90 教皇の返事
偽乳二人が異様な存在感を出している執務室
そこは最早、戦場といってよい雰囲気だった……
「とっ、ところでシスター。ご用件は?」
「はい……実は教皇より内密のお手紙を預かっております」
いつものように胸から手紙を取り出すポンコツ
…………見間違いだろうか?左右の乳の大きさが違う
手紙を取り出した右の乳がしぼんだのだ
「内密のお手紙とは……穏やかではありませんなぁ」
「いえ、神を欺くようなお手紙ではなく……新緑を愛でる精霊が泉に揺れるようなものです。つまり、雲を見上げて大地を走る子羊なのです!」
まともな会話は終了しました
いつものポンコツシスターが帰ってきたよ……カタリナ、口を開きながら胸を見るな胸を
曖昧な笑顔で手紙を受け取る
「確かにお預かりする。シスターには手間をかけましたな」
「いいえ、わたくしは神の弟子として修行をつむ者です。全ての出来事は受け入れるべき試練……神のご慈悲なのです!」
じゃあ、胸は何故受け入れないのか問い詰めたい……
用件はそれだけだと帰ろうとするポンコツにカタリナが仕掛けた
「シスター、その胸は何で左右の大きさが違うニャ?」
「「!?」」
こいつ……地雷を踏み抜いたぞ……
ポンコツは何でビックリしてるんだよ、そりゃ左右で違うんだから疑問だろうが
「……この中には神の慈愛が詰まってます。ですが修行が足りない我が身を恥じ入るばかりです……何故……神はこんな過酷な試練を……」
「シスター……あなたも辛いんですニャ……」
「…………あなた…………も?」
「私も…………試練を受けてますニャ……」
驚きでなのか、まともな会話をするポンコツシスターに驚く俺
更に追い討ちをかけるようにカタリナが胸をいじる
「それは!?」
「そうですニャ……パンですニャ……」
苦悶の表情をしたカタリナの手に握られたパンが二つ
胸はもうなかった
「なんて罪深い事を……いえ、それでも神はあなたをお許しになります!ですがパンを無駄にしてはなりません」
「シスター……私はどうすれば?」
「そのパンは恵みなのです!無駄にせず飢える者に分け与えるのです。ならば無駄になりません!」
「シスター!?」
俺はいつまでこの茶番劇を見ていればいいのか……
抱き合う二人を黙って見つめる
ある意味、宗教的な説教だから叱れないし不敬でもない
実に面倒である
だが彼女の登場で二人は固まった
「ゼスト様、そろそろ休憩に……あら、シスターどうなさいましたの?」
戦闘力Eカップのベアトである
「なん……て……威力だニャ……」
「神よ……この試練はわたしには…………」
フラフラと真っ青な顔で二人は出ていった
厳密にいえば不敬かも知れないが咎めるのは無理だな
『あまりの乳に心が折れました』
こう言われたら面倒だからスルーした
「?……あの二人はどうしましたの?」
「ベアト……そっとしておこう」
手紙を取り出しお茶にする事にした
付き合いきれないわ
「なるほど、そんな事が……」
(あはは、パンは胸じゃないです!)
紅茶を飲みながら困惑するベアトと笑い転げるトトに説明を終えた俺は手紙を確認する
一通目は来国の許可で、二人に旅行に行けると伝えると大喜びだ
もう一通は……やはりだった
『我がライラック聖教国はシスターが多い。祈りのポーズで胸が支障になるのは重大な問題である。費用は用意したから、ぶらじゃーを頼みたい……宗教的な理由で』
こうしてブラジャーはライラック聖教国に輸出される事になった
公爵領地の高級品『精霊のブラジャー』は、益々女性の支持率を上げているらしい
量産品なら他でも作れる……だが、『精霊のブラジャー』クラスは黒騎士達の武具を担当するドワーフの協力がなければ作れない
辺境伯領から連れてきた超一流の職人業でブラックウルフの尻尾を微調整しないといけないからだ
「武具じゃない乳の装備なんぞ作れるか!」
と、最初は怒鳴っていたドワーフ達だが
「微調整しないといけないの……ほら触ってみてくださいな、ここが当たってちょっとおかしいんです」
「…………調整なら仕方ないな、どれどれ」
乳の魅力には勝てなかったようだった
メイド部隊は鎖帷子の調整で慣れているから、職人に触られても気にしない
ガンガン触らせて確認させてドワーフ達の職人魂に火をつけた
「!?こんなに変わるのか!」
「おお、まさに激変するのぅ!」
「これは気合いを入れねば」
「あぁ?武具の依頼だ?ちょっと待ってろ、こっちが先だ!」
こうした斜め上の努力で『精霊のブラジャー』が誕生した
…………儲かるからいいんだけどさ、俺の領地は何処に向かうんだよ
「でも旅行に行けるのは楽しみですね、わたくし何だかドキドキしますわ」
(みんなで旅行!トトも楽しみです!)
「そうだね、旅行に行ける事になったんだ。まずはそれを楽しまなきゃね、ありがとうベアト、トト」
考え込んでいた俺に気を使ってくれたんだろう二人には感謝だな
「もう一通は……ブラジャーの催促だったよ」
「……それはそれは」
(またパンを詰めるですか?)
カタリナを一通りネタにし終わり、旅行の予定などを相談している
総本山の大聖堂は外せないらしく二人に必ず行くように念をおされた
他にも珍しい食べ物や、綺麗な泉なども有るらしくワイワイ楽しく過ごす予定を話し合う
そんな家族の一時に乱入してくる無粋な奴は、やはり居るのだとしみじみ感じた
「閣下!胸を鍛える新装備、ブラジャーを我等にも!!」
「アルバート、貴様は着けるんだな?」
「アルバート、ハウスですわ」
(駄犬はパンを詰めるですか?)
尻尾を振りながら見詰めるアルバートだが、その後泣きながらドワーフ達にオモチャにされる事になる…………




