81 貴族のやり方
「ゼスト様という婚約者がありながら……」
(なめてますよね、お母さん……)
「……ま、まあまあ……」
怒り狂う二人の頭をひたすら撫でる
後ろで何か倒れたな……諜報部隊だろう……死ぬなよ
二人の話を聞くと
『エルフの王子が外交の為に帝国へ来たが、ツバキ皇女に一目惚れした王子がいきなり求婚
婚約者が居ると説明するも、側室では無く正室にするので是非にと頼み込まれる
ツバキ皇女は満更でも無いらしいが皇帝陛下は困った
俺に相談出来る筈も無く辺境伯に相談するがベアトにバレてコノザマ』
良いような悪いような……
さて、落としどころは何処だ?
「話は解った……ベアトにトト、私は怒っていないし悲しんでもいないよ?」
「……そうですの?」
(お父さん、嫌じゃないんですか?)
少しは魔力が静かになる
「ベアトやトトが居なくなるとしたら、私は全てをかけて戦うし怒るさ……でもツバキ皇女は政略結婚の相手として選ばれただけ……私は気にしていないよ?」
「ゼスト様がそうおっしゃるなら私は……ですが、それでは公爵家として……」
(ツバキはお母さんと私とも仲良くしてたのに……)
ふむ……
ベアトは貴族の体面が心配なのかな?
トトは貴族だからというのは納得しないか
ベアトの手を握りながら目を見て話す
「ベアト……貴族の体面なら私が何とかする。私が心配なのはベアトの気持ちだ、政略結婚を納得してたのかい?ツバキ皇女と結婚した方が良かったかい?」
「……貴族のベアトは納得しました。でも、わたし個人としては……嫌……でした」
真っ赤になりうつむくベアト
そうだよな……貴族だからと簡単には割り切れないよな
まだ10代のベアトに甘えて馬鹿な奴だな俺は
「ごめんね?甘えてしまって……ベアトをもう泣かせないよ。約束する……俺にはベアト以外の妻は要らない、腹を決めたよ」
「……ふふ、『俺には』ですか。初めて聞きました」
(あ~おかしたべたらねむいな~ねようねよう)
トト、そこは黙って居なくなれば良いんだよ?
棒読みはやめなさい
日本人が無理して自分の意見を通すなんて出来ない世界だ
そう思って甘えていたのか俺は……
確かに無理しては意見が通らない
なら、無理しないで通すように手を打つ
この異世界で一人だけの大切な女の子の為に
俺はこの日改めて誓ったんだ
この世界の住人として生き抜くと……
どんな手段を使ってもためらわないでベアトを守ると
キスをして頭を撫でると、ベアトがようやく笑ってくれた
そう、この笑顔を守るんだ……
そして二人はゆっくりと重なっていった…………
(昨夜はお楽しみでしたね!)
「「トト、誰に教わったの?」」
アルバートをボコボコにした後に、俺はある場所へ向かっている
トトに余計な入れ知恵しやがって
「ひゃっひゃ、みゃもみゃふほうひゃふひまひゅ!」
多分もうすぐ到着だと言っているのだろうアルバート
馬鹿な犬である
「まさか、そんな手を使うなんて……」
(お父さん、私も手伝いますね!)
俺の考えを二人は認めてくれた
……やるしか無い
これなら陛下も納得してくれるし、貴族達も文句は言えない
到着した俺達は彼女に会っている
ツバキ皇女と婚約解消してベアトと二人で居る為に
「お待ちしておりましたわ、ゼスト公爵閣下にベアトリーチェ公爵閣下……そして精霊様、お初にお目にかかります」
胸の前で両手を合わせる祈りのポーズをする女性
「シスター、久しぶりですな。今日はお願いが有りましてな」
「まあ、ゼスト公爵閣下が願いなど……どのような?」
「ツバキ皇女殿下と婚約しているのですが、それについてシスターの説法をうかがいたいのですよ」
このポンコツシスターに理由を作って貰う
…………うまく…………いくよな?