歩いていたら馬車の御者にどなられ、行き交う人の身なりまで何で作られてるのだか分からない。全体的に言えばつるっとすべっとしていそうだ。

多分、絹? とかそういった物なのじゃあないか? と思った。金持ちの集まりなのだ。

 役所とやらの方角が分からなかったので、道を尋ねようとすると誰も止まりもしない。腹は立ったが、首都はそういうものだという噂も聞いていた。

諦めて、でかい建物を目指そうとした矢先に気になる建物と木看板が目に入った。


 来たれ若人、パウド傭兵団。

 住込、日払い可、基本給 月 10000ゴルド+歩合

 3食昼寝付き(有事除く) 未経験者歓迎

 *入団試験有、笑顔溢れるアットホームな傭兵団です。


ここ、これだぁ! 親父の言葉がその時脳裏をよぎった。

『良いかぁ、職探しに必要な条件は住込、日払い、3食昼寝付きだ! 他の条件なんか目もくれるな。どうせ似たり寄ったりだ! 無い頭で考えるな、セツギィ! 後なるべく早く帰ってこいよぉ!』

だが、良いのか? 俺様のようなスペシャルグレートな男が普通に入団試験とやらを受けるだけで。駄目だな。うむ、絶対にダメ。普通では駄目なのだ。

何故なら俺様はスペシャルグレートな男。異人としてやがては歴史に名を残す。

英雄となるべき男なのだからな! うむ、そうだな! とその時は思っていた。

そして思いついたのが看板破り。智慧から引き出した行為の一つ。

集団の1番偉くて強いやつを力でねじ伏せて乗っ取る方法だったのだ。


―――結果、1番強くも偉くも無いアルカに手も足も出ずに負けた。

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