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相方が風邪を引きまして(前編)

『フェイ』

魔法を操り、薬学や宝石に関して豊富な知識を持った妖精。魔法使いや魔術師、魔女と呼称した方がわかりやすいかもしれないが、これらは魔法を使う者全般(人間、妖精、モンスター含む)を呼ぶ場合があるため、この作品では知識人で魔法を使う妖精のみを『フェイ』と呼称する。


『フェイ』はその持ち前の知識と魔法で莫大な富を持ち、また魔法の力で永遠の若さと美貌を保つ事が出来ると伝えられている。


つまりロリっ子の『フェイ』がいたらそれは合法ロリであり又永遠にロリであるという至高の存在であるともいえる。


『フェイ』という言葉自体馴染みが無く、また文献もそこまで多くは無い。wikiすら作られていないどころかGoogle先生にも引っかからない。(平成二十七年現在)


少ない文献によると、上記の特徴に加えてこの世とは違う世界にある森に存在する泉の近くで暮らしており、人には見えない。


寓話では、アーサー王伝説に出てくるモーガン、シンデレラにかぼちゃの馬車を与える魔女の老婆も『フェイ』のひとりであるとされている。


永遠の若さを保てるのに何故老婆なのかは不明だ。単に姿を変えていただけなのか、はたまたババ専の男が好みなのか。


今回の話は、散々『フェイ』を自称してきたお馬鹿娘のアヴェリウス・ライアススリーことアヴィーが主人公のお話です。


――――――――――――――――――――


桧山椋一が管理人になって十日が経った。仕事にも慣れ始め、ボチボチと異界人が訪れる数も増えてきた。


今日は訪れる異界人はいないため仕事は休みだ。思えば丸一日休みになるのは初めての事だ。


管理人に休日は基本無い、異界人が訪れた時だけ管理業務をすればいいのでそれ以外の時間は適当に過ごしていればいいのだ。


一度の仕事に一時間も掛からないので実質毎日が休日だ。ただ、ほぼ毎日異界に戻る異界人が現れるので森に拘束されてしまうのが難点だ。


月に三、四回、定期メンテで異界の扉が閉じられる日がある。その日は一切の業務が無いため休日と定められている。


そんな初めての休日の朝、森の奥のせせらぐ渓流の川原にて一匹の芋虫が起き上がった。


寝袋を被ったアヴィーである。


「ブェェェックションッ!」


鼻水を飛ばしながら叫んだくしゃみは、澄んだ音をたてて水辺に反響した。


赤みがかった綺麗な茶色の髪は、朝露でしっとりと濡れたおかげで言葉で表現するには難しいキュビスム的な寝癖が出来上がっている。


目は寝起きでトロンと垂れ、目ヤニが貼り付いて若干開けづらい。


アヴィーは手元に置いてあるリュックサックからポケットティッシュを取り出して鼻をかんだ。


続いてアヴィーは寝袋から這い出て立ち上がり川で顔を洗う。


バシャバシャと冷たい水を浴びた後、今度は川に頭を突っ込んだ。十秒かからないうちに頭を上げる。


「ぷはぁっ……スッキリ爽快です!」


続いてアヴィーはリュックサックから大きめのスタンドミラーを取り出して近くの平たい石の上に乗せる。


「ほいっほいっと」


アヴィーは軽く頭で念じる。すると右手から直径十五センチの赤い火の玉が、左手からは同じく直径十五センチの透明の玉が現れた。


透明と言ってもよくよく観察すれば玉の中の空間は歪んでいる事がわかる。


それらの玉はアヴィーの手を離れ中空に静止する。手前に火の玉奥に透明の玉が並ぶ。


すると程なくしてアヴィーの頭部に心地よい温風が吹きかかった。風は透明な玉から出ている。透明の玉は風の玉、火の玉を間に通して温風を作り出しているのだ。


魔法のドライヤーで髪を乾かした後、昨夜の内に用意しておいた薪窯に炭を置き、炭を囲むように湿気の無い枯れ木を設置、続いて新聞紙を投入。火の玉を新聞紙の上に乗せてそのまま着火、時折風の玉を使って酸素を送り込み火力を安定させる。


