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異世界人の手引き書  作者: たっくるん
第二章 帝国の剣
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94 突然の知らせ

「さあ、どうして欲しいか言ってごらん?ガーベラ」

「は、恥ずかしいのぉ……」


「恥ずかしくはないだろう?ここをこんなに濡らして……」

「!?そこはっ!……ダメなのぉ……」


「ほら、ちゃんと言ってごらん?」

「…………して、ほしいの」


「何をしてほしいんだい?」

「…………し…………」


「し?」



「霜取りしてほしいの!!」



ドアをバタンバタンさせながらガーベラが暴れていた

5年程前からしていなかったらしく、なかなかの霜具合だった


恥ずかしがる冷蔵庫というレアな物を見て満足したので、しっかり霜取りをしてやる


「はあぁ、上手なの。気持ちいいのぉ」


コンプレッサーをブオンブオン唸らせて喜ぶガーベラ

だんだん音で感情がわかるようになってきたな

……冷蔵庫の感情がわかるとか、頭が痛くなるセリフだけどな



「よし、終わりましたよ。教皇……ガーベラ」

「そうなの。二人のときはガーベラなの!ありがとうなの、スッキリしたの」


上機嫌の冷蔵庫と仲良く執務室でお茶にする

まったく『二人きりで話がある』って呼び出されて、用件は霜取りかよ……


自分でいれた紅茶を飲みながら休憩だ

初めての経験だったし、気分的に疲れたわ


「そうだ、呼び出した用件を伝えるの!」

「……霜取りじゃないのか」


「違うの!みんなから伝言があるの!……他の日本人達は保護している。心配はいらないが、やむを得ず7人のうち4人は帰らぬ人になった。残念だ…………なの!」


「…………え?」



みんなから伝言だと?それに他の日本人……だと?

混乱している俺に構わず続けるガーベラ


「えっと……細かい理由は手紙があるの。あと、残りの日本人達は元気だから大丈夫なの」


ドアをパタパタする冷蔵庫が何か言っているようだが、イマイチ理解出来ない


「すまないが、休ませてくれ」


なんとかそう絞り出して手紙を持って用意された部屋に帰った



部屋に着くなり、すぐに手紙を確認する


『まずは君の同胞4人を死なせたことを謝りたい。

すまなかった……謝って済むとは思わないが理由を言わせて欲しい


辺境伯ラザトニアから日本人達を預かった我々魔族は、丁重に彼等をもてなした。

勿論、日本人達にあったもてなしだ。

我々にも日本人のしきたり等は伝わっているから、問題ない筈だ。

だが、4人……女性2人と男性2人は、異世界に来たと受け入れられずに、子供や女性を人質にしたのだ。

だから彼等を殺した。


残りの3人については、異世界に来たことを受け入れて静かに暮らしている。

日当たりの良い個室に住んでもらい、衣食住は不自由させていない。

勿論、暴行や差別もしていないと断言する。

我々は争うつもりはないのだから。


最後になるが、君が希望するならば彼等と会わせよう。

ガーベラに伝えるといい、すぐに手配する。


魔族の長ニーベルより…………異世界よりの来訪者へ』



…………日本人達の中の4人は死んだ

残りは3人……希望するならば会わせようか



どれくらいそうしていたのか

気が付くと手紙を握って座っている俺の肩を揺らす者がいた


「ゼスト様!?ゼスト様!」


「ベアト?」


目に涙を浮かべたベアトが必死に肩を揺らしていたのだ


「どうしたんだい?」

「どうしたじゃありません!ゼスト様、大丈夫ですか?なぜそんな顔で泣いているんですかっ!」


……泣いている?俺は泣いてるのか?

揺らされている拍子に手紙が落ちる

その手紙を拾い上げたベアトの顔色が変わった


「これが原因ですわね……」

「……ああ」



俺は見殺しにしたんだ

この世界に来てすぐに、自分が生き残る事を優先したんだ

確かに一緒に召喚されただけの他人だ……関係ないといえばその通りだ


だが、見殺しにした事さえ忘れて俺1人生きてきた

それを今更、会うだって?どんな顔で会えというんだ

『今更何しにきたんだ』

そう言われるに決まってる……



ガタガタ身体が震えるのが恐怖なのか、それとも罪悪感なのかわからない

だが、震えるのは止まらなかった



突然、目の前が真っ暗になる


「ゼスト様、どうされました?彼等に責任を感じているのですか?」

「……たぶん、そうだと思う。怖いんだよベアト」


ベアトに頭を抱きしめられながら呟いた


「ふふ、ゼスト様にも怖いモノがあるのですわね。何故ゼスト様が悪いのですか?彼等はお知り合いですか?」

「知り合いじゃないさ……でも、彼等を見殺しに……」


「それは違います。見知らぬ世界に来てゼスト様は生き残る為の努力をなさいました。彼等はどんな努力をしたのですか?」

「……それは解らないが、俺には力が……立場が……」


抱きしめる力を強めたベアト


「違います。それはあなたが頑張って勝ち取った結果です。それに頼るのは甘えです。彼等がお願いするならまだしも、要求するのは筋が違います」

「…………」


「どうしても気になるのでしたら、会ってみればいいのです。それからこれからを考えましょう?」

「……ゴメンなベアト。情けない夫だな……」


泣きながら抱きつく俺の頭を、子供をあやすように撫でる


「わたくしには、あなただけなんですよ?たとえ大陸中があなたを責めても、わたくしはあなたの味方ですから」


そういって微笑むベアトに、俺は年甲斐もなく泣き付いていた

ベアトに甘えて散々泣き付いた……いつまでも…………





「ベアト、会ってみるよ……」

「ええ、ご一緒しますわ。どこまでも」




すっかり夜になって泣き止んだ俺の頭を撫でるベアト

情けない俺でも受け入れてくれたベアト

改めて思うな……俺にはベアトが居ればそれでいい

今ならハッキリ言える『お前達を見捨てて彼女を選んだ』ってな

ベアトの為なら俺も大陸中を敵にする……もし、日本人達が邪魔なようなら……



ソファーに二人きりで座りながら、窓から見える夜空を見つめる

赤い満月が、俺の決意を後押しするかのように光っていた





(お父さん、お母さん。赤ちゃんプレイは終りました?トトはおトイレ行きたいです……)



「「トト、誰に教わったの?」」



たまにはカッコよくまとめたい

そんな野望が崩れ落ちた瞬間だった…………



台無しだよっ!!

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