84 花嫁修業なら仕方ない
「ツバキ皇女……いや、ツバキが我が娘として嫁ぐ事になり領地で花嫁修業をする事になった。皆……解ってるな?」
「はっ!公爵家の娘として恥ずかしくない方になっていただきます!」
「花嫁修業なら仕方ないニャ、長命なエルフにふさわしい女子力をつけて貰うニャ」
「メイドのたしなみの素振り1000本から始めましょう」
「公爵家ですからな、最前線で生き残れないと駄目でしょう」
メイドって素振りするのか?
やたら気合いの入るメイド部隊と黒騎士達に軽くビビりました
盛り上がる脳筋達を会議室に残して執務室へ帰る
何やら『女子力養成装備』とか不穏なセリフが聞こえたのは気のせいだろう
「あら……おかえりなさいませ、ゼスト様」
(おかえりなさいませ、お父さん!)
「……た、ただいま二人とも楽しそうだね」
瞳から光が消えているベアトはゴリゴリ何かを削り、壺に溜め込んでいる
トトは焦点の合わない目で虚空を見つめながら壺に魔力を注いでいた
黒い何かが立ち上る壺にお札が貼ってあるのは見間違いだろう
机に手紙を広げて読み始める
『婿殿、他国に嫁ぐ前に公爵家と辺境伯家を舐めるとどうなるかはしつけなければならん。【よろしく】頼む』
よろしくが強調された辺境伯の手紙をしまい、二人をチラリと見る
笑顔の絶えない作業を続けているようだ
震える喉に強化魔法を全力でかけながら聞いてみる
「……それは何を作っているんだい?」
「ゼスト様、乙女の秘薬ですわ」
(女の子の秘密!)
「なら……仕方ないね」
執務室でいつまでもゴリゴリとウフフフフフフフフが響いていたのだった……
ほ、程々にね?
ツバキと辺境伯が到着したその日、都の入り口で出迎えたのだが…………
12~3の子供相手だから、ちょっとおどかしてビビったらおしまいにしよう
そう思っていたんだ…………最初は…………
「こんな田舎まで来るなんて……とんだ迷惑ですわ」
「ええ、姫様には相応しくありませんわ」
「ちょっとあなた!あまり姫様には近付かないで」
ツバキの専属侍女達の香水が鼻につく
「あら、ゼスト様?気が利きませんわね。わたくし疲れておりますの。見て解りませんか?まあ、仕方ありませんわね。戦争だけが得意な方ですし」
ツバキはこの2年程で立派な馬鹿お嬢様になっていた
「婿殿、真面目な話じゃ。教育せんとアレは不味いのぅ……策略家になっていたと思っておったが、我が儘をこじらせただけじゃったのぅ……」
苦い顔の辺境伯
皇族だからと能力を高く見たら、実はコノザマである
「アルバート、侍女達は帰らせろ。邪魔だ」
「はっ!ただちに!」
ギャーギャー騒ぐ侍女達が馬車に放り込まれてドナドナされていく
『わたくしはなんたら伯爵の娘で』とか騒いでいたが知るか
本人を連れてこい
ポカーンとするツバキにハッキリと告げた
「今日からは私の娘だ、公爵家の娘らしくなって貰う。返事は『はい』か『解りました』だ」
「……こ、こんな不敬をお父様が知ったらあなたは」
そこまで言って固まるツバキ
それはそうだろうな、黒騎士とメイド部隊が殺気を込めながら囲んだからな
「私が養父だ、諦めろ。陛下も納得済みだろうな……わざわざこちらに寄越したのは」
「じゃな、養子にするだけなら帝都で済むわ……やれやれ、帝都の貴族共は使えんのぅ。奴等の仕事じゃぞこれは」
ちょっと陛下に押し付けられ過ぎだな……
後で辺境伯と相談するか
「ベアト、花嫁修業は任せた。よろしく頼むよ」
「ウフフフフフフフフ喜んで」
(くさい!ツバキくさくなってる!洗わなきゃ!)
……あれ?トトは香水苦手だっけ?
臭くは無いと思うがなぁ
メイド部隊に担がれてドナドナされて行くツバキを見送り辺境伯と執務室へ向かった
皇帝陛下への軽い嫌がらせの相談だ
「まさかツバキがああなっているとは、帝都は何をしておるんじゃ……」
「驚きましたよ、あれじゃあ結婚しても取り込みは……」
「無理じゃな、陛下に押し付けられ過ぎじゃのぅ。ちと釘を刺すか?婿殿」
ニヤリと懐かしい身震いする笑みで続けた
「ワシと婿殿が合同で軍事訓練するだけじゃよ、帝都の側でのぅ。訓練なら問題無いじゃろ?向こうはどう思うかは知らん」
こうして公爵家と辺境伯家の合同訓練が始まり、帝都は反乱かと震え上がる事になる




