85 訓練と教育
『軍事訓練だと報告が来るまで生きた心地がしなかった
ツバキの事で迷惑をかけたのは本当にすまなかった
だから勘弁してくれ、公爵家にも辺境伯家と同じように配慮する事を約束する』
半泣きの宰相が持って来た手紙である
帝都では多数の貴族が逃げ出して、後始末に大忙しらしい
「婿殿、たまには釘を刺さんと勘違いするからのぅ。さじ加減はそのうち覚えれば良いわ」
従うだけなら簡単だが、すると良いように使われる
逆らうのではなく、プレッシャーはかけろとは難しい注文だな
「精進いたします」
「ふぉふぉ、ワシが生きているうちに覚えれば良いわ。まだもう少しは生きているじゃろうからな」
「私も居るからね、頼ってくれて良いんだよ」
辺境伯、師匠……ありがとうございます
この辺りのやり方はまだまだ未熟だからな
二人に教わろう……今の立場でやるべき事を
訓練が終わり領地へ帰る事になるが、まっすぐ帰れと言われた
「これ以上は刺激せんで良い、あまりワシらと居ると本気で陛下が腹をくくりかねん。程々が一番じゃよ」
「ですね、そこを見極めないと面倒ですからね」
ニタァっと笑う二人に別れを告げて領地へ帰る
本当に味方で良かったよ……あの二人は
久しぶりに養父にも会いたかったが仕方ないな
手紙でも書いておこう
帰りは順調だったがアルバートがやらかした
「閣下、ターセルが覗かれました!」
「おい、メディアを止めろ死ぬぞ!」
「衛生兵はまだか!」
…………何があったし
ボコボコのアルバートに話を聞いたらこうだ
出産後に復帰したターセルだが、母乳が出るのでテントで拭いていたらしい
そこにアルバートが来て後ろ姿で男だと思い、何があったのかと声をかけた
振り返るターセル、たまげるアルバート、上がる悲鳴、飛び散る母乳
そんなカオスな修羅場にメディアが乱入
物理的な話し合いが始まったらしい
ターセルは顔を赤らめてアルバートを睨んでいる
だが見かけは男なんだ
男が顔を赤らめて男を睨む危険な雰囲気に耐えられない
「話は解った……事故だから仕方ないだろうが……」
半ば適当な俺の言葉にメディアが食ってかかる
「ならば閣下、ベアトリーチェ閣下が事故でアルバートに覗かれたらどうしますか?」
「ははは、当然死刑だ。例外は無い」
アルバート……そんな目で見るなよ……
「んんっ、冗談だ。事故ならば咎めたりしないさ」
アルバート、悪かったよ……泣くなよ……
メディアもそろそろ勘弁してやれ
「ターセルだって男に間違われたならむしろ嬉しいだろうが。メディアも機嫌をなおせ、アルバートは覗きなどするような奴じゃない。私が保証する」
「閣下がそうおっしゃるなら、わかりましたわ」
「……はい、かしこまりました閣下」
「閣下……私を信じてくださるのですか?」
若干涙目のアルバート
馬鹿な奴め
「当たり前だろうが、お前はそんな卑怯ものではない。何より母乳には興味が無いだろう?あの絶壁ポンコツシスターの胸の匂いを嗅ぐくらいだし、無いのが好きなんだろ?」
「……アルバート卿」
「なんと罪深い趣味だ……」
「なっ!?閣下、あれは毒の確認を……」
ははは、と皆で笑いながら丸くおさまった
…………筈だった
「アルバート様は…………そんな趣味が…………」
「め、メリル!?何故ここに…………」
まさかの妻乱入により、アルバートは更に地獄を見る事になった
そんな楽しいイベントをこなしながら領都に着いた
仲直りしたアルバートがメリルとイチャイチャしていてウザいが我慢する
俺もベアトともうすぐ会えるからな
ニコニコしながら館に入るとトトが飛んで来て肩に座る
(お父さん、おかえりなさいませ!)
「ただいまトト、変わりないかい?」
頭を撫でながら聞く
もうトトの頭を撫でるのは反射だな、流れるように出来るよ
(はい!お母さんがツバキの教育してます!)
「…………ベアトに任せれば安心だね」
(お母さん張り切ってます!)
「……そうか」
(乙女の秘薬も2壺目ですから、ツバキもいい子になってきました!)
聞かなきゃ駄目かもしれないなぁ
「乙女の秘薬って……どんな物なんだい?」
トトは満面の笑みで答えてくれた
(専用のスプーンですくうと口の中に飛んで行くです!絶対に避けられないし吐き出せないのろ……オマジナイ付きです!)
……今、呪いって言いかけたよな?
(味見したソニアおじちゃんが昔のお母さんのお弁当を超えたって感動して寝てました!)
トト、それは気絶だよ……あと感動はしてないよ?それ
俺じゃなくて本当に良かった
そう思いながら執務室に入ったのだった