頃合を見てアヴィーは川に手を入れて何かのベルトを掴んだ。


ハンドバック程の大きさのクーラーボックスだ。中には昨夜釣り上げて内臓を取り出して塩漬けにした岩魚が入っている。


川の水を冷蔵庫代わりに使ったという事だ。


アヴィーは魚を薪窯で焼いて食べる。塩が効きすぎたか少ししょっぱい。だが身はぷりっとしてて柔らかく、魚肉から滲む脂が味に深みを与えてくれている。


「おいひいれふぅ~」


食事が終わり、諸々の片付けを終わらせて服を着替える。


黒のマウンテンパーカーにグレーのボトムス、アヴィーは可愛い服よりこういう男物のファッションを好む傾向がある。もちろん可愛い服も好きだが。


着替え終わったら荷造りをする。忘れ物やゴミの回収忘れは無いかと確認してリュックサックを背負った。


「よしっ、行きますか!」


掛け声一つ出してアヴィーは川沿いに歩いて森を歩く、その先には未だに寝ているだろう仕事上のパートナーがいる。


これはとある休日の朝の出来事、アヴィーの休日はまだ始まったばかりだ。


――――――――――――――――――――


桧山椋一宅 朝七時三十五分


アヴィーは桧山宅のドアノックを二回叩いた。

程なくしてテトテトと可愛らしい足音が聞こえる。


これはコボちゃんですね。


ガチャとノブが回され扉が手前(外側)に開かれる。内側のノブにはコボちゃんがぶら下がっていた。

背が低いため足がつかないからだ。ある程度開いたとこでコボちゃんは床に降りた。


岩のような肌にアンバランスな頭部、そして子供のような小さい体型は人によっては可愛いと思えるものだった。


「おはようございますコボちゃん」


「コボ」


コボちゃんは片手をビシッと掲げた。ついでに「ビシッ」という文字が指先から出現して程なく消えた。


「椋一さんは起きてますか?」


「コボ、コボコボ……コボ~」


「えっ! 椋一さん風邪ひいたんですか?」


「コボ、コボ~」


「そうですか、それでは今日のお出掛けは中止ですね」


本来今日は椋一とアヴィーとコボちゃん、他二名と街へ出掛ける予定だった。


そのために異界に帰らず森で野宿していた。定期メンテが始まると扉が使えなくなって行き来が出来なくなるから。


「様子を見に行っても大丈夫ですか?」


「コボ」


コボちゃんは首を縦に振った。

コボちゃんに連れられるまま家の中を進む、そして家で一番大きな部屋で立ち止まった。


ここが椋一さんの部屋ですか、はっ! そういえば私男性の部屋に入るの始めてです! 緊張しますね。


と内心ドキドキしながらドアノブを回してゆっくり開ける。一メートル開いたとこでコボちゃんが隙間からスィーと入っていった。


「あっ」


慌ててアヴィーも中に入る。後ろ手でドアを閉めて中をじっくり見回す。

広さは二十畳ぐらいあるだろうか、日の当たらない壁にはビッシリと本棚と五段ラックが並べられ、一つしか無い窓際には木製の机が置かれている。


本棚にはまだ空きがある、これから増やすつもりなのだろう。見たところ漫画が多い。


ラックには五段全てに人形が置いてある。


(お人形さんが一杯、怪獣さんにこっちは椋一さんが以前見ていたヒーローでこっちは……こ、これはエッチなお人形さんです! 椋一さんこういうのも好きなんですね。ホォ~)


アヴィーが際どい格好の女の子の人形をしげしげと眺めていたら、「コボ~」という非難するような声が聞こえてはっと我に帰った。


「す、すいません」


アヴィーは机の隣に設置されているベッドに近付く、そこでは椋一が頭に冷えピタを貼って寝ていた。


枕元に立つと椋一はモゾモゾと身を動かして目を開けた。起こしてしまったようだ。


「アヴィーか、悪いな見ての通りだ。今日は行けそうに無い」


椋一にいつもの力強さは無い。こうなるとアヴィーとしては少々寂しい、ボケたら力一杯突っ込んでくれる彼がこの状態だとボケる事は出来ない。


「いえ、風邪ですから仕方ないですよ。お出掛けはまた今度にしましょう」


「それなんだが、机の上にお前達の外出許可証を置いてある。俺抜きで行ってこい」


言われた通り机を見ると、成程確かにいつもの許可証が置いてある。

だが……


「それじゃ椋一さんはどうするんですか? 一人にはさせられませんよ」


「俺は……容態が安定したら歩いて病院行くよ、それまでは寝てる」


「尚更駄目です! 最寄りの病院までどれだけ距離があると思っているんですか! 約二キロですよ! 病人にそんな事はさせられません! 決めました! 今決めました!」


「な、何を?」


「コ、コボ……」


椋一とコボちゃんの顔が若干引く付いている。何か嫌な想像をしたのだろう。


「もちろん! 椋一さんの看病ですよ!」


この発言の後、椋一とコボちゃんの顔が青ざめたのは言うまでもない。

サブタイの元ネタは宇宙的なカゼの映画


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