95 魔族の長
「はじめまして、精霊様、お二方。魔族の長でニーベルと申します」
大聖堂の執務室で、俺達は魔族の長と会っていた
冷蔵庫も居るが『ガーベラは今回は黙ってるの!』だ、そうだ
……只の冷蔵庫だな
背の高い銀髪の男で見た目は若いな
ガッシリとした体格の軍人っぽいイメージだな
長い髪を後ろで縛っているが、ナヨナヨした感じはしない
「さて、まずは改めてお詫びしよう。ゼスト殿、申し訳なかった……」
「いえ、こちらこそ……同胞の不始末、お詫びいたします」
お互いに詫びてから他愛ない世間話をする
そうしないと本題に入れない……まあ、お約束だな
「それで、ゼスト殿。彼等に会いたい……と?」
「そのつもりです。彼等の立ち位置を確認したい……あとは私のケジメでしょうか……」
スッと厳しい顔になるニーベル
「立ち位置は心配でしょうが、ケジメですか。罪悪感をお持ちか……まだ日本に居るつもりでいらっしゃるのか?」
……ズバリ言われたな
「日本という法治国家ならば、なるほどその通りでしょうな。倫理が優先される素晴らしい世界だ。だが、この世界は違う。力がなければ生きて行けません。武力・財力・権力……どれもないなら、あるものに従う。それがこの世界です」
確かにそうだな……貴族社会なんだからそうなるな
紅茶を飲んでからニーベルは言った
「召喚されたのは不幸な事ですが、我々には関係ない。保護はしたがそれは厚意からだ、批判される覚えはない。違いますか?」
「……魔族の方々はそうでしょうね」
「あなたもです。あなたは彼等の何ですか?保護者ですか?親ですか?上司ですか?……違いますね、他人です」
「確かに……他人ですね」
慰めてくれているんだな
お前は悪くないと……自分の身を守るのを優先するのが当然だと
「ふふ、優しい世界だったのでしょうな。日本という国は」
先ほどまでとは違い、柔らかな表情で続けた
「優しさは美徳ですが、この世界では優しさはときに弱味になる。気をつけてください」
「お言葉、かたじけなく」
「いえ、あなたも解っている筈ですね……日本人達と会う機会は用意しましょう。あなたが何故会いたいのか確認する必要があったのです、長くなって申し訳ない。それと少し時間をください、情報がもれたら危険です」
気をつかわれたな……やれやれ
こちらの悩み事なんて、お見通しか
その後の話し合いで、日本人達と会うのは1週間後になった
場所はここ、大聖堂の執務室
巡礼の信者に偽装してくるそうだ
手が込んでるよな……それだけ異世界人が危険な立場なんだろうな
「ゼスト殿、これだけは言っておきます。我々はあなたと敵対するつもりはない。我々の役目は……いや、これはまた後程……」
帰り際に言い残したニーベルの言葉が気になった
役目か……そこに秘密があるんだろうな……
だが無理に聞き出す必要はないな、彼ならきちんと説明するだろう
今は話せないなら理由がある筈だ
こうして魔族の長、ニーベルとの面談が終わった
ずいぶん想像とは違う魔族だったが、あれなら仲良くやれそうだ
念のため警戒はするが味方と見て大丈夫だろう
……安心したよ
「お疲れ様でした、ゼスト様」
(お疲れ様でした、お父さん!プリン3個も食べました!)
「ああ、ありがとう。お腹が破裂するぞ?トト」
部屋に戻りゆっくりとくつろぐ
トトを定位置の肩に乗せて撫でてやる
「あまり考え込まないでくださいね。これから出来る事をすればいいと思いますよ」
「ああ、ニーベル殿にも言われたからな。解っているつもりだ」
「もうっ!つもりではいけません、解ってください!」
ポカポカ俺の胸を叩くベアトを撫でる
ベアトも心配性だからなぁ……
魔族も味方のようだし、だいぶ気持ちは楽になっている
「そうだな、もう大丈夫だよ。心配かけてゴメンよ?」
「……なら、許してさしあげますわ」
(あ~、トトねむくなった~ねようねよう)
棒読みのトトが寝室に消えて、ベアトにキスしながらゆっくりとソファーに押し倒す
…………よし、アルバートは来ないな
念のために縛ってトイレに転がしておいたから大丈夫だろう
「あの……ここで……ですか?」
「駄目かい?ベアト」
「駄目では……ないですが、恥ずかしいです」
恥ずかしがるベアトのドレスをじっくり時間をかけて脱がして…………
(お父さん!お母さん!大変です、大変です!)
いい感じに半裸の俺達のところに、下着姿のトトが飛び込んできた
どうしたんだ!なんだ、何事だ!?
驚きながらも大事な部分を隠す
……残念だがベアトも隠していた
「どっ、どうしたの?トトちゃん」
「何事だ!?敵襲か?」
エグエグ泣いているトトが、悲壮な顔で告げた
(赤ちゃんが出来ました……トト、赤ちゃんが出来ました!)
「「トト、それは食べ過ぎ」」
パンパンのお腹をさするトトは納得せず、いつまでも……いつまでも泣いていた…………
勿論、今日は無しになりました…………俺が泣きたいです