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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第二章 帝国の剣
97/218

96 観光に行こう

「ゼスト様、気持ちいいですわね」

「そうだろう?最高だな」

(お父さん!広いです、凄いです!)



日本人達と会うのは1週間後だ

そこで、近場で観光出来る場所を探したら有ったんだよ……まさか温泉があるなんてな

しかも総本山のすぐ近くで露天風呂だ、これは入らなきゃ駄目だろう


「貸し切りだから、ゆったり入れますわね」

「ベアト、俺は温泉には自重しない。権力を総動員したよ」

(ガーベラが日本人だから仕方ないって、手伝ってましたね!)


そう、ガーベラと俺の連名でごり押した

温泉だからな……我が儘を言わせてくれ


「うふふ、仕方ないですわね……でも温泉って素晴らしいですわね」

(はい、気持ちいいです!お父さんは温泉好きなんですね。お母さんより好きですか?)


「……ベアトに決まっているだろう……なんだよ、その目は」


「今、考えましたわ」

(悩みましたね?お父さん)


笑いながら、バシャバシャお湯をかけられた

温泉だから当然、全裸だ……タオルなど使わない

いや、使わせない!素晴らしい眺めを満喫しながらびしょびしょにされた

満足だ…………



あまり長風呂もよくないから、適当に出る事にする

休憩したらまた入るか……


俺達が出ると、メイド部隊が入るらしい

『美肌にいいですよ、あの温泉』

ガーベラがそう言ったときの彼女達は、目がマジだったからな

邪魔したら殺されるだろう



不気味な笑い声が怖いので、部屋に戻り休憩する事にした

泊まっているのはなかなか豪華な宿で、貴族の客にも人気だそうだ

無理矢理予約に割り込んだ……反省はしている


二人も気に入ったみたいだし今日はゆっくり温泉祭りだな、明日は温泉街の土産物でも買いに行こう

そう決めた俺達は、久しぶりにのんびりした一日を満喫したのだった



だが……ベアト達はもう入らないからと、一人で4回目の温泉に入ろうとしたときに事件は起こった



「…………メディア、何をしている」

「か、閣下……」


露天風呂の入り口で膝を抱えて泣いているメディアだ


「閣下!わたくしも露天風呂に入りたいのです!」

「……入ればいいだろうが」


「みんなと入りたいのです!」

「ああ、なるほどな」


メディアの肩を両手で掴んでハッキリ告げる


「諦めろ!」

「!?そんなっ……閣下のお力でなんとかっ!」


面倒だから、威圧付きで魔力強化しながらやったのに耐えるとは……

本当に面倒だな…………お前が女湯は犯罪だぞ?


「メディア……女湯は駄目だろう……男湯か混浴で我慢しろ」

「はいっ!ありがとうございます!」


あれ?女湯に入りたいんじゃないの?

そそくさと混浴に向かうメディアを見送る

…………何が始まるんだろうか



若干、不安になりながら混浴に向かう

男湯ならメディアの不安はないよ?だが、温泉は混浴があるならそこに行くべきだ


ベアト達はもう入らないから、露天風呂はフリーだ

メイド部隊の誰かが居るかもしれない

そんな淡い期待をしながら混浴に入って行く



洗い場に入ると、残念そうな顔の黒騎士が何人か居た


「なんだお前達、景気の悪い顔をして」

「閣下、失礼いたしました!」


立ち上がり敬礼する騎士達をやめさせる


「よせよせ、裸同士だ。貴族も立場もあるか……礼は不要だ」

「はい、助かります閣下」

「焦りましたよ、また入るんで?」

「閣下好きですなぁ……ふやけますよ?」


ワイワイ言いながら身体を洗う騎士達

適当に応えながら湯船に入って聞いてみた


「で、何であんな顔をしてたんだ?」


気まずそうに彼らは言う


「いや、ようやく女が来たと思ったら……」

「騙されましたよ」

「何でメディア隊長なんだよ……」


…………馬鹿な奴等だ

ようやくって、どれだけ待っていたんだお前等は


「気持ちは解るが……馬鹿だなお前達は」


「閣下はいいけど……なぁ?」

「そうですよ、ベアトリーチェ閣下と混浴したんですよね?」

「いいなぁ……か、閣下!撃たないで、魔法を撃たないで!」

「…………俺はトトちゃんのほうがす……ゴフッ」



危険な騎士二人を始末して、湯船でくつろぐ

はあ……最高だな


ふと、洗い場の奥を見るとメディアがひっそり入っている


「おい、メディア。気にしないで早く湯船に入ればいいだろうが」

「い、いえっ!わたくしはここで……」


パタパタ手を振るメディアの身体を包むタオルから、カランと何かが落ちた


「?……か、確保!確保しろ!」


俺の声で、あわててメディアと落下物を確保する黒騎士達

メディアが落としたモノ……


「記録の魔道具……だと?」


そう……写真のように記録出来る養父にお土産で渡したアレだ

全員の視線がメディアに集まる


「メディア……お前は…………」

「閣下……申し訳ありません。どうしても撮ってきて欲しいとメイド部隊のみんなが……」


黒騎士に取り押さえられたメディアが泣き出す

なかなかカオスな光景だ

全裸の野郎達が、女みたいな野郎を押さえ付けて泣かせている


いかん、頭がおかしくなりそうだ


「未遂だろ?見なかった事にするから、お前達も忘れろ。むしろメイド部隊に人気で良かったじゃないか、飲み会でもして親交を深めろよ?アルバートに伝えておくよ」



この気色悪い光景から逃げ出したい俺は一気に言い放ち、彼等の答えを待たずに脱衣場へ逃げ込んだ

俺は野郎の裸には興味がないから不問にしよう

身体を拭きながらそう考えていた……やれやれだ




部屋に戻ると二人はもう寝ていた

ずいぶんはしゃいでいたから仕方ないだろうな……


気持ち良さそうな寝顔を確認した俺は、イスに座り荷物を確かめる

よし、大丈夫だな

露天風呂に入るベアトの記録魔道具を見ながらニヤニヤしていた



「ふふ、やはりベアトは最高だな……家宝にしよう!」



上機嫌でベアトの裸記録を見ながら水差しから直接飲む

実物もいいが、写真も欲しいんだよ





「…………ずいぶんご機嫌ですわね、ゼスト様?」

(あ!お母さん、裸です!トトは写ってないですか?)





ゆっくり振り向くと、ベアトが懐かしい辺境伯のような笑いを浮かべていた

痛くなる胃をさすりながら床に正座する

今日は長くなりそうだ…………死にたくない…………

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