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望月さん家の拾い猫(連載小説)  作者: 小森龍太郎
8/10

第二章 #2.ミーファ首相

 重厚な木製のドアを開けると、待ちかねたようにミーファ首相が執務室の大きな机から立ち上がった。

「お待ちしていましたわよ。ルイ君」

 彼女は彼にソファを薦めた。

「他の大臣連中はいないんですか?」

「もちろん追い出しましたわ」

「えっ…」

「この件はまだ機密事項にしています。…分かりますね?」

「…はい」

「早速報告をお願い」

 ルイは執務室の豪華なソファに座ると、ノートパソコンを取り出し、CEシステムの映像を見せながら状況を説明した。

「王女はこの住居にて彼らと過ごしていた模様です。彼女は何らかの理由もしくは現象で猫の姿となり地球へと移動した。それを保護したのがこの家の少年のようです」

「これがアース星人の住居…」

 ミーファ首相はルイにぴったりと身を寄せるようにして隣に座り、モニターに映し出される映像を興味津々に眺めていた。

「アース星人は住居を宇宙船にしてやってきた…」

「ええ」

「彼らの宇宙開発技術はそんなに進歩してますの?」

「いや、そんな事は無いはずです」

「では、アース星の研究機関とは何ら関係ないわけね?」

「そう考えます。事実、彼らはアリアスへ空間移動していた事に全く気付いていなかったのです」

「本人達は意図せずこちらへやってきたと」

「そうなりますね」

「どうやってアリアスの地へ彼らは来れたのかが最大の謎というわけね」

「はい。それとどうやって王女は猫の姿になれたのか。彼女にはまだそんな力はないはずですので」

 異星からの組織的侵入でないことに彼女は安堵していた。研究機関の計画的侵入であれば、軍事機関等に出動命令を出さなければならなくなるからだ。

「なるほど…… 面白いではありませんか」

「はい?」

「明日、私も同行させてもらおうかしら?」

「え?」

「こちらとしては、どういう状況であれ王女が戻ってきてほっとしていますの。王も気が気ではありませんでしたからね」

「え、ええ」

「私も研究所の不手際なんて全く考えておりません。それに国家機関でもあるあなたの研究所を管理しているのはこちらですからね。寧ろ私の責任という事になります」

 ミーファ首相はルイの膝の上に手を置き意味深に言った。

「王を説得するのは大変でしたわ」

「申し訳ありません」

「いいのよ、別に」

 刹那、彼女の顔が近づいた。

 被験者を失踪させてしまったのは、彼の唯一の誤算であった。それは紛れもなく責任者であるルイの不手際であることに間違いない。今回の件で研究所の管理体制の甘さを自身は認識していた。そして彼のもうひとつの誤算は、首相が女である事だった。彼女はこの国を代表するには申し分ない程、有能な人間であることに間違いはない。常に民の事を念頭においた政策を練り、国民の支持率も高い。頭が切れ、的確な指示と冷静な判断で物事を捉えたその思想と姿勢で政党内でも評判は上々だ。その上とてつもなく美人ときている。

「逢いたかった…」

 彼女は甘えた声で言うとルイのネクタイを緩め、口づけをせがんだ。所詮女なんてこんなものだと、彼は冷静な目でこの国を代表する女の髪を撫でる。仄かに香るシャンプーの香りが、彼女の清楚さと美しさを一層際立たせていた。


 翌日、ルイはミーファ首相を乗せて、グララアイへと向かった。

「いいんですか? 俺なんかと出向いて」

 ハンドルを握りながら隣に居る首相に言った。

「あら、これだって立派な公務よ」

 そういうと彼女は煙草をくわえた。ルイはすかさず親指から火を差し出した。

「そういえばルイ君は特級魔術師だったわね」

「その君付けはやめてください」

「別にいいじゃない。それとも呼び捨てがいいかしら?」

 彼女は無邪気に笑いながら、久々のドライブを満喫しているようだった。確かに公務には違いない。公務と言う名の逢引だ。

「いい車に乗ってるのね」

「お蔭様で」

「でもこの髪の毛は誰のかしら?」

 助手席のどこかについていたのだろう、一本の長い髪を摘みあげた彼女がルイに問いただす。

「嫌いになりました?」

「全然?」

「大した女性ひとだ」

「私はね、自分から好きになった人はそうすぐには嫌いになれないの」

「俺なんかに惚れても何もいいことはありませんよ」

「そんなことないわ。ルイ君には分からないかも知れないけどね」

「旦那さんとは惚れて結婚したわけじゃないんですか」

「ルイ君、そういうのを何ていうか知ってる? 愚問っていうの」

「はいはい、失礼致しました。以後気をつけます首相殿」

「よろしい」

 そういって彼女は嬉しそうに笑う。ルイは改めて隣に座っている女性を見た。そこにいるのは一国を指揮する大臣の姿ではなく、純粋に恋をしている一人の女性の姿そのものだった。

 

(つづく)

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