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デイブ(後編)

「そろそろだな」


「そ、そうですね」


椋一がいるのは陽香音村を見渡せる民家の屋根、この村唯一の二階建ての家だ。

おそらく地主の家だったのだろう。


その屋根の上から椋一は双眼鏡で村を一望する。

隣のアヴィーが緊張した面持ちで杖を構えた。


「まだ動くなよアヴィー」


「だ、大丈夫です!」


「そう緊張するなよ、お前は俺の指示通りに魔法をうつだけだから。失敗しても俺のせいにすればいい」


「はい」


落ち着いたのか静かになった。

再び村を見渡す。エアレーはノッシノッシと村を歩き回っている。


「アヴィー、コボちゃんに合図を」


「はい、コボちゃんお願いします」


アヴィーは手の平に乳白濁の玉を出現させて、そこに囁くように語りかけた。

程なく「コボ」という返事が聞こえた。


乳白濁の玉は魔法で作り出した通信機、携帯を持たないコボちゃんやアキレウスと連絡を取り合うために用意してもらった。


――――――――――――――――――――


数十分前


「トラップ?」


アキレウスがマジ? ていう顔で聞いた。


「そう、獣を捕まえるならトラップを仕掛けるのがベターだろ?」


「簡単に言うけどどこにどう仕掛けるんだい?」


「仕掛けるのは村全体、高い草を編んで輪を作って足を引っ掛ける。または落とし穴に足を嵌めるとかそんな感じ」


「大掛かりですね、結構難しいですよ」


それは百も承知だ。そしてそれを可能とする方法も既に考えてある。


「安心しろアヴィー、すでに策はある」


「おお! 掠一さんが頼もしいです!」


「コボ!」


期待に満ちた目で掠一を見つめるアヴィーとコボちゃん。そのアヴィーの肩を優しく叩いて親指をグッと立てた。


「任せたアヴィー、魔法で何とかしてくれ」


「人任せですか!」


――――――――――――――――――――


というわけで現在に至る。

アヴィーは魔法を使い過ぎたせいか疲れて息切れを起こしている。


「よし、状況開始だ」


エアレーが役場前まで歩いた時、万を持してコボちゃんが草むらから飛びだしてエアレーの正面に躍り出た。


「コボ」


――――――――――――――――――――


数十分前


「コボちゃんには囮をやってもらう」


「コボ!」


コボちゃんは了解の意を表して敬礼する。同時に頭上に顔文字で敬礼も出してきた。


顔文字もだせるのか。


「具体的には走り回るだけでいい、エアレーの注意を引きつつ仕掛けた罠に誘導するんだ」


――――――――――――――――――――


現在


コボちゃんは椋一の言葉通りに陽香音村を走り回る。

エアレーは逃げるコボちゃんを執拗に追い詰める。


その逃避行は突如として一方的に終わる。

エアレーの足に編み込んだ草が絡みついたのだ。椋一が仕掛けた罠の一つだ、草を縄のように編んで仕掛け、近付いた者に絡みつくというシンプルな罠だ。


考案桧山椋一、実行アヴィー。


「止まった! 走れアキレウス!」


「私の出番がきたああああああ」


民家から弾丸のように飛び出したアキレウスは大声を上げながらエアレーに突撃する。

その手には小さな瓶が握られていた。


弾丸のように真っ直ぐ高速で走るアキレウスは二秒と経たずにエアレーに肉薄して瓶を押し付けた。


瞬間、瓶からとてつもない吸引力が発揮されエアレーがあっという間に吸い込まれてしまった。


本当にあっけなくあっという間に終わった。


「よっししゅーりょー、帰るぞおめえら!」


うーんと伸びをしながら掠一が言うが、彼の後に従うものは誰もいなかった。

全員肩で息を切らせてその場にうずくまっていたのだ。


「仕方ない、ちょっと休んでから帰るか」


こうしてエアレー騒動は膜を下ろした。

無事とは言い難く、村の半数は破壊されていた。それに仕掛けた罠の解除もしなくてはならない。

事後処理ぐらい会社に押し付けたいところだ。


後日、ネットにて陽香音村の謎の壊滅が話題になり、廃墟マニアだけでなくオカルトマニアまでもがこの廃村に立ち入る用になったらしい。


それから、今更だけども陽香音村の立ち入りは行政によって固く禁じられています。掠一達は一応許可を取って入った事をここに記しておく。

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