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終呪

作者: 東城薫

「カチッ、カチッ、カチッ」

時間の流れが止まっているのだと錯覚を起こしてしまいそうな静寂と夜明け前の暗闇が支配している部屋の中で、

唯一電池切れ寸前の目覚まし時計が自らの使命を果たそうとしている。

だが、一向にその秒針が進むことはなく、半秒ほど進んだと同時に元に戻ってしまう。

ベッドに横たわった虚ろな目をした青年がその時計の方向をただ見つめていた。


習慣のせいか体内時計に刻まれていたようだ。いつも起きていたであろうその時間にふと目が覚めてしまった。

上体を起こそうと体に力を入れる。しかし、全く体が動く気配がない。

いつの頃からだろう。これほどまでに体が重く感じるようになったのは。

「仕事...」


何とか口だけは動かすことができた。

仕事に行かなければならない。行かなければ職を失い故郷の家族に仕送りが滞ってしまう。

行かなければ。行かなければ。行かなければ。行かなければ。行かなければ。


再度起き上がろうと体に力を入れる。だが体を動かすことができない。

「もう何もかも投げ出したい」

限界だった。だが自分が働かなければ家族が路頭に迷うことになる。

自分はいくら傷ついてもいい。家族だけには美味しい飯を食わせてあげたい。

そう思っているからこそ、自らの感情を捨てて仕事に向かおうとする。


精神が半ば崩壊していることに青年は気付いていない。

体に力が入らないのは、仕事に向かうことに対して精神が拒んでいるからなのだが。


数分か。数十分か。それなりに時間は経過している気がする。

目を覚ましてから幾度となく起き上がろうとしていたが、全く体を動かせない。

「少し眠るしかないのか」

全く体を動かせないのも変だが、電話で誰かに連絡しようにも体が動かせないため、スマホを手に取ることができない。だから少し眠ることにした。



その青年が再び目を開けたとき、部屋は相変わらずの静寂と暗闇に支配されていた。

違うことと言えば、目覚まし時計の秒針を動かす音が聞こえなくなっていることくらいだった。

「あれ、あまり時間が経っていないのか。それとも半日ほど眠ってしまったのだろうか」

今度こそ起き上がれると思い、体に力を入れ上体を起こそうとする。


その瞬間、全身が硬直した。そして、直観的に音を立ててはならないと感じた。

部屋に何かがいる。音がする訳でもない。暗いから何かが見える訳でもない。だが感じるのだ。

確かにいる。白い服を着た長い黒髪の女がベッドの横に立って俺を見下ろしている。

顔が見えないように黒髪で顔を隠している。

何をする訳でもなく、ただ立って見下ろしているだけ。


起きていることを悟られてしまうと命が危ない。

出来るだけ呼吸音すら聞こえないように眠った振りを続ける。

どれくらいの時間が経っただろうか。

気配が消えて再び目を開けると部屋が少し明るくなっていた。


「朝か。今のは金縛りってやつかな。初めてだな」

起き上がろうと体に力を入れると、今度は難なく起き上がることができた。

気のせいか少し心が軽くなっている気がする。

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