デイブ(前編)
「エアレー」
エアリー又はジャルとも呼ばれる。
エチオピアに生息しているといわれ、外見は山羊や牛や鹿のいずれか、馬程の大きさの黒い体に象の尾と猪の顎と牙を持っている。
プリニオスの博物誌には四十四センチメートル以上の動かせる角を持ち、戦いの時には交互に使ったり、向きを変えたりしていると記述されている。
奇異なる事物の集成にはエアレーの角は回転すると書いてある。
つまりドリル! ロマン! 夢のある生き物だ。
紋章獣としても使われる事が多いため、ヨーロッパではエアレーを型どったレリーフや彫像が散在している。
さて今回はそんなエアレーが出てくるお話です。
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た〜けや〜竿だけ〜。
竿竹屋の間延びした売り文句が遠くで聞こえる。
時刻は十八時を少し回った頃、桧山凉一は坂嶺市の西部を縦断する河川で営業しているラーメン屋に幹部と来ていた。
壮年の男性が経営している今時珍しい屋台である。
「へい! 特盛味噌チャーシュー一丁! 並味噌はもう少し待って下さいね」
「はい」
ドンブリから溢れんばかりにチャーシューを乗せたラーメンが幹部の前に出される。
幹部はそれに手をつけずに話の本題に入った。
「そろそろ仕事にも慣れたかな?」
「ええまあ、変な奴にからまれてますけど。あっ先食べてていいですよ」
「ではいただきます」
幹部はパチンと綺麗に割り箸を二つに割った。
まずは山盛りのチャーシューを片付ける。そうしないと麺が食べられない。
「へい! 並味噌一丁」
「おっ」
凉一の目の前にラーメンが置かれる。メンマが三本、チャーシューが四枚とどこにでもあるラーメンだ。
凉一は割り箸は取らずに懐からマイ箸を取り出して麺を啜り始めた。
「美味しいですね」
「そうだろう? そしてこれはビールと一緒に飲むと尚旨いんだ。ビール一丁!」
「ハイお待ち! そっちの兄ちゃんはビールいるかい?」
「ああいえ、車なんで遠慮しておきます」
今度はバスで来ようと心に誓いながらラーメンを口にする。
「話を戻すけど、凉一君にはそろそろ新しい仕事もやってもらおうと思っているんだ」
「新しい仕事ですか」
「ああ、えっとこれを」
幹部は足元の鞄から一本のUSBメモリを取り出して凉一に差し出した。
凉一はそれを受け取る。足元のリュックからノートパソコンを出して起動し、USBを差し込む。
「調査依頼……ですか」
USBに入っていたファイルには「陽香音村跡におけるエアレー調査依頼」という題名がついていた。
「うん、奈良県の大台ケ原山にあった村に、エアレーという幻獣が出現したらしいんだ。君にはそのエアレーを探して捕獲してほしいんだ」
「捕獲!? 調査じゃないんですか!?」
「捕獲も調査の一つだよ」
屁理屈だ。
「なあにアヴィー君がいれば大丈夫さ、軽い旅行みたいに思ってくれ」
「簡単に言いますけど」
ファイルに添付された写真には二メートル近い巨躯の黒い鹿が写っていた。ここまでくると牛の方がちかいかもしれない。
頭には鋭く大きな角が二本、貫かれたらひとたまりもない。
「危険手当はでるんですか?」
「もっちろんさ!」
何でそんなにいい笑顔なんだ。
というか危険手当が出るという事はそれだけ命の危険もあるというわけで。
「死んだらどうすんだこれ」
「私の方から知り合いに呼びかけて天界とかエリュシオンに送ってあげるよ」
あまり嬉しくない。
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翌朝
依頼を受けたその日のうちにアヴィーとコボちゃんに説明、翌日から早速現地入りする事が決定した。
その理由として明後日からゴールデンウィークが始まる事に起因している。
調べたところ陽香音村は廃墟マニア垂涎の地らしく、よく連休中に訪れるらしい。
大型連休に廃墟マニアが現れない筈がない。怪我人が出る前に片付けようという結論が出た。
そして早速車で移動する。
「ヘイヘイヘイ! アクセルの踏み込みが足りないんじゃないのぉ〜」
運転席の外側から窓に肘を付いたアキレウスがそんな煽り文句を言った。
アキレウスは車に乗らずに何故か走っている。本当に訳が分からない行動理念だ。
「まだ二時間は掛かりますからねえ、コボちゃんポッキー食べます?」
「コボ!」
後部座席ではアヴィーとコボちゃんがお菓子を広げている。
完全に行楽気分だ。
現在乗車しているメンバーは桧山凉一にアヴィー、それとコボちゃん。走って追い掛けているのはアキレウス。
四人でエアレー捕獲に向かう。アキレウスを呼んだのは腐っても元は英雄、戦闘になったら役に立つと判断して連れてきた。
「ハッハッハ、この僕にかかればたかが幻獣一匹チョロイものさ! イヤッハー」
不安だ、呼ばなきゃよかったかもしれない。
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大台ケ原ビジターセンターで駐車する。管理責任者に数時間車を駐車させてもらう許可を得て山に入る。
そこから獣道を歩く事二時間、目的の陽香音村跡に辿りついた。
「疲れた、マジで疲れた」
「三時間運転してからの山道二時間ですからね」
近くの岩に腰を降ろす。足はすでに子鹿の如くブルブル震えている。
もう歩けない、歩きたくない。
「コボ? コボ」
コボちゃんが心配してか凉一の背中を叩く。
「凉一さんはここで休んでいて下さい。私とアキレウスさんで辺りを探索しますので」
「うん、頼む」
アキレウスはまだまだ元気なようで片手腕立て伏せをやっている。理由は不明である。
「ふむ、では僕達に任せたまえ! ガレー船に乗ったつもりでいたまえ」
「その表現よくわからない」
アキレウスは「ハーハッハッハ」と高らかに笑いながら村に入っていった。
遅れてアヴィーがアキレウスを追って村に入った。
陽香音村は戦前に廃村となった村で、昭和の香りが色濃く残る村だ。建物は全て木造、そのほとんどは腐食していて崩れかけている。
地面は舗装されておらず所々雑草が伸びきって家の戸口を塞いでいる。ちょっとした森だ。
「なあコボちゃん」
「コボ?」
「いやふと、冷静に考えたんだけど……アヴィーとアキレウスを二人にして大丈夫なのか?」
「おおおいええええっっ!!」
その不安が的中したのか、遠くの方でアキレウスの悲鳴のような嬉声のようななんともいえない奇声が上がった。
「……行くか」
凉一は重い腰を上げて雑草の森を歩き始めた。




